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誓いは邂逅の夜に

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耳を擽る鳥の囀りに、今ようやっと現実に引き戻された様な錯覚を憶える。
処理を済ませた書類の山。戦場に立つ上で最低限必要な知識の課題。

其れは、高々2日分でも相当な数だ。
山と為った其れを眺め乍ら満足気に笑みを浮かべる。

当初の予定では今日の分は少し手を付けるだけの予定だったが、終ぞ終わらせられる分の総てが片付いた。
誰に見せるでも無いが「当然だ」とばかりに鼻を鳴らし書類を纏める。

そして、今の時間を思い返した。
もう、陽が昇って結構な時間が経つだろう。

此れは拙いと、三成は急ぎ身嗜みを整える。
兼ねてからの友と云えど、吉継と三成は元服を済ませた武将だ。
先ず、豊臣軍同志としての再会が先であらねば為らない。
着流し姿等、礼を欠くにも程がある。

更に云う為ら、秀吉と半兵衛への朝の挨拶を欠かす訳にも行かない。
そして、今日割いて貰った時間、与えられた休息への謝辞、其れから……と三成の不器用且つ空回り気味な思考が駆け廻る。
ドタドタと足音も荒く身形を整え、今日の予定を脳内で反服し、と忙しなく動き廻る彼には部屋に近付く賑やかな足音等届いて居なかった。
が、其の[部屋に近付く足音]の持ち主は、何の躊躇いも無く襖を開け放つ。


「三成。起きてるか?珍しいじゃないか、お前が床を出るのがワシより遅いなんて「煩い邪魔だ退け!!」


不眠明けの、何時もより険しい表情が家康を突き飛ばす。

何時も以上に棘の在る声音。
一兵卒で在れば腰でも抜かしそうな声音視線だが、そんな物に怯む家康ではない。
気付くか否かすら危ういと云う物だ。


「三成、今日は機嫌が悪いなぁ。……何時もか」


そんな朗らかな言葉で返せるのは、世界広しと云えど家康だけで在ろう。





-------------------------…………





廊下から短い悲鳴が数多く聞こえる。
驚きの色で響く物から、怯えを含んだ物迄。

半兵衛は苦笑を隠しもせず、秀吉に振り返った。


「今日は一段と賑やかだね」
「何、三成も未だ若い。仕方なかろう」


朗らかな視線を交わし合い、然し半兵衛の眼が憂いを帯びる。


「少し、早まった気もしなく無いね」


ぽつりと呟かれた言葉に、秀吉も険しい表情を浮べた。
突然訪れる重圧。


「吉継の事か」
「そうだよ。余り、善い結果ばかりとは云えない気がしてね」


神妙に為る二人。
然し、一秒毎に激しく為る喧騒に込み上げる笑いを押さえる事は出来なかった。


「今だからこそ。そう云ったのは半兵衛、お前だ。三成と吉継為ら大丈夫だろう」
「そうだね。下らない杞憂かも知れない」


そんな会話の最中、一際大きい悲鳴と、其れを凌ぐ「秀吉様の御膝元で騒ぐな!!」と云う元凶で在ろう彼の叱責が響いた。

そして訪れる静寂。
襖の向こうから、衣擦れと咳払いが聞こえる。


「秀吉様、失礼致します」


今迄の喧騒の中心とは思えない落ち着きの在る声音。
静かに襖が滑り、三成が深々と頭を垂れる。


「御早う、三成。否、眠って居ない者に「御早う」は間違いかな?」


室内を確認する事も無く礼をしていた三成は、聴こえた声に驚き顔を上げる。


「三成……昨日云った筈だよね?折角の友との再会なのだから、身体を休める様に、と」
「半兵衛様!!私は此の程度、苦に為ろう筈も……いえ、御云い付けを破った事、深く御詫び申し上げます」


訴え掛けて来た直後、己の行為を恥じる様に俯く。
本当に何処迄も不器用な男だ、と秀吉が笑った。


「今日ばかりは固くなるな、三成。其れより、もう直ぐ吉継が到着するぞ、再会の準備も在ろう」
「然し……他を疎かにする訳には……」


先程から、行動や言動に先走りや空回りが目立つ。
普段であれば、半兵衛や秀吉に失態を見せまいと取り繕って居るだろうが、
如何せん今日は浮かれて居るのだろう。


「其の為に、眠りもせず机に向かっていたんだろう?早く行っておいで」
「……半兵衛様ッ!!」


今にも感涙しそうな三成の頭を、秀吉の大きな掌が豪快に撫でる。
三成は照れたのか、居心地悪そうに視線を泳がせた。

秀吉の手が離れると、三成は再び片膝を付いて頭を提げる。


「御二方の御心遣い。心より御礼申し上げます。私等には勿体無い……」


最後までモゴモゴと、言葉にし切れない歓びを行動にチラつかせながら三成は退室していった。
其の背を見送る秀吉と半兵衛の視線は、君主と云うより親に近い。


「矢張り、心配は要らぬ様だぞ」
「そうだね。まさか彼処まで浮かれてるとは思わなかったよ」


感心する様に云う半兵衛は「其れすら凶とでたら……」と云う無粋な言葉は呑み込んでおく事にした。
悪い方に考えるのは参謀と云う立場上だろう。
決して[そう為る]確率が高い訳では無い。


悪い考えを捨てる様に、進軍先を決め倦ねている事を思い出す。
為る様にしか為らないと、半兵衛にしては珍しい放任的な考えで思考に終止符を打った。
作品名:誓いは邂逅の夜に 作家名:喰褸