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胡蝶の夢 (Fairy Tales epi.3張飛)

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「夢の中のわたしに嫌いって言われて、不安になったのよね? 今ここにいるわたしが否定しても、言葉だけじゃ信じられないなら」
「俺、姉貴のこと、疑ってるわけじゃねーよ」
「ええ、わかってるわ。でも……余り伝わってないんじゃないかしら。わたしがどれだけ、貴方を好きなのか……」

 関羽の指が、張飛の腕をそっと掴む。触れた場所が、じわじわ熱を帯びていく。

「今日一日、わたしの時間を張飛にあげる。それで、一日かけて教えてあげる、どれだけわたしが貴方を好きかって」

 賭けには勝ったのか、負けたのか。もはや分からなかったけれど、関羽の瞳に嘘がないことだけは分かった。自分の時間をあげる、なんて、その意味がわからない関羽ではない。それはつまり、今日一日、彼女は張飛の、張飛だけのものだ。
 目眩にも似た幸福を覚える。もしかしたらこっちの方が夢なんじゃないか。あなたなんて嫌いだと、泣いていたあの女の子が現実で。もしくはまだ自分は夢を見ていて、現実のもうひとりの自分は、まだ眠っている、とか。
 もしそうなら目覚めたくない。これが夢なら、いつまでも浸っていたかった。現実なら、最高だ。
 
「姉貴……」
「いいわ、張飛。信じてほしいから」

 夢か現か。正直今の張飛にも分からなかった。きっと関羽の語ってくれた伝承の人は、自分が蝶になっていた時、とても幸せだったのだろう。だからどちらが夢でどちらが現なのか分からなくなった。目が覚めたことを、信じたくなかったから。その思いだけは、よく分かった。
 顔をぐっと近づける。落ちる瞼は、口づけの合図。張飛はふっと微笑んだ。

「言ったね、姉貴。……覚悟、してよ?」

 次に目を開けた時、自分はどこで何をしているのだろう、と。全身で彼女の存在を感じながら、ふとそんなことを思った。