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こらぼでほすと ニート11

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昼食後のクスリと漢方薬を飲むと、ママは、すぐに眠ってしまう。そういうクスリが処方されている所為もあるが、やはり午前中のドタバタは疲れたのだろう。寝息を確認すると、歌姫様もリジェネを促して脇部屋を出る。境内では、すでにシンたちが練習を始めていたりする。トダカも、本堂の前に座って、のんびりと観戦の体勢だ。
「リジェネも参加してみませんか? 」
「それは強制? 」
「いえ、お勧めという程度です。興味がないのでしたら、どうぞ観戦していてください。」
 無理強いするつもりは、歌姫にもないので参加しないのなら、そのままで、と、当人は家のほうに戻る。リジェネは、少し離れたところでバトミントンを軽くやっている集団に目を遣るが、あまり興味はないらしく、また脇部屋に入ってしまった。まあ、寝ているからいいだろう、と、トダカもスルーする。


 脇部屋は静かなものだ。ママはいるが、意識はない。そこで、ほっとリジェネも息をついた。どうも集団生活というのは馴染みがないから、どうしていいのかわからない。他のイノベイド達と生活はしていたが、こんなに密着したものではなかったからだ。適当に、ママが声をかけてくれるから、寂しい気分にはならないが、あんなふうに各人が、わーわーと言い合っていては、どこで声をかけていいのかもわからない状態だ。


・・・・ティエリアは、この中で生活できていたんだから、僕にもできるはずなんだけどなあ・・・・


 同じ遺伝子情報で組成されているティエリアは、この集団で生活しているのだから、リジェネにもできるはずだが、馴染みのないものは慣れるまでが大変だ。キィーンとヴェーダと本格的にリンクすると、ヴェーダの海にティエリアも居た。どうやら、キラと打ち合わせしていた作業をしているらしい。
「ニールは元気か? リジェネ。」
 気付いたティエリアが声をかけてくる。自分で確かめてみれば? と、自身の素体の瞳を貸してやると、ティエリアはニールの寝顔を眺めて少し頬を緩めた。同じ遺伝子情報搭載の素体だから、ティエリアにも操れる。くーすかと寝ているニールを眺めて、空調のチェックをして、それから体温の確認に首元に触れる。ティエリアのいつもの動作だ。
「熱はないな。きっちりと管理してくれ。この人は、すぐに勝手なことをして体調を崩すんだ。」
 意識を素体から外して、ティエリアもヴェーダに戻って来た。これはなかなか便利だ、と、笑っている。今までは、自分の素体しか操れなかったが、リジェネの素体が、ニールの傍にあればティエリアも、ニールの健康状態を間近で確認できる。
「ティエリア、僕は、寺での生活は忙しすぎるよ。」
「そうか? 俺は、寺だとのんびりしているんだが・・・何かイベントでもあるのか? 」
「今、境内でキラたちがバトミントン大会をやってる。」
「彼らは勝手にしているだけだろう。別に、きみが忙しくする理由はないはずだが? 」
「なんていうのかな・・・こう・・・僕が考えているうちに、どんどん進んで行くんだ。僕にもバトミントンに参加しろとか言うし・・・それに寺の滞在費は労働で返せって言われるし・・・どうして貨幣での支払いがてぎないのか謎だ。」
 片割れには文句を言ってもいいだろうと、リジェネも遠慮なく愚痴を言う。イノベイドの感覚では理解できないことが、かなりある。ふむ、と、ティエリアは、それを聞いて、しばらく考えた。それから口を開く。
「参加したくなければしなければいい。滞在費の支払いに貨幣なんてニールが
受け取らない。俺も貨幣なんかで支払ったことはない。もっぱら、境内の草むしりとか水遣りぐらいだ。」
「そんなのクリーンサービスにさせればいいじゃない。」
「ニールが拒否するだろう。おそらく三蔵も、な。そうじゃなかったか? 」
「うん、そうだった。」
「きみは考え違いをしている。俺たちは、おかんのところへ帰っているだけだ。自分の居場所に帰るだけで滞在費なんてものは発生しない。それから、みんなが、何かと動いているのは、ニールためだ。」
 何かの演算処理をしていたティエリアは、作業を中断してリジェネの前にやってきた。どうやら、この片割れは寺での滞在をホテルで過ごしているのと同じものだと考えているらしい。
「境内の草むしりが、ニールのためになるわけ? 」
「ああ、俺たちがやらなかったら、あの人がするんだ。」
 マイスター組やら年少組が、境内の草むしりをしたり墓地の掃除をしているのは、ニールの仕事を手助けするためだ。対価としてやっているわけではない。なんだかんだと世話してくれるニールに金銭的なもので返しても喜ばないし、物品なんかつき返される。自分が好きでやってるだけだから、礼を言ってくれるだけでいい、と、当人はおっしゃる。確かに、そうなのだが、好物を用意してくれたり、愚痴を聞いてくれたり、寺での生活が快適であるように世話をしてくれるのを、何もせずに享受していると、嬉しい反面、ニールにも何かしてあげたいと思う。だから、できることでニールの手助けをするのだ。ティエリアは家事能力が低いから、できるものが限られている。風呂の掃除とか家庭菜園の水遣りとか、そういうものだ。それも本来は、ニールの仕事だが、それを手伝えば、少しだけニールが動かなくてもいい。その分、ティエリアたちのために時間をかけてくれる。そんな感じのものだ、と、説明した。
「ニールの仕事を手伝うと、ニールは俺たちに礼を言ってくれる。・・・・俺たちもニールに世話をしてもらって礼を言う。お互いが相手のためになることをする。そういう関係が大切なものだと、俺はニールから教えられた。それは貨幣価値で計るものではない。だから、受け取らないんだ。」
「僕も、そうするべきってこと? 」
「やりたくないならしなければいい。ニールは、そんなことで叱ったりしないからな。・・・その代わり、ニールから、『ありがとう。』とは言ってもらえないだけだ。」
 何か手伝って感謝されることの嬉しさというのは、人間だけが持つ感情なのかもしれない。ティエリアも最初は、わからなかった。でも、それがわかると、何かしら手を出すようになる。リジェネには、「おまえは人間だ。」 と、傍らで言い続けてくれる存在はなかったのだから、きっと理解できないのだろう。だから、『ありがとう。』という感謝の言葉なんてものは知らないから、貨幣価値というイノベイドにも分かり易いものに換算しようとする。
「よくわからない。」
「それなら、それでいい。とりあえず、ニールの健康管理をしてくれればいい。きみが、ニールの傍に居てくれて、俺は安心して作業に集中できる。それについては感謝している。」