思うにこれは恋
「僕の父さんはギャンレルです。」
がーーーん!まさか・・・
やっぱり!という言葉がマークの頭の中をちらついた。
「ぎゃ・・・ギャンレルさんですって!?」
口元がひきつる自分を抑え、声がひっくり返りながらマークはもう一人のマークの言葉を反往復させた。
その態度に、気分を害したのだろう。
もう一人のマークは口をへの字にしながら話した。
「む!何ですか!?そのショックを受けましたと顔に書いてあるような態度は。
僕の父が何か不服なんでしょうか?」
「そ・・・そんなことは・・・
あはは。
いや、ただ・・・」
「確かに、僕の母さんと父さんの結婚には反対する方々が『ちょっと』あったようなんですが。
そりゃ、イーリス軍にいて、元宿敵の父がそこの軍師を娶るなんて前代未聞の大騒ぎになりましたけど・・・。
でも、心配には及びません。
愛はとても強いです!
父さんと母さんは、息子の僕から見ても、とても深く愛し合っていますから!」
そう言い切り、もう一人のマークはガッツポーズを作った。
息を撒くもう一人の自分に苦笑いをしながらマークは思っていた。
ま・・・まさかギャンレルさんと母さんはもう一つの世界で結ばれているなんて・・・。
「はは・・・。」
マークは疲れたように笑った。
少し前にギャンレルに呼び掛けられたことをマークは思い出していた。
厳しい表情の中に、自分の母親に恋する心を発見したあの日。
彼の中の孤独と優しさを垣間見たあの日。
手に届かないものを思う切ない心に、少しだけ同情したことを思い出した。
「聞いてください!もう一人の僕!
今度ペレジアに帰ったら父さんと母さんの結婚式を行うんですよ!
そのように、父さんと僕は企画しているんです!
母さんに内緒で。
イーリス軍のみなさんにも平和になったペレジアに招いて、それはそれは盛大に行うつもりなんです。
あ、でも、ギムレーを倒してからの話になりますけどね。」
そう、幸せそうに話すマークに一体ここの世界のギャンレルはどうやって父さん(クロム)から母さんを奪ったんだろうと首をひねった。
もしくは、この世界では父さんと母さんは初めから恋仲ではないのかもしれない。
そして、ギャンレルは意外にも愛する女のためならば披露宴までしたいというテンションの上がりようにも驚いていた。
そんな風にぼーっとしているマークをもう一人のマークが肩を揺らした。
「それでですね!
もう一人の自分に話すのもなんなんですが、僕の父プロポーズの言葉を教えてあげましょうか?」
嬉しさで勢いずくもう一人のマークに、なんだか遠い気持ちになりそうだったマークは口元をひきつらせた。
聞いてもいないのに次々にギャンレルと別の世界の母ののろけに話してくるもう一人のマーク。
自分の母がまるで他人に盗られているような気がして、ちょっとむっとしながらもう一人のマークを見た。
父さん(クロム)以外の男性について嬉しそうに話すもう一人の自分が不思議に思う気持ちもあった。
こんなにも満面の笑顔で・・・
自分の父について話したりないかのような・・・
もしかしてまだ、よっぽどイーリス軍の人にはこのカップルは受け入れられてないのだろうか?と、疑いたくなる。
もう一人のマークがいう反対する人はちょっとではなくて、『たくさん』だったのかもしれない。
「僕の父の母さんへのプロポーズの言葉は・・・
『お前がしわくちゃの婆さんになるまで、世界中の誰よりも深く愛し続けてやるよ!』
ですよ〜!
どうです?もう一人のマークさん。
その言葉で母さんは父さんの求婚を受け入れたんです。
この言葉って、本当に愛していないとなかなか言えないと思いません?
愛が溢れていますよね〜!ね!ね!」
うわーっ・・・なんです?
その歯の浮くセリフは!
もしかして、ギャンレルさん。本当にそんなことこっちの世界の母さんに言ったんですか?
自分の世界のギャンレルのことを考えると、なんとなく彼についてますます不憫になるマークだった。
「あ、なんだかすみません。
つい、自分の両親のことが好きすぎてしまって、ぺらぺらと話しすぎてしまいました。」
しばらく自分のことに思う存分話したもう一人のマークは急に顔を赤くして、謝ってきた。
そして、マークを見た。
「あなたの方のその青い髪は・・・」
そう言われて、マークはにっこりと笑った。
「・・・」
「いえ、いいんです。
言わなくても僕にはわかります。
あなたの世界では、そういうことなのですね。」
マークは誰が自分の父であるか語らなかった。
が、語らずとも、もう一人のマークは納得していた。
そして、マークたちはお互いを見つめあった。
「くす。
ああ、僕はまさか母さんがギャンレルさんと結婚しているなんて聞いてびっくりしてしまったんですけど・・・
そして、ちょっと嫉妬もしました。
ですが、あなたの表情を見て安心しました。」
自分には聖痕も出ていないし、ファルシオンが使えるわけでもない。
自分の血にこだわっているわけではない。
自分は自分なのだから。
本当は親なんて誰でも構わないのかもしれない。
もう一人のマークを見ていたら、十分にその気持ちが伝わってくる。
みんなが幸せで、自分も幸せであるのなら・・・
どんな未来でも構わない。
しかし、自分はもう一度生まれ変わることがあることがあっても、この両親と姉さんの4人の家族で生まれてきたいと思った。
「そうですか。
僕ももう一つの世界がどうなっているのか興味が湧いてきましたよ。
あなたももう一つの世界で頑張ってくださいね。マーク。」
そう微笑むもう一人のマークの笑顔は蜃気楼のような幻で、マークはまたも深い霧に体ごと攫われていた。
(お別れの時間が来たようです。もう一人の僕。)
その霧に身を任せながらマークはそっと目を閉じた。
(この分じゃギャンレルさん以外にも、僕の親がいそうですね。
出会うのが楽しみだ。)
それはまた別の次元のお話だろう。
マークはそう思った。
「さあ、そろそろ自分の時間軸に戻らなくちゃ!
みなさんが心配します。」
異界の出口がすぐそこに見えていた。
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pixivで現在連載中のファイアーエムブレム覚醒のギャンルフ小説でした。
この小説はpixivからのコピーです。
新しいものではなくてごめんなさい。
まだ、続きます。