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赤い烏を継ぐ男 TARGET Ⅰ

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欧米人には珍しい右利き、左頬に火傷の後の様な引き攣り。
間違いない。

「何者?此処へ来ることはあらかじめ、【予告】しましたでしょう?」
「まさかっ!」
「しー、今なら見逃してあげますよ?」
「―――っ!?なめやがって」

いきり立った男が銃口をこちらに向ける。
パァン!
乾いた銃声が空虚な夜空に響く。

「おや、応援を呼ぶなんて・・・弱虫なんですね?」
「なに、を」
「ああ、だから先代を平気で撃てたのでしょうね。」
「は!バカバカしい。こそ泥風情が!」

その言葉に少し、菊の頬が引き攣る。
先程、ロヴィーノ氏に聞かされた話を思い出し、目の前の粗野な卑怯者の言葉に苛立ちを隠しきれなかったのだ。
「あなた、半殺し決定です。」
そういうが早いか、菊は動き出す。
 彼らの誇りを、そして彼らを信じると決めた自分を侮辱することは許せない。
「ふん!何が半殺しだ」

「なっ!?」

間を詰めて警備員の右腕を力強く掴み、背負う格好で背をエビのように曲げて勢いを付け宙へ放る!

細身の体のどこにそんな力があるのかというほど効果絶大な一本背負いだった。
おそらく、地面がコンクリだったら・・・・・・頭蓋が割れていたのではないだろうか。それほどに、初心者に対するときのためらいやら、遠慮はなかった。

受身を取れずに、頭から地面に落ちた警備員は泡を吹いて気絶していた。

その様子を詳しく観察する前に、銃声を聞きつけた警備員が菊を囲い込む。

「お前、どこから」
「うわぁ!コレはお前がやったのか!?」
「ひでえ」
3人か、無理ではありませんね。と、菊は目を細めた。
「ひどい、ですか?その人は先代にいきなり弾をぶっぱなしたそうじゃありませんか。」
「うっ、」
「だが」
「うるさいっ!傷害罪で現行犯逮捕だっ!」
「・・・遅い!」

警備員たちが動き出したときにはもう勝負は決まっていた。

しゅる、しゅっ!

 着地するときに切り離したワイヤーロープを菊が引けば、それは鞭のようにしなり3人を襲う。

「うぐっ!?」
「ぐあっ!」
「かは、」

あっという間に地面に伏せる3人を見下ろしながら、菊は言い放つ。

「善と悪の区別もつかないで、正義を語ろうなんて片腹痛いですよ!」
では、失礼。

ぺこりと、行儀よくおじぎをしてから正面玄関へ進む。

「とはいえ、その図々しさは敬意を払うに値しますね。」

 菊の息ひとつ乱さない手馴れた戦闘に伸された警備員たちは、立ち上がることもできず地に倒れ伏しながらその背を睨むことしかできなかった。


「おっと、」
 やたらと警備員が密集している場所があり、嫌でもそこに重要なものがあるのだと気付く。
 馬鹿みたいですね。あの人たちが、『地図が無くてもわかる』と言っていましたが・・・こういうことでしたか。
 自分だったら、こんなに丸分かりな囲み方はしないだろう。菊がそう思うのも無理はない、その数ざっと20名近く――広いはずであろう会場もさすがにこの人数が一気に動くことなどできまい。「よほど指揮官が無能なのか、はたまた人海戦術というものなのか・・・」
 
 ターゲットはA3ほどの大きさの油絵で描かれた肖像画。しかし、それを『描いた画家本人に返却せよ。』というのだから可笑しな依頼だ。
 さて、どうしようか?まさか、この場で先程のような投技を噛ませる訳がない。できるばらば人をあまり傷つけたくはないのだが、そんなことを言っていられる状況ではないことも分かっている。

「仕方ありませんね。」

 苦笑を浮かべながら、菊は特注で作られたスーツの大きなめで丈夫な内ポケットから小太刀を二本取り出し、さっき3人の警備員を倒したときに使ったワイヤーの残りを片方に括り付ける。

「よし。」

 準備は整ったとばかりに、菊は堂々と姿を現す。仮面をつけているのだ、どうせ素顔はわかるまい。

 「出たな!」

 早速近くに立っていた一人が気づき、その声で緊張感に満ちた厳めしい警備員たちが一斉に菊の方を睨みつける。
 
「こんばんは。」
 
丁寧に挨拶をしてみるが、それがかえって相手の癪に障ったらしい。
 
「気取りやがって!」
「このこそ泥が」
「ハッ!たった一人で何ができるってんだ?」

しかし、それに怖じ気付く菊ではない。

「では、逆にお聞きしましょう。そのたった一人に20人近くで何が出来るというのですか?」

盛大に込められた皮肉が、石造りの壁に反響する。その、威風堂々とした態度に数秒相手の動きが止まる。そして、リーダー格らしき男の合図で警備員たちは銃や警棒を構えるが屈強な男が20人近くいるのだ。必然的に互いの肩や肘がぶつかり合い、狙いが定まらない。

ダァン!
威嚇射撃だろうか、菊の足元を銃弾がかする。
しかし、それでも降参しない菊に警棒を持った数人が襲いかかってくる。

「知っていますか?」

ドス、一番早く菊に手を伸ばした警備員の腹に小太刀の柄が食い込む。大して力を入れなくても、向こう側からの全力疾走だけで十分ダメージを与えられるのだ。

「うっ」

「東洋には、」

ろして、ワイヤーを括った方の小太刀を右側の壁へ低く投擲して、次々と自分に走りよってきた警備員たちをピンと張ったワイヤーで転ばせていく。

「ぐっ」。
「うわぁ!」
「ぐはっ」
「っ!」

意外にも早く済みそうだ。

「こんな言葉があるそうですよ?」

菊がゆっくりと話し、流れるような動きをする内、あっという間に敵は半分ほどになっていく。
 二人がかりでくるものに、小太刀を素早く二回振るい、それぞれに柄か峰打ちを食らわせると、今度は小太刀をしまい菊は素手になる。
「舐めるな、若造があっ!!!」
ついに指揮官らしき男がかかってくるが、それもまた猪突猛進である。菊はうっすらと口角を上げると足払いをかける。
「ぐぁ!」


ベシャ、と先程まで偉そうにしていた男は無様に転んだ。

「『先手必勝、後手必殺』と、嗚呼でもあなた方は勝てすらしませんでしたね。」

そこで菊は、満面の笑みを浮かべた。が、彼は仮面をしているため、その顔は口元しか分からず、相対しているものにとってはさぞ不気味であろう。
 案の定。恐怖で歯をカチカチと鳴らしながら残った男たちは菊を見上げている。

「ひっ」
「た、頼む命だけは!」

しかし、菊は背後に感じた気配に腰を捻りつつよける。

「なんてな。」
3人の男が立っていた。

「さて、」
「やってくれたなぁ?」
「覚悟はできてんだろ?」

菊は呆れ返った。

「あなたたち、恥ずかしくないのですか?」
「はずかしい?」
「こっちはなぁ、テメェのご先祖にさんざんコケにされてんだぜ?」

先祖・・・べつに、血は繋がってないのですが。
「なるほど」
それでこの執着か。要するに、彼らはプライドのためにこの作品を守りたいのだ。
「依頼が届くわけですね。」
これだけの人数が揃っていても、だれもこの絵を鑑賞しようとは思わないのだ。それは、書き手にとって何より辛い。

「いくぜ!」