まあ
頭上から鼻歌が聞こえる。おそらく無意識に歌っているのだろう。
かなりの上機嫌だ。
しかし、それを聞いている銀時は上機嫌ではなかった。
銀時の頭の下には正座している桂の足がある。
つまり膝枕だ。
桂は畳に正座して銀時の頭を乗せ、そして、銀時の髪をもてあそんでいる。
今日が桂の誕生日だからである。
「……もーいいだろ!」
銀時は身体を起こした。
すると、桂は言い返してくる。
「いいはずがない! まだ少ししか経っておらぬ!!」
怒っている。
その顔を、銀時は見る。
大人の顔だ。
おたがい、三十路に近づいている。
それなのに見た目はともかくとして中身のほうは子供のころからあまり変わらない、桂は。
「年に一回、俺の誕生日には、おまえの髪を思う存分さわらせてもらう約束のはずだ!」
「そんな約束した覚えはねーよ」
素っ気なく銀時は言い返した。
そして、よそを向き、襟元から手を入れて肩をボリボリと掻く。
桂は言い返してこない。
部屋に、時計の秒針が時を刻む音が響いている。ここは桂が潜伏先として借りている一軒家だ。
いけ好かないペンギンのお化けは里帰りしているらしくて、いない。
銀時はチラリと桂を見る。
桂は唇をわずかに尖らせて黙りこんでいる。その肩が少し落ちている。
怒っているのと、がっかりしているのと。
そんなところか。
「……しょーがねーなー」
ボソッと銀時は言った。
そして、桂に近づき、その正座している足に頭を乗せた。
昔と今では姿がすっかり変わってしまっているのはよくある話だ。
しかし、桂は、昔は美少女のようだったのが、今は文句なしの美人である。
これが筋骨隆々の男になっていたり、あるいは冴えない風体になっていたら、自分たちは今のような関係ではなかったのだろうか。
そして、自分は所帯を持ち、子供が生まれ、未来には孫ができたりもしたのだろうか。
でも。
まあ、幸せだからいいか。
だいたい、つかまえたのは自分のほうだ。
自分の気持ちを無視できなくなって、その気のなかった相手を強引につかまえに行ったのは自分のほうである。
でも。
頭上から上機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
まあ、幸せそうだからいいか。
誕生日、おめでとう。