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白 昼 夢(※同人誌「春の湊」より)

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「見られて構うことはあるまい。お前は近く、俺とともに西へ旅立つのだから」
 疑いのない口調で言われ、千鶴は瞳を細めた。
「…もう、なに勝手に決めてるんですか。そういう大事なことは、まずちゃんと話し合うべきです。………って、風間さん??人の話を聞いてるんですか?!」
 早口で文句を言う間に、再び千景は近づき、避けようとする彼女の手を素早く取った。
「この旅路で疲れたのでな、俺も少々休みたい。さしあたって、お前の家で休ませてもらおうか」
「……ちょ…やっぱりわたしの言うこと聞いてませんね…?」
「立ち話がしたいのならば構わぬが。お前には都合が悪いのではないか?」
「うっ………もう…わかりました、お茶くらい出しますからあがってください。それから、西に行くとかいう話はちゃんとしましょう?」
「やれやれ…結論など出ているだろうに…。…まあ、そんな無駄な時間も悪くはないが」
 どこか愉快そうに薄い笑みを浮かべ、そのまま千鶴の手を引いて、門の中へと歩き出す。繋がっている手と千景の背中とを交互に見ながら、今更狼狽えて来る。
(逢いたいなんて思ったら、…本当に、風間さんが来ちゃった…どう…しよう…?)
 驚きより、嬉しい気持ちが勝っている。繋がっている手の、確かなぬくもりに眉を寄せた。
 からかっていたわけではなかったのだ。からかわれていたわけでは…。
(こうして、迎えに来てくれるほど…本気でわたしを求めてくれていた…)
 熱いものが胸に流れ込み、甘く苦い感情を掻き立てる。
 これが何か、千鶴にもわかっている。
 再会は女心を満たすほど感動的ではなかったものの、千鶴の心はしっかり揺れた。揺れてしまった。
(わたしが、この気持ちを育てることを諦める前に、もし、風間さんが逢いに来てくれたのなら……わたしは、きっと………彼と生きる道を選び取る。…だから、)
 これからきちんと、この気持ちと、彼と、向き合うことにしよう。
(だからもう少しだけ、待っていてください…。わたしが恋を自覚できるまで、もう少しだけ…)
 気持ちを伝えるように、千鶴は繋がっている手に力を込めた。





【後書きみたいなもの】
原作ゲームとは、台詞等異なります(そのあたりは創作しています)。
江戸に千景さんがやってくるまでの、千鶴さんのヒトコマを織り交ぜました。