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旅立ちの朝に(※同人誌「春の湊」より)

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七月、仙台。
 風間さんや天霧さんのおかげで、やっと蝦夷地へ向かう船に乗ることが出来る日。
 わたしは長らく袖を通していなかった少年用の洋服を身に纏い、髪を高く括った。
 思った以上に長く滞在することになった仙台の地。間借りの屋敷も今日限りで引き払い、二度と戻ることはないだろう。
 待ちわびた蝦夷行きだというのに、わたしの心は正直まだ重かった。数ヶ月前に風間さんが得た、新選組の情報や、足取りが途絶えた彼らのその後のことを思うと。
 本当は現実を見ることがとても怖い。けれど、引き返すわけにはいかない。

『…お前は会津で言ったな。俺と共に、新選組の最後を見届けると。あの言葉は嘘だったのか』

 数ヶ月前、厳しい口調と表情でわたしにそう問いかけた風間さんの言葉が胸を突き、崩れそうになるわたしの決意をよみがえらせてくれた。思えば風間さんたちを巻き込んだのはわたし。彼らにわがままを貫いたのだから、最後はどんな結末が待っていようとも、わたしが見届けなくては。

『それがお前の義務だ』

 風間さんの言葉を思い出しながら、胸元で拳を握り強く頷いた。
「…よし」
 決意も新たに、あてがわれていた部屋を出て、居間の襖を開けた瞬間、わたしは絶句し、固まった。



   旅立ちの朝に



 すでに旅立ちの準備を終えていた風間さんと天霧さんが居間にいた。
 けれど、いつもの天霧さんはともかく、風間さんの装いは『いつも』と違っている。
 北上する合間に、風間さんもわたしも便宜上、洋装に衣を替えていたわけだけれど、彼は紫を主体とした色合いのものを常にまとっていた。にも関わらず、今日は目を剥くほど華美な姿に、思わず「うっ?!」と声を発してしまう。
「やっと来たか。遅いぞ千鶴…船に乗り遅れる気か」
 慣れた尊大口調に今は反応できないほど、わたしは風間さんの『衣装』に釘付けになったいた。
 ほぼ、全身白の上下に、金・黒・赤とで縁取られ、彩られた、おそらく軍服の類い。ご丁寧に革の手袋をつけ、足元にはまだ土につけていない長靴…いえ、『ぶーつ』が置いてある。
 それ以上に、肩に掛けられた、その黒い毛皮の襟巻きの豪奢さといったら……。
 この頃、世間的にも洋装は少しずつ目にするようになって、いくつか種類も確認してきてはいたけれど、これほど華美なものは見たことがない。洋服には詳しくないわたしでも、この姿で外を歩けば、今の風間さんがいわゆる『悪目立ち』をすることだけは間違いないと確信できた。
 ぽかんとして反応を示さないわたしの様子にはじめは怪訝にしていたものの、「ああ」と何かしら合点がいったようにつぶやき、ふっと彼は笑みを浮かべた。
「……言葉を失い、目を皿にして見とれるほど、いい男か?」
 その揶揄するような余裕の口ぶりに、はっと我にかえり惚けていたことに赤面しながら、早足で風間さんに詰め寄った。
「み、見とれてません!絶句していたんです!…もう、な、なんですか?!そのものすごく派手なお洋服は…!」
 上から下まで何度か眺めながら、天霧さんにも意見してもらおうかと視線を送る。と、彼は「もう何も言うまい」とばかりに顔を背け押し黙っている。…わたしが来る前に着衣を改めさせることは、早々に諦めたのかもしれない。
「なに、俺ほど白が似合う男もおるまい…」
 しれっと自画自賛する風間さんにクラリと目眩がした。
「似合うとか、似合わないとかの問題じゃありません!派手すぎて世間様がびっくりします!」
 びっくりするだけならばまだいい。どちらかといえば華美すぎて、人相の悪い方々に絡まれる可能性の方が高い。
「十歩あるくごとに、何かしら絡まれます、悪そうな人たちに!」
「…お前は俺が人間ごときになめられると思っているのか。下らぬことを…」
 目くじらを立ててまくしたてるわたしに、風間さんは眉を寄せて不快そうにつぶやく。
 確かに、彼らの独特な雰囲気に気圧されて、絡んでくるほどの度胸ある人間たちは今のところなかった。絡んできたところで、こっぴどく返り討ちにされるだけだろうということも容易に想像はつく。
 が、出来るだけ面倒は避けた方がいいに決まっている。彼に絡んで怪我をする不運な人はなるべく少なくしたい…。
 しかし、何故、今この時を選んで、この格好なのか。
「……でも、どうしたんですか?そのお洋服…。はじめて見ましたけど」
 このままでは暖簾に腕押し。もともと会話が成立しにくい相手なのだから、まずは冷静になろう。
 片手で頭を押さえながら、わたしはうんざりと問いただしてみる。と。
「ああ……最近、俺宛に風間の家から荷物が届いていただろう」
 いつもの抑揚の少ない口調で彼は素直に応じる。
「…ああ…そういえば…」
 言われてみれば、思い当たる。
 風間さんはともかく、天霧さんは故郷の一族たちと連絡を密に取り合っているようだった。頭領が役目を終えても戻らないのだから、移動先でも居場所を知らせる必要があるのだとわたしにも理解はできる。そのおかげで、風間さんの実家からお金も送られてくるのだし(そういう意味で、彼らの財力には謎も多いけれど)。
 最近、たしかに大きめの荷物は届いた。でも中身について伺うこともしなかったので今の今まで知らなかった。でも、何故、これ?
 口をヘの字にしていぶかしむわたしに風間さんは淡々と続ける。
「何やら異国より頭領たる俺にふさわしい服を手に入れたからと、一族の女どもが寄越してきたのだ。一度くらいは着てやらねばな」
「……は、はぁ…」
 風間さんの一族の方々(主に女性)はどういうつもりで、こんなに華美なものを送ってきたのだか…わたしには理解できない。
 純粋に『似合うから』という理由ならば、相当……………だろう。
 盛大にため息を漏らすわたしに、風間さんは不満そうな顔を見せる。
「…なんだ、そのため息は。まさか、似合っていないと言いたいのか?」
 なにが、まさか、ですか。
「…似合ってないとは言ってません。ただ、目立ちすぎると言いたいだけです。特にその、すごく豪華な襟巻きなんか、物取りに合いそうで危険です」
「俺のような”すたぁ”はこれくらい必要だろう?」
「……す、すたぁ?」
 聞き慣れない言葉を耳にして、怪訝に首をかしげる。まるで子供が発するようにつたなくつぶやくと「異国の言葉だ。気にするな」と不敵に笑う。…なんなのだ、一体。
 ともかく、何と言って説得しようかと、じっとその艶めく黒い襟巻きを眺めていると。
「なんだ…千鶴。欲しいのか…?」
「ええ?…いえ、そんなことは一言も言ってな…………わっ」
 わたしの言葉を遮るように風間さんは有無もなく、肩にかけていたそれをわたしに巻き付けてくる。
 体感したことのないその肌触りや毛皮や毛並みの柔らかさに驚き、一時言葉をなくして、瞬きを繰り返しながら、もふもふとした襟巻きを触って感触を確かめてしまう。
「……すごく暖かいです」
「ああ、それは鼬(テン)の毛皮だ。異国では”みんく”とも言うらしいが…」
「…”みんく”?…そうなんですか?………………あ、……って!そうじゃなくて…っ!」
 風間さんの調子に乗せられそうになりながら、本来の目的を思い出す。