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生まれ変わってもきっと・・・(完結)

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★18. 夢の中の二人

「もう、本を読ませてよ。」
「そんな事は今じゃなくたっていいだろう。」

ブラッドは如何しても寝技に持ち込みたいようだが、アリスは応じない。

「貴方だって、これを読まなきゃならないんでしょう? エリオットが言ってたわよ。ペーターは悪知恵が凄いから気が抜けないって!」
「私と居る時に、他の男の名を出すな。気分が悪い。」
「はぁ?何言ってるのよ。もういい、帰る。」

帰りかけるアリスの腕を掴んで、ブラッドは何か怒っているようだ。暗い空間に、そこだけが丸く切り取られたように明るく光る。二人の様子はそこに映っている。

「これで良いのか?」
「ええ。取り敢えずは引止めに成功しそうですからね。」

その映像を見る三つの瞳。夢という闇の中での密談は、誰にも知られること無く幾度も幾度も、もうずっと前から続けられていた。黒い眼帯で片眼を覆う夢魔と、腕組みして映像を見るハートの城の宰相。

「しかし、時計塔でのファーストキスにあれ程拘るとは君らしくも無い。前任者の記憶など基本的なものしか残ってはいないだろうに。」

「僕はね、完璧主義者なんですよ。とは言っても、この件に関しては記憶と実体験の擦り合わせが可能な箇所は時計塔のみですからね。アリスの大切にしていた時間を見守ることも、此方に連れて来ることも、もう僕には出来ない。だからこそ、あれは僕にとって重要な経験なんです。記憶との齟齬も少なくなる。」

「小道具まで用意して、彼女に二度も苦いキスの経験か? ご苦労なことだな。」

「仕方ないでしょう。前任者が実際彼女に会っているのは彼女の自宅の庭と、時計塔のみと言っても過言じゃないんです。後は初めて城に訪ねて来た彼女を迎えに前庭に出た時ですが、あれは・・・」

「まさか、あんな事が起こるとは思ってもみなかったよ。ハートの騎士の剣に、彼が壊されるなど有り得ない。」

「それだけ必死だったんですよ。此方に招待した直後に、自分の放った刺客に紛れて最愛の人を殺されるなど間抜け過ぎるでしょう。身を挺して庇うのは当然ですよ。」

「そんなものかねぇ。」

「この一件が片付けば、前任者を手に掛けた騎士はこの手で始末しますよ。目障りですからね。でも僕は、貴方には感謝しているんです。あの時、咄嗟に二人の記憶を押さえてくれた。」

「当然だろう? ペーターは、自分を責め続ける記憶からアリスを開放する為に此方へ呼んだんだ。此方でも自分の為に誰かが死んだとなってはアリスの行き場が無くなるだろう。」

「こうなってみると、彼女を此方に連れて来たことは、果たして良かったのかどうか。」

「君は二重に困難を抱えたな。日曜の午後と身代わりか・・」

「困難か、そうでもないでしょう。もう少し時間を掛ければ、知識としての記憶と僕の感情がシンクロします。そうすれば僕に勝算が無いわけじゃない。」

「どうして、どうしてそこまで拘るんだ?君自身はアリスに執着は無いんだろう。」

「此処じゃ無くて、此処に刻まれてるんです。彼女への想いはね。だから何度生まれ変わっても、この時計は彼女しか愛せないんですよ、多分きっと・・」

ペーターは白い髪を指先でチョンと突いた後、胸の時計の辺りに軽く握った拳を当てた。

「その時計が動き続ける限りってことか。」

彼はそれには返事をせずに、話題を変える。

「しかし、時計塔で謝られた時には驚きました。記憶が開放されたのかと一瞬思いましたから。ふふ・・彼女は手強いですね。僕の言葉が空虚だと言ってくれる。僕なりには必死で愛を囁いてるつもりなんですが、どうもお気に召さないらしい。」

そう言う彼の笑みは柔らかく、出会ってから初めて感情を伴った顔を見たと夢魔は思う。この男の勝算が無いわけではないという言葉は、あながち嘘ではないのかもしれない。また来ますよ。そう言って、後任のペーター=ホワイトは薄れ行く闇の中に消えていった。

「ペーター、君は時計を狂わせるほど愛していたのか、彼女を。馬鹿な奴だ。」

夢魔は、羨ましいと言いかけて止めた。愛する者を残して逝かなければならなかった友に贈るには悲し過ぎる言葉だと、そう思ったのだ。夢魔の手が翳されると光の円が小さくなる。その中にアリスの笑顔が最後まで残っていた。それ以上、光の輪を縮めることはせずに、夢魔もまたこの闇を立ち去って行った。