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千姫の受難(※同人誌「春の湊」より)

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お風呂から上がり、髪の水分をとりながら、お部屋で髪を櫛で梳いていると、襖の外から声がかかる。
「…千鶴、少しいいか」
 気配もなかったので驚いてびくりと肩を振るわせながら、慌てて振り返り、「は、はい」と返事をすると部屋の襖を開けた。
 そこにはすでに寝間着姿の千景さんが。
「ど、どうしたんですか?」
「ああ、先ほど天霧から繋が来たのだが」
「?…はい」
 繋ぎとは連絡のこと。
 どこか少し面倒くさそうに瞳を細めて、千景さんは続けた。
「千姫がここにくるぞ」
と。
 その名前に、わたしはまさかと千景さんに詰め寄る。
「お千ちゃんが?!…江戸に?!」
「あぁ、天霧を連れて北に住む鬼たちの様子を見に行くついでに、ここへ寄るらしい。およそ三日後には到着するそうだ」
「!」
 わたしはその知らせに自然と笑みを浮かべた。
 お千ちゃんが江戸に来る!彼女と別れてからさほど月日は経っていないはずなのに、もう何年も会っていないような気がするから不思議。わたしにとっては数少ない女の子の友達だから、なおさら嬉しい。
「…三日後なんですよね…あ、その日は診療所を少しお休みして…おもてなしの準備をしないといけませんね!」
 嬉々として千景さんに問いかけると、複雑そうな顔を見せている。
「嬉しそうだな…」
「え。ええ、だってお千ちゃんと久しぶりに会えるんですもの」
 にっこり微笑むと彼は嘆息を漏らす。
「…俺はあの姫は苦手だ」
 肩をすくめて本当に苦手そうに呟くので、わたしはぷっと吹き出してしまう。
 この千景さんにも苦手なものがあったなんて(それがお千ちゃんだなんて)。
 彼の意外な弱点を見つけた気がする。
 くすくすと肩を揺らして笑いを漏らすわたしを千景さんは持て余し気味に見つめていた。



千姫の受難



 天霧が風間に繋ぎをつけて三日後、わたしたちは予定通りに江戸入りをする。
 直接わたし自身が江戸を訪れるのははじめてで、町の風情はやはり京とは違うものね…と物珍しい気持ちできょろきょろしてしまう。
 そんなわたしの後ろから天霧は苦笑気味について来る。
 わたしが今回江戸に来たのは、雪村家滅亡の後、東や北の鬼たちの暮らしを見て回る、その途中の骨休め。そして、かつて京で出会った同じ純血の女鬼である雪村家の生き残り、千鶴ちゃんに会うことが目的。本当は大半がその目的のために計画した旅でもあったのだけれど、立場上そんなことは口に出せない。
 彼女が新選組とはぐれて風間に拾われ、一緒に北を目指すと言い出したときは本当に青ざめたものだけれど、無謀なのか度胸があるのか、千鶴ちゃんは結局そのまま風間と蝦夷まで行ってしまったのだ。
 心証の悪い相手であるはずの風間を頼らざるをえないほどあの時の彼女は切迫していたのだろうけれど…本当に、どうなることかとわたしは心配していたのに。
 それから半年以上が過ぎ、どう転んだのか、風間は千鶴ちゃんに本気で求婚したことを天霧から聞いたときは、「えぇ?!」と思わず口にしていたお団子の串を喉にさしそうになったし、風間を好いてなんていなかったはずの千鶴ちゃんも迎えに来た(?)風間と今は一緒に暮らしているというし…混乱のあまり、手紙を出してみると、返事は日々のあれこれよりも風間に対する愚痴が延々と綴られ…。これは…もしかして虐げられて、無理矢理嫁入りさせられそうになっているのでは…とわたしが焦って、もう、居ても立ってもいられず、天霧を呼び出して今回の旅を決行した。


