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赤い烏を継ぐ男 TARGET Ⅰ

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左右を挟まれ、その上に踵落としを掛けられそうになるが、降り下ろされる前にその足を菊は軽く押し上げた。そして、バランスを崩しそうになった所を蹴りを繰り出そうとしていた左の警備員へ倒し、右から来たパンチの勢いを利用して引き寄せ自分の後方へ叩きつける。


「あ、悪魔!!!」
「なんてヤツだ。」
「化け物め」
「くそっ」

足がすくんだのか、菊と相対していた仲間が次々と倒されていく様子を見ているだけだった者たちが騒ぎ出す。

「なんですか?あなた達も彼らみたいになります?あ、なりたくない人はそこからどいてくださいね。」

さらっと、脅迫すれば我先にと肖像画から離れていく。

ジャラン
肖像画を吊るしていた金色の鎖が鳴り、簡単に肖像画を手にした。あとは、脱出をするのみだ。
菊は放心した警官共をよけるようにして、美術館の回廊を歩いていく。だが、出口を目指そうとした彼の前に立ち塞がる影があり、菊は目を細めつつその主を見やる。
「っ!?」
どうして!?
 なんと、菊の目の前に立ちふさがっていたのは、菊の初恋の人だった。
「ここまでだ。」
「・・・。」
知らずに、菊は唇を噛む。
 自分には、この人を傷つけられない。
皮肉なことに、彼女か纏っているのは今の菊と相反する立場の婦警服だった。
「さすが、イル・ソーレを名乗るだけはあるな。だが、そろそろ奴らも立ち上がる頃なんじゃないか?まして、お前はここまで余裕ぶって、歩いてきたんだから。なぁ?」
しかし、菊は違和感を覚えた。堂々とした姿も、人を寄せ付けない茨のような皮肉もあの頃の彼女のままだが、彼女はこんなに背が高かっただろうか?それに、あの長くて艶の良い髪は彼女の自慢だったはずだが、今目の前にいる人は男のようなベリーショートだ。
「・・・。」
「今、俺が大声を上げたらどうなるかな?」
俺?いや、彼女の一人称は「あたし」だったはずだ。
「無視かよ。まぁいい、」
すう、と息を大きく吸う音がやけに響いた気がする。
 そこで、菊はわれに帰った。
「なっ、ん」
両手は肖像画一枚のために使えない。ならば、仕方がなかった。
 菊は空いている口元を遣い、初恋の人にとてもよく似た桜色の唇を塞ぐ。
「っふ」
不意をつかれて、驚きのあまりへたり込むsの肢体を支えてやりたい気にもなるが、今の自分にはその資格がない。
「お前」
見上げてくる瞳は、夜目にも潤んでいるのが明らかで、罪悪感が菊を襲う。
「すみません。」
「え、」
菊は、その瞳から目をそらし、密やかに謝る。
 そして、その場を駆けだした。もう、自分の恋は永久に叶わないのだと、深く心に刻みながら。

やがて、出口に辿り着き、菊は無線機でルートのコードネームを呼ぶ。
「こちら、3代目。オリオン、応援を頼みます。どうぞ」
「こちらオリオン、了解した。至急そちらに向かう。」
「ありがとうございます。」
本当は早くこの場を去るべきなのだろうが、ルートが用心して、少し離れたところに駐車していることに菊は感謝した。
 ほんの僅かだとしても、心と表情を落ち着ける時間が欲しかったのだ。

「わぁ~、ありがとね。菊!」
アジト、もといフェリシアーノ宅に到着した菊を待っていたのは今回の依頼人の満面の笑と熱烈なハグだった。
「こら、フェリシアーノ!菊が困っているぞ。それに、一番初めに言うべきことは」
「おかえり。よくやったな、菊。」
「ロヴィーノさん!・・・ただいま。」
複雑な心境だった菊は、思いがけなく暖かな反応に、ほっとした。
菊は、後暗いことをしている自覚はあったのだが、こうして肯定してもらうことを心のどこかで臨んでいたのだ。
「コレ、でいいんですよね?」
「うん!」
「でも、これはフェリシアーノ君の描いた作品ですよね?」
「そうだよ。」
 なんとも奇妙な話だ。自分の作品ならば、買い戻すことだってできるだろうになぜ彼はそうしなかったのだろう?
「でも、俺の作品じゃないんだ。」
と、彼はどこか寒々しい笑みを浮かべどこからか取り出したパレットナイフで、肖像画のカンバスを貫いた。
ビリ、
「え?」
菊が聞き返したとき、階段の方に人影が見えた。
「ケセセ、そうだよな。『描かせられた肖像画』は絵ですらないもんな。」
「ギルベルトさん!」
描かせられた?いや、肖像画はモデル本人が依頼することが多いはずだ。何が違うのだろう?
「ホラよ。」
ギルベルトが一葉の写真を菊に放る。
「・・・誰、ですか?」
「ケセセ、そのモデルだ。」
「え?で、ですが」
カンバスの中の少女は、写真の中の人物とは明らかに違うではないか。けばけばしく顔を覆う化粧も、対照的に落くぼんだ眼窩も、とても肖像画の人物には似つかない。
「美しくなりたいと思うのは、罪ではないけれど、真実を曲げるのは罪だよね。」
「っ!?」
相変わらず冷めた目でフェリシアーノが呟いた。
 真実を曲げた?では、この絵は・・・フェリシアーノ自身が描きたかったものではなかったのか。
「兄ちゃん。」
「あぁ、わかってる。」
暖炉の前に座っていたロヴィーノがフェリシアーノを手招く。
 フェリシアーノの手によって蜂の巣と化したカンバス、それを隣にいたルートヴィッヒが素手で額を外し、ロヴィーノに差し出す。
バコッ
ロヴィーノがその長い脚でカンバスを蹴り壊し、その成れの果てを暖炉に投げ込み、点火したマッチをその上に投げ入れて、数歩下がる。
 瞬間――油と画家の後悔が染み込んだカンバスだったものは凄まじい炎を上げた。
「・・・。」
菊には何も言える言葉がなかった。しかし、それは彼らを恐れてのことではない。なぜなら、菊には、自分の表現が第三者に曲げられてしまったフェリシアーノの気持ちが察せられたからだ。