こらぼでほすと ニート8
お金で寺で世話してくれる分は受け取って、と、リジェネがニールに言ったら、大笑いされた。
「そんな大層なことはしてねぇーからいいさ。」
「でも、ハイネも三蔵も労働で返せって言ったよ? 僕、草むしりとかしたくない。」
「したくないなら好きにしてればいいよ。俺からハイネと三蔵さんには言っておく。ただし、リジェネ、三蔵さんは呼び捨てにしないこと。あの人は、ここの主人だからな。おまえさんは寺で過ごすんだから、滞在許可くれてる三蔵さんには敬意を見せておくべきだと思うぜ。」
「・・・わかった・・・・」
で、ニールはバイトに出かける面々を送り出して、風呂の掃除をしている。リジェネは、何もしなくていい、と、言われたものの、ママの観察はしたいから脱衣所から、その様子を眺めている。大きな風呂の浴槽を洗って、タイルを磨いてざっと水をかけたら終わりだ。後は、風呂の水を張ってタイマーをセットしておく。それから、今度は各人の着替えを脱衣所に用意する。畳んでいた洗濯物の中からパジャマだの下着だのを取り出して、脱衣所の籠に入れておく。後は、タオルとバスタオルを補充しておけば完成だ。
それから布団の準備だ。三蔵と悟空はベッドだが、夏場は毎日、シーツも取り替えるので、ベッドメイキングもする。さらに、脇部屋もリジェネが休む客間も布団を敷いて、いつ帰ってきても寝られるように準備される。こういうことは機械が全部やってくれていたので、リジェネも知らなかった。
「ハイネ、おまえさん、出勤しなくていいのか? 」
居間で、ペーパーバックを読んでいるハイネに声をかけて、ようやく卓袱台前に座り込む。
「予約が少ないからいらんとさ。明日は、一緒に出勤してくれるか? ママニャン。」
「ああ、それはオッケーだ。トダカさんの手伝いなら、早めに出るよ。」
「そうなんだ。シンとレイが本業のほうが忙しくてさ。オープン準備をトダカさん一人でやってるから、応援頼む。・・・・それから、漢方薬を飲め。食間のがあっただろ? 」
「わかってるよ。メシどーする? 」
「適当でいい。」
ハイネの注意で、うっかり忘れたふりをしていたニールも冷蔵庫から漢方薬のペットボトルを取り出して、一気に飲む。とりあえず、体調を維持させておくのが、ニールの仕事でもある。
「漢方薬って何? ママ。」
漢方薬なんて言葉は、リジェネも知らない。ヴェーダを検索すれば判明するだろうが、そこまでのこととも思えなくて質問した。それに、なんであれ、ママと会話したい。
「うーん、なんて言えばいいのかな。大まかに言えば、自然界のもので作られた薬だ。極東では、昔から使われている薬なんだそうだ。俺の身体あっちこっちガタがきてるから、それで体調を維持してもらってる。」
「今の特区じゃ材料も揃わない代物なんだろうな。三蔵さんとこの本山のほうで作ってる薬だ。成分やら材料は内緒。判明すると、ママニャンが顔色を変える可能性が高い。」
付け足したハイネの言葉に、「なにぃ?」 と、ニールが声をあげる。内容物が怖すぎて、ニールも見て見ぬフリをしているが、やはり、そういうものが入っているらしい。
「いや、俺が調べたのは一般的なヤツだぜ? ママニャン。おまえさんのクスリに含まれているかどうかは知らないが、まあ、ほんと、凄いぞ、漢方薬っていうのはさ。」
例えば、ミミズの粉末は解熱効果があるし、鹿の角は滋養効果が高いと、ハイネが調べたことをつらつらと上げたら、それだけでニールの顔色は悪くなる。何が入っているのか知らないが、まあ、そういうことだ。自然界のモノなのだから、生物、植物よりどりみどりに含まれている。ハイネもデータを読んで、うわぁーと退いた。効能かあったとしても口にしたいと思うものは少ない。今、言葉にしたのもマシなほうのブツだったりする。
「爾燕が作ってる滋養スープって、そういうものの一種なんだ。あれは、松の実とかクコの実とか黒い鶏の肉とか、そういうものだけどな。」
「あれは、それほどクスリ臭いって思わないぞ。」
「そりゃ、店でお客さんに出すものだから味も良いように調整してあるんだと思う。冬虫夏草は入ってるけど、本体はスープに入れて出さないしな。」
「とうちゅうかそ? 」
「虫の体内に寄生するキノコらしいが、冬を虫の体内で過ごして夏には、体内から発芽して虫本体を食い尽くすってヤツなんだとさ。昔は、不老不死のクスリだと思われていたらしい。」
読み物としては面白かったが、さすがに実際、食してみろと命じられたらハイネも断固拒否するだろう。ニールは、かなりいろいろなものを知らずに食べさせられている可能性が高いのだが。
