届かない君へ
こんなゆっくりな任務は初めてだ。
いつもこんな感じならいいのにと、扉の前で大きく伸びをする。
入り口を見てみれば大きな馬車が中に入ってくる。
あれはエンゲーブの人達だ。
食料を運んでいると聞いたことがある。
あそこのりんごが美味しかったのを覚えている。
後で入荷されたのを食べてみようか。
そんな事を考えながら見ていると、ユーマの目が見開く。
馬車の荷台から出て来る人物に驚き、急いで駆け寄った。
「なんとか行けたな」
「胸がドキドキで、止まりそうでしたよ」
「よく言うよ・・・」
「カーティス大佐!!」
「おや?」
眼鏡をかけた茶髪の青いマルクトの軍服を着ている男性。
その人がユーマの師団長、ジェイド・カーティス大佐だ。
「大佐、お知り合いですか?」
隣から片目が隠れている女性が話しかけてきた。
それにジェイドは応えるようにユーマを紹介しようとする。
「あぁ、彼女は・・・」
「ユーマ・・・っ!?」
思いもよらないところから声が聞こえた。
金髪の男性がユーマの名前を呼ぶ。
「ガイ、知ってるのか?」
赤髪の男性がガイと言う男性に聞く。
「お前・・・どうして・・・生きて、いたのか?」
ゆっくりとユーマに近づくガイ。
ユーマは首を傾げる。
「・・・俺が、分からないのか?」
「・・・・誰ですか?」
そういえば、目を見開いて、ショックを受けたような顔をする。
「ガイ、ユーマを知っているのですか?」
「・・・あ、あぁ・・・」
ユーマから目が離せないのか、ユーマを見つめるガイ。
その姿にジェイドは眼鏡をくいっと上げる。
「あの・・・、私・・・記憶がないので・・・貴方の事、もしかしたら忘れてるかもしれないです。」
「え?」
「ユーマは、3年前にグランコクマにやってきて記憶がないため陛下が引き取ったんですよ。
戦えるため、自ら軍に入ることを志願して私の師団にいます」
「そう・・・なのか・・・」
消え入りそうな声で言う。
そしてユーマと距離をとり、沈黙が流れた。
「ところで、ユーマ。貴方は今、仕事に追われているはずですが・・・私服でいるって事は・・・」
「はい、陛下の私用で・・・」
「なるほど。私用とは・・・」
例のリストを見せると、ジェイドは盛大にため息を吐いた。
「安心してください。あとで手紙をだしておきますから、安心してグランコクマに帰還してください」
黒い笑みで言う。
これは嫌味も混ぜるのだろう。
「でも、私カイツールに落し物を届けないといけないんです。」
「落し物?」
「はい。なので、カイツールで届ければ帰還しますので・・・」
「わかりました。幸い、貴方は良い戦力になる。頼りにしてますよ」
「はい!」
嬉しそうに応えるユーマ。
そんなユーマを後ろでガイが切なそうな目で見ていた。