誓いは邂逅の夜に
誓いは邂逅の夜に
「三成様。本日は、もう御休み下さい。竹中様も気に掛けておいでですので……」
時刻は夜明けも遠く無い頃。
自室で馴れぬ執務に勤しんで居る三成の許に小姓が顔を出す。
控えめに開かれた襖の方を見遣り、一瞬だけ怯えた様に肩を竦めた其れを下がらせる。
――もう、そんな時間か――
自愛と遠い生活をしている三成には、珍しく無い胸中の呟きだ。
普段なら、竹中と云う単語を聞いた時点で直ぐに執務を取り止める。
仕える者に要らぬ配慮を頂く等、在っては為らぬ事だ。
だが今日は違った。
今日中に明日の仕事も、ある程度は終わらせると決めているのだ。
例え、不眠不休に為った所で構いはしない。
明日は、戦に出る予定も無い。
日々熟すべき執務さえ終わらせて居れば、休養も同じなのだ。
為らば、朝までに終わらせずに何としよう。
一度筆を置き、一息吐き出す。
豊臣軍に元服してから、脇目も振らずに戦場を駆けては執務を熟す日々を過ごして来た。
然し、思う所が無かった訳では無い。
吉継だ。
三成の意識の中には常に、病に侵された友が在った。
皮膚が爛れる奇病。
昔から発症していた皮膚症状に留まらず、四肢の痺れが出始めた吉継は殆ど籠り切りだ。
そして元服し立ての三成は多忙を極めて居る。
其の所為も在って、永く会って居ない。
もう、1年半は優に経っている。
其れが如何だろう。
兼ねてから交わしていた文に寄れば、嘗てから趣味の如く行なって居た咒い遊びが功を為したとか。
戦場に出られる状態ですら在ると云う。
何を如何すれば彼の身体で戦場に出られるのかは解らないが、此の間の遠征の帰りで吉継の様子を伺いに行った半兵衛が云うのだから間違いは無いのだろう。
そして、文には明日は吉継の方から此処に来ると在った。
久し振りに会う友の為、時間を割きたいと思わない筈が無い。
況して、文を読む限り吉継の精神状態も悪く無さそうなので尚更だ。
明日は何をして過ごそう。
話したい事は山の様に在る。
上手く言葉にする自信は無いが、相手が吉継為らば問題無い。
吉継は、三成の一つの言葉から十の意を汲んで呉れる。
豊臣軍に尽くす事を生き甲斐として来た三成に取って、半兵衛と秀吉の「休め」の言葉に此れ程の歓びを覚えたのは初めてかも知れない。
二人に心からの感謝を呟く。
正直、今日だけで片手の指では足りない位に呟いた言葉だが、其れでも三成に取って足りない程で在った。
友との再会、そして其れを気遣って呉れる関大な上官。
2つの歓びに緩んだ表情と精神を引き締め、再度筆を取った。
久しい再会に[仕事が円滑で無い]等と云う無様を曝さぬ為にも、吉継の到着までに8割は終わらせる。
そう意気込み文机に向かい直した。