 運がいいのかどうなのか、わたしも鬼だけに体力には自信があったし、思った以上にはやく江戸入りで来たわけだけれど…。
 元は綱道さんの診療所だという千鶴ちゃんのお家をたずね、すでに夫かのように当たり前の顔でくつろいでいる風間と、わたしたちにお茶を出す千鶴ちゃんの間に、緊張感にも似た、冷たく張りつめたものがあることに気づいて、わたしは「来ない方がよかったかも…」と早速後悔をした。
 先ほどまでは再会を喜んで、戸口では手と手をとりあってきゃっきゃ言い合ったのも束の間、風間登場後からこの空気。…一体?
 しかし、ここでわたしが黙ってしまったらますます張りつめるだけだろうから、ふたりの間にある緊張感には気づかないふりをし、つとめて明るく振るまい、千鶴ちゃんを見やる。
「本当久しぶりね!…えっと、千鶴ちゃん、調子はどう?」
 何が?と自分でも突っ込みながら、引きつりそうになる笑みをなんとか保たせる。
「全然元気ですよ。お千ちゃんは?」
 彼女も笑みを浮かべてわたしに問いかける。ちらりと千鶴ちゃんの傍にいる風間を見やれば、相変わらずの態度で彼女が淹れてきたお茶に口をつけている。
「…わたしも元気。すっごく、元気」
 ははは…と乾いた笑いがわたしから漏れた。
 ああなんだろう、この空々しい会話。
 千鶴ちゃんは笑ってはいるけれど、たぶん、きっと、間違いなく、ご機嫌斜めだ。それでも不機嫌さをわたしに見せないように彼女もまた、つとめて優しく振る舞っているのだろう。わたしを不愉快にさせないように。
 何のための江戸入りか。気まずくなるために来たわけじゃない。
 傍で控えている天霧に目をやると、彼はやれやれとばかりに我関せずを決め込んでいるようだった。…ちょっと、何?天霧ってば、これに慣れてんの?!
 天霧からの援護は期待できないとわかった以上、わたしはむうと千鶴ちゃんと風間を交互に見据える。
 わたしの長所であり、欠点でもある、はっきりきっぱりした性格が、この張りつめた空気をよしとしなかった。だからこそ、あえて切り込むことを決める。
「……で、何?千鶴ちゃんと風間、わたしたちが来る前に喧嘩でもしたんでしょ?こっちがすごく居たたまれないから言ってもらえる?原因」
 はぁとため息を漏らして、わたしはそう伝えると、千鶴ちゃんははっと目を見開き「どうしてわかったの?」とばかりに驚いている(風間は無表情のままだけど)。…わからないでか。
 そして、気まずそうに千鶴ちゃんはちらっと風間を見やり、その視線に気づいた風間が彼女と目を合わせると、露骨に千鶴ちゃんはぷいと顔をそむける。
「…風間、あんた一体千鶴ちゃんに何したのよ…」
 彼女のあからさまな態度からして、どうせ原因は風間にあるのだろうし。そもそもわたしは千鶴ちゃんの味方であって、風間を擁護してあげる気はない。一切ない。
「…俺は特に何もしてないが。千鶴が勝手に腹を立てているだけだ」
 わたしと目を合わせることもなく、風間は抑揚の少ない口調で言葉を紡ぐ。が。
「何もしてないのに千鶴ちゃんが怒るわけないでしょ。白状なさい、命令よ」
 ここはもう、すべての鬼の上に立つ権限とやらを行使してやる。…下らない命令だけど。
「白状もなにも、千鶴がねず……」
「きゃぁぁーー!!い、言っちゃ駄目ですよ、千景さん!!言わない約束です!!」
 風間を先ほどまで無視していたはずの千鶴ちゃんが血相をかえて、風間ににじり寄る。
「京の姫が命令だと言った以上、仕方あるまい…。俺も一応は千姫の下についている身なれば」
 一応は余分よ、風間。配下のくせに、頭を垂れるどころか、殊勝な振る舞いすら一度もしたことないくせして。