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牽牛と織女 (Fairy Tales epi.2夏候惇)

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「夏候惇様、いらっしゃいますか? 曹操様が、書簡が見つ……かった、と、仰っ…て……」
「!!」

 突然書庫の扉が開き、薄暗かった室内に光が指す。開けたのはどうやら夏候惇配下の武官だったが、その彼の張りのあった声も段々と萎んでいく。おそらく彼からはどう見ても自分の上司がその恋人に迫っている図、にしか見えないし、実際そうなのだから弁解のしようがない。一人は直立不動で、一人は壁に押さえつけられて、一人は顔を近づけて。そのままの体勢で固まった三名は、しばし時を止めた。

「…………」
「…………」
「…………っし、失礼しました!!!」

 一番早くに我に返ったのは、当然というか武官の男だった。顔を赤くさせて、脱兎の如く逃げていく。その後も暫く二人は固まったままだったが、夏候惇がぽつりと漏らした。

「……扉を閉めていけ」
「そこなの!? 違うでしょう!? み、見られちゃったじゃない!」
「だからどうした」

 関羽の全力の抗議にも、夏候惇はどこ吹く風だ。なにしろ関羽とは軍では殆ど公認状態の恋人同士なわけで、互いに想い合っている以上やましいところも後ろめたいことも何もないがゆえに、夏候惇は別段こそこそしようとしない。それは関羽にとっても喜ばしい態度ではあるにはあったが、だが、現場を見られるのは別問題だった。

「さっきの彼、貴方の部下でしょう……! わたしも顔を知ってるのに、これからどんな顔して会えばいいのか……」
「普段通りにしていればいいだろう。何もやましいことなどないのだからな」
「そういう問題じゃないの! というか今は昼間よ、こんな時間から……」
「睦みあうな、か?」
「っ!!」

 折角代弁してやったというのに、いざはっきり言われると駄目らしい。関羽はそれきり口を閉ざすと、つんとそっぽを向いた。羞恥のためか潤んだ瞳があまりに艶めかしく映って、夏候惇は一瞬息を呑む。息をゆっくり吐くことでなんとか熱をやり過ごし、関羽に呼びかけた。

「……おい。こちらを向け」
「……嫌よ」
「いいから向け」
「嫌って言ってるじゃない」
「……関羽」