思うにこれは恋
ソールは、軍の変わり者のギャンレルとガイヤの二人を相手にして、精神的に疲れ果ててしまっていた。(軍の変わり者はこの二人だけではないが)
「つ・・・疲れた。」
と、いい残し、早々に食堂を去って行った。
残されたのは二人。
ギャンレルとガイア。
また、妙な組み合わせだ。
ギャンレルは、そ・・・しずしず。と、品よく食事を口に運んでいた。
さすがは、元王族!という雰囲気をかもしだしていた。
それを、まるで珍獣でも見るかのような目つきで、ガイア。
あんまりにも人の食事をじろじろと見るものだから、さすがのギャンレルも気分は悪くなり、ナイフとフォークを置き、口をナフキンで拭いた。
「なんだぁ!?
オレは見世物じゃないぜ!?」
不機嫌極まりない気持ちが入り混じっていた。
その言葉に、不意を突かれ、ガイヤはつい困ってしまった。
「いや、なんだ・・・その。」
「なんだよ!?」
「いや、あのな。
やっぱり、あんたって王様なんだなぁと、感心していたんだ。」
「ふん。当たり前だろう?
知ってんじゃねぇか。」
「別に悪い意味で言ってるわけじゃない。
俺なんかはシケタ田舎の出身なもんだからな、周りを見渡せば、みんな貧乏。
だから、おまえみたいな品がある食べ方をする奴なんか誰一人いなかったんだよ。
目の前にある食事に、我先へと食べなければ、兄弟が多いと十分な飯にありつけなかったからな。」
「・・・。」
「だからといって、あんたの食事の様を真似したいわけじゃないが。
あんたの人柄と食事姿が、あんまりにもミスマッチだったので、面白かった。」
「ふん。やっぱり、見世物じゃねぇか。」
と、ギャンレルは顔をしかめた。
「なあ、あんた。」
「ああ!?なんだぁ?
まだ、なんかあんのか?」
「違う。まぁ、静かに聞け。
これを見ろ。」
そう言って、ガイアは懐から一通の手紙を取り出し、ギャンレルの前にそっと差し出した。
その手紙は見るからに、質のよさそうな羊皮紙で作られており、ギャンレルは不審に思い、手に取った。
手紙の裏を見ると、封印がしてある。
その封印を見て、ギャンレルはさっと息をのんだ。
「これは!?」
そして、ガイアを見た。
彼もこくりと頷く。
「確かに、あんたに渡したぜ。」
「てめー、これをどこで手に入れた!?
これは・・・ペレジア王家の封印だ。」
「おっと、それは言えない。
俺も仕事だ。
仕事はきちんとやり遂げる。
それが、俺流の生き方だ。」
「・・・。」
「オレは今はイーリス軍にいるが、もともとは盗賊稼業だ。
この戦いが終わったら、俺も元の仕事に戻る。
ギムレーとの最終決戦はそう遠くない将来にやってくるだろう。」
ガイヤは、そう言い、腕を組んで、真剣な面持ちでギャンレルのことを見た。
「あんたも将来について、そろそろ考えるべき時期なんじゃないのか?」
その言葉を最後に、ガイアは席を立った。
そして、ガイアの言い残した言葉が、ギャンレルの胸を突いたのは確かだった。
はっとし、何か言い返す言葉を忘れてしまった。
少し前に、ルフレをからかったことを思い出した。
その時に、おふざけ半分で自分の国へ軍師に来ないか?なんて言った後、己は何をこれからしたいのかについて、悩んだことを思い出していた。
彼はその手紙を握りしめ、急いで一介の兵士である自分へ宛がわれた狭い部屋へと帰って行った。
部屋に帰るとランプに火を灯し、手紙を見た。
赤いロウで出来た王家の封印がいやに懐かしく思え、彼は指のはらでなぞった。
そして、目を閉じ、少しの間ペレジアを思った。
まぶたの裏にはすぐに懐かしい砂漠の景色が見える。
目を閉じさえすれば、すぐにペレジアに帰ることができた。
自分の思うがままに動かした時代だった。
今さらオレに何の用だ。
封印を開けると、やはり、高級な羊皮紙が出てきた。
開くと、几帳面な文字が目に飛び込んできた。
その筆跡をギャンレルは忘れるわけがなかった。
あいつ・・・
そこには、『土の曜日に、日が落ちる時、イーリス城の城西の砦でギャンレル様を待つ。』と書いてあった。