「それ、何度か飲ませてもらったけど・・・・」
「うまかっただろ? 」
「・・ああ・・・・」
「美味いのもあるんだよ、ママニャン。今度、爾燕に聞いてみろ。坊主が塀を飛び越えて飲みに来るって名前のスープもある。」
薀蓄垂れのハイネは、そういうことに詳しい。諜報関係で世界を飛び廻っているから、ついでに知識を身につけている。
「ハイネ、それってママの身体には効果的なの? 」
「ああ、効果は高い。なんせ、ママニャンが飲んでるのは、三蔵さんが本山の上司に都合してもらったものだからな。効果は抜群だ。化学療法の製薬よりも、ママニャンには効いてる。」
「三蔵の本山って? 」
「三蔵さんの本拠地は特区じゃなくて、別のとこにある。そっちの寺院の管理が本職だ。だから、一年に一度か二度、そっちの仕事で本山へ帰る。坊主っていうのは所属する宗派によって本拠地が違うからな。」
宗教というのはイノベイドには理解できない代物だが、一般教養としては理解している。極東は多神教の宗教が多いので、大きく仏教とか神道とか分かれていてもややこしいくらいに宗派がある。なるほど、そんなところに所属している人間なら、リジェネたちのデーターベースに情報が少ないのもわかる。
「僕には宗教というのは、よくわからないな。」
「俺も、さっぱりわかんねぇーよ。うちはキリスト教だけど、ちょっと特殊だったしな。」
「特殊って? 」
「うちはキリスト教とケルトの土着宗教がくっついているんだ。だから、特区の宗教に近いらしいよ。」
「ああ、ママはアイルランドの出身なんだったね。」
データに残るニールの経歴は把握している。私怨を優先し組織を裏切った愚か者と記されている。事実は、そうなのだろうが、それだけではない。今なお、裏切ったはずの組織のマイスターたちや実働部隊の人間から慕われている。常識的に考えて裏切ったのなら、そんなことにはなっていないはずだ。
「俺のデータも掌握してんのか? 」
「ティエリアとリンクする前からね。・・・・でも、ママほどデータと違うイメージの人間っていうのは珍しいと思う。組織を裏切って私闘に集中して亡くなったっていうから、もっと暗い怖いイメージだったんだけど、ティエリアのイメージするママって明るくて温かいんだよ。もしかして二重人格?」
「そんな大層なことはしてねぇーからいいさ。」
「でも、ハイネも三蔵も労働で返せって言ったよ? 僕、草むしりとかしたくない。」
「したくないなら好きにしてればいいよ。俺からハイネと三蔵さんには言っておく。ただし、リジェネ、三蔵さんは呼び捨てにしないこと。あの人は、ここの主人だからな。おまえさんは寺で過ごすんだから、滞在許可くれてる三蔵さんには敬意を見せておくべきだと思うぜ。」
「・・・わかった・・・・」
で、ニールはバイトに出かける面々を送り出して、風呂の掃除をしている。リジェネは、何もしなくていい、と、言われたものの、ママの観察はしたいから脱衣所から、その様子を眺めている。大きな風呂の浴槽を洗って、タイルを磨いてざっと水をかけたら終わりだ。後は、風呂の水を張ってタイマーをセットしておく。それから、今度は各人の着替えを脱衣所に用意する。畳んでいた洗濯物の中からパジャマだの下着だのを取り出して、脱衣所の籠に入れておく。後は、タオルとバスタオルを補充しておけば完成だ。
それから布団の準備だ。三蔵と悟空はベッドだが、夏場は毎日、シーツも取り替えるので、ベッドメイキングもする。さらに、脇部屋もリジェネが休む客間も布団を敷いて、いつ帰ってきても寝られるように準備される。こういうことは機械が全部やってくれていたので、リジェネも知らなかった。
「ハイネ、おまえさん、出勤しなくていいのか? 」
居間で、ペーパーバックを読んでいるハイネに声をかけて、ようやく卓袱台前に座り込む。
「予約が少ないからいらんとさ。明日は、一緒に出勤してくれるか? ママニャン。」
「ああ、それはオッケーだ。トダカさんの手伝いなら、早めに出るよ。」
「そうなんだ。シンとレイが本業のほうが忙しくてさ。オープン準備をトダカさん一人でやってるから、応援頼む。・・・・それから、漢方薬を飲め。食間のがあっただろ? 」
「わかってるよ。メシどーする? 」
「適当でいい。」
ハイネの注意で、うっかり忘れたふりをしていたニールも冷蔵庫から漢方薬のペットボトルを取り出して、一気に飲む。とりあえず、体調を維持させておくのが、ニールの仕事でもある。
「漢方薬って何? ママ。」
