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大人の時間 こどものじかん 二人の時間

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「昨年、何やら資格を取っておったの」
「もう一度言いますが嫌ですよ」
 大人げないとは思ったがプイッと横を向いてみせた。聞く耳は持ちません。断固とした態度を取っておかないと、この老人は勝手に自分に都合の良いように解釈する。
「この一件が落ち着いたら休みを三日やろう」
「三日ぁっ?!」
 とても偉そうに、感謝しろとばかりの口調で胸を張って言われたがこれは黙っていられない。
「火影様、私はこの仕事についてから休みらしい休みなんか取っていませんよ。それを三日やろうって。最低でも1ヶ月くらいもらわなきゃやってられません」
 イルカは火影にふっかけた。相手は火影だ、一方的に命令されれば大人しく従うしかない里の最高権力者だ。それが命令ではなく交換条件を持ちかけてきたとなれば、これは最大限優位に事を運ばなければ損だ。じっくり交渉せねば。
「一ヶ月って、お前は鬼か」
「鬼かって労働基準法に違反してるんです、私の労働時間は」
 絶対、と語気を強めれば、
「そんな法律は初めて聞いたわい」
「そんなわけはありませんっ! とにかく私は土日関係なく火影様のお部屋にいるんです!」
「ということはわしも休みなく働いているということだ。こんな老人を働かせおって。老人虐待じゃ」
「無茶苦茶言わないでください。そんな元気な老人がいますか。昨日だって食堂の冷蔵庫からお饅頭を盗み食いしたでしょう! それを私のせいにして! 私がどんなに恥ずかしい思いをして謝ったかわかってるんですか」
「饅頭くらい、なんじゃ。女性のパンティを盗んだわけじゃあるまいし」
「そんなことしたら今後火影様は外出禁止です」
 青筋たててイルカがビシリと言ったが、どんどん論点がずれていく。それにハッと気づいてイルカはまったく! と言った。
「とにかく嫌ですよ!」
「まだ何の話もしておらんのにお前は断るのか」
「経験上、こういう展開での話がいいことではないことくらいわかります」
「かーっ、お前はなんという火影不幸じゃ。このままわしがぽっくり逝ったらどうするつもりじゃ」
「安心してください。饅頭を4つも食べられるんですから大丈夫です。喉につまらせなければですけど」
「お前の嫌味も年季が入ってきたの」
「事実ですよ」
「そんなことはどうでも良い! 命令じゃ、命令じゃ。火影様命令じゃ。里で一番わしが偉いんじゃ。カカシの面倒はお前がみろ」
 いつもの癇癪が爆発しかけている。
「今でも1日に4度見舞っていますが」
「こやつは今からすぐに退院じゃ。今日からお前と一緒に住むんでな」
「えっ!!」
「何を驚いておる。お前のご立派な資格はこういう患者に接するためのものじゃろうが」
 そして、顔つきもひきしまり、さきほどまでの軽口をたたいていた口調があらたまる。
「カカシの幼児退行は外傷が原因ではない。任務を受けたときから少々の怪我は覚悟しておったはずじゃからな」
『やらないブー』って言ったって賭けてもいいですけどね。
「上忍の任務はなんだったんですか」
「お前、任務表を作成しておったんじゃなかったのか」
「火影様のおっしゃった通りに皆さんの任務をまとめてます。けど、今回の上忍は知らないうちに里を出られていましたから、任務表には任務中とだけ書いておきました。火影様も確認されたはずですが」
「ああ、そうか。こやつには土の国に偵察に行かせた。あそこは何かときな臭いからの。定期的に様子見させておる。途中で追いかけられとると連絡があったが返事はしなかった。どうにかするじゃろうと思うて」
「30人に追いかけられていたのにですか?」
「連絡ができるくらいなら余裕はあるじゃろう?」
「そんな・・・、誰か応援を出せば良かったじゃないですか。そうしたら、あんな怪我をされることはなかったかもしれません」
 いくら最強の上忍と言えどもほとんど助けを求めていたと受け取れるような連絡をしてきたのにさっくり無視するなんて。言い方は悪いが下手したら貴重な戦力を失くすことになる。・・・・・・というか、この状況ではカカシ上忍は戦線離脱だ。
「いまさら言っても始まらん。それにカカシはわざと背中にクナイを突き立てたまま帰ってきた」
「わざと?」
 イルカは火影の横顔を見つめた。
「追っ手に手を焼いていたのは事実じゃろうが、あれほど見事に背中に傷を負うほどカカシは能無しではない。うまい具合に腱などははずれておったしの」
「それじゃあ何で」
「こやつも自信がなかったんじゃろう。誰に追いかけられておるのか。そこでてっとり早く相手の武器を回収したわけじゃ。おかげで、追っ手が土ではなく白だとわかった」
 上忍はわざと武器を体に受けて里に持ち帰ったということか。
 武器は国ごとに形が違う。その中でも一番顕著に違いが表れるのがクナイだ。だからわざと攻撃を受けたと?
「白の国か。あそこは実際何をやっておるのかよくわからん」
 ベッドの盛り上がりを見つめ、顎をさすりながら火影は思案するように言った。
「さて、何があったか」
 結局その日、イルカは10歳だというカカシ上忍を家に連れて帰ることになった。どのような経緯であれ火影命令には逆らえない。
 大きなやっかいごとをひとつ引き受けたなとため息をつき、これからどうしようかとベッドに潜りこんでいる偽子供のことを思った。