IS バニシング・トルーパー 000-002
テーブルから身を乗り出して、箒がクリスに迫る。
「ああ、あれは開発中の副産物で、うちの商売分野じゃないだから、商品化されてないぞ」
ガクッと、箒と隣のテーブルの女子たちが一斉にこけた。
「商品化しろよ!いや、してくさいよ!」
「まあ、俺の手持ちはまだ残っている。こっちに届いてる荷物には入っているはずだ。欲しいなら分けてやるよ」
「本当か!!」
「ああ。今夜に荷物を整理したら、持っていく」
「ああ、ありがとう!」
「…箒とも直ぐに仲良くなれるなんて、クリスって人と親しみやすい体質なの?」
嬉しそうな顔をしている箒と、既に料理を完食してデザートのバナナを食べているクリス見て、一夏が話に入ってきた。
「べ、別に仲良くなんて…!」
「普通だろう」
慌てて弁解する箒と対照的に、食べ終ったバナナの皮をテーブルにおいて、クリスは手を拭きながら淡々と答えた。
「ところで、クリス」
「うん?」
一夏も食べ終った後の食器を置いて、真剣な顔でクリスに話掛けた。
「…クリスって、ISの腕が凄いの?」
「うん…一夏の凄いの基準は分からないが、それなりの自信はある」
「なら、俺にISのことを教えてくれないか?」
「…やっぱり、あの金髪お嬢さまに勝ちたい?」
「まあ、出ると決めた以上、負けたくないのが男ってもんだろう」
「そうだな。べつにいいよ、ISを教えても」
「本当か? サンキュー!」
「気にするな、最初からそのつもりだったし。そう言えば、一夏。お前は専用機を持っているのか?」
「専用機って?」
「個人のためだけに作られた専用ISのことだ」
あまりにも基本的な疑問を持つ一夏のために、箒は簡単な説明を入れた。
「おっ、物知りだな、箒は」
「常識だ、馬鹿もの」
箒は眉を寄せて軽く一夏を睨める。
「って、つまり持ってないと」
「入学早々、持ってる訳ないだろう。クリスは専用機持ちなのか?」
「俺?俺は機関が作ったISなら何でも使うから、厳密に言えば専用機持ちではない。でもこの学園に来る時は、一応新型のISを預かって来た。」
「へえ~」
「因みに、あのオルコットは専用機持ちだ」
「えっ、そうなの?じゃ俺の場合はどうなるの?」
「普通に考えば、お前は多分訓練用の量産機を使うことになるだろう」
「量産機か…渋い響きだぜ」
「ふん、分かってるじゃないか。量産機にも量産機の戦い方がある。とりあえず、お前はそれを借りて来い。話はそれからだ」
「わかった。先生に聞いておく」
クリスの意見を聞いて、一夏は頷いた。だが、側に座っている箒は直ぐに水を注して来た。
「今からじゃ、多分無理だぞ。訓練用ISの使用を申請する生徒は多い。今から予約しても一週間内は無理だろう」
「ええ~!そんな~?!」
一夏が力抜けたように、テーブルに顔を俯せた。クリスもまさかそんなに時間がかかるとは思わず、手を顎に当てて考え込んだ。
「…なっ、一夏お前って、剣道できる?」
「うん?小学校の時箒の家の道場で学んだことがあるけど、それがどうかしたの?」
「…中学の時は何をしてた」
何が気になったのか、いきなり箒が一夏に聞いてきた。
「中学三年間は、帰☆宅★部所属してたぜ!」
「お前ってやつは……!」
「痴話ケンカは後にしてくれ、篠ノ之。」
「べべべ、別に痴話ケンカなんて……」
顔を赤して弁明する箒を無視して、クリスは一夏との会話を続く。
「日本の量産機・打鉄は接近戦用のブレードを使う。だからお前は取り合えず剣道の練習をしておけ。ISの方は俺が何とかする」
「何とかなるのか?」
「多分な」
「……」
「……どうした」
「何から何まで面倒みてくれて、本当にありがとうな。クリス」
「気にするな」
申し訳なさそうな顔している一夏を見て、クリスが軽く手を振って、食器を片付け始める。
「オルコットに勝ったら、何か美味しいものを奢ってくれればいい」
「ああ! 覚えておくよ」
そうして、第一回セシリア・オルコット対策会議は、予備鈴の音と共に幕が降りた。
作品名:IS バニシング・トルーパー 000-002 作家名:こもも