漢方薬なんて言葉は、リジェネも知らない。ヴェーダを検索すれば判明するだろうが、そこまでのこととも思えなくて質問した。それに、なんであれ、ママと会話したい。
「うーん、なんて言えばいいのかな。大まかに言えば、自然界のもので作られた薬だ。極東では、昔から使われている薬なんだそうだ。俺の身体あっちこっちガタがきてるから、それで体調を維持してもらってる。」
「今の特区じゃ材料も揃わない代物なんだろうな。三蔵さんとこの本山のほうで作ってる薬だ。成分やら材料は内緒。判明すると、ママニャンが顔色を変える可能性が高い。」
付け足したハイネの言葉に、「なにぃ?」 と、ニールが声をあげる。内容物が怖すぎて、ニールも見て見ぬフリをしているが、やはり、そういうものが入っているらしい。
「いや、俺が調べたのは一般的なヤツだぜ? ママニャン。おまえさんのクスリに含まれているかどうかは知らないが、まあ、ほんと、凄いぞ、漢方薬っていうのはさ。」
例えば、ミミズの粉末は解熱効果があるし、鹿の角は滋養効果が高いと、ハイネが調べたことをつらつらと上げたら、それだけでニールの顔色は悪くなる。何が入っているのか知らないが、まあ、そういうことだ。自然界のモノなのだから、生物、植物よりどりみどりに含まれている。ハイネもデータを読んで、うわぁーと退いた。効能かあったとしても口にしたいと思うものは少ない。今、言葉にしたのもマシなほうのブツだったりする。
「爾燕が作ってる滋養スープって、そういうものの一種なんだ。あれは、松の実とかクコの実とか黒い鶏の肉とか、そういうものだけどな。」
「あれは、それほどクスリ臭いって思わないぞ。」
「そりゃ、店でお客さんに出すものだから味も良いように調整してあるんだと思う。冬虫夏草は入ってるけど、本体はスープに入れて出さないしな。」
「とうちゅうかそ? 」
「虫の体内に寄生するキノコらしいが、冬を虫の体内で過ごして夏には、体内から発芽して虫本体を食い尽くすってヤツなんだとさ。昔は、不老不死のクスリだと思われていたらしい。」
読み物としては面白かったが、さすがに実際、食してみろと命じられたらハイネも断固拒否するだろう。ニールは、かなりいろいろなものを知らずに食べさせられている可能性が高いのだが。
「それ、何度か飲ませてもらったけど・・・・」
「うまかっただろ? 」
「・・ああ・・・・」
「美味いのもあるんだよ、ママニャン。今度、爾燕に聞いてみろ。坊主が塀を飛び越えて飲みに来るって名前のスープもある。」
薀蓄垂れのハイネは、そういうことに詳しい。諜報関係で世界を飛び廻っているから、ついでに知識を身につけている。
「ハイネ、それってママの身体には効果的なの? 」
「ああ、効果は高い。なんせ、ママニャンが飲んでるのは、三蔵さんが本山の上司に都合してもらったものだからな。効果は抜群だ。化学療法の製薬よりも、ママニャンには効いてる。」
「三蔵の本山って? 」
「三蔵さんの本拠地は特区じゃなくて、別のとこにある。そっちの寺院の管理が本職だ。だから、一年に一度か二度、そっちの仕事で本山へ帰る。坊主っていうのは所属する宗派によって本拠地が違うからな。」
宗教というのはイノベイドには理解できない代物だが、一般教養としては理解している。極東は多神教の宗教が多いので、大きく仏教とか神道とか分かれていてもややこしいくらいに宗派がある。なるほど、そんなところに所属している人間なら、リジェネたちのデーターベースに情報が少ないのもわかる。
「僕には宗教というのは、よくわからないな。」
「俺も、さっぱりわかんねぇーよ。うちはキリスト教だけど、ちょっと特殊だったしな。」
「特殊って? 」
「うちはキリスト教とケルトの土着宗教がくっついているんだ。だから、特区の宗教に近いらしいよ。」
「ああ、ママはアイルランドの出身なんだったね。」
データに残るニールの経歴は把握している。私怨を優先し組織を裏切った愚か者と記されている。事実は、そうなのだろうが、それだけではない。今なお、裏切ったはずの組織のマイスターたちや実働部隊の人間から慕われている。常識的に考えて裏切ったのなら、そんなことにはなっていないはずだ。
「俺のデータも掌握してんのか? 」
「ティエリアとリンクする前からね。・・・・でも、ママほどデータと違うイメージの人間っていうのは珍しいと思う。組織を裏切って私闘に集中して亡くなったっていうから、もっと暗い怖いイメージだったんだけど、ティエリアのイメージするママって明るくて温かいんだよ。もしかして二重人格?」
作品名:こらぼでほすと ニート8 作家名:篠義