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IS  バニシングトルーパー 003-004

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stage-4 凶鳥の眷属





セシリアと罰ゲームの約束をした日から、既に二日経った。
 週末明けの月曜日の授業が終わり、一年一組の生徒達は、第三アリーナに集まった。
 これからは、クラス代表の座をかけた勝負が始まる。
 しかし参加者の一人である織斑一夏の専用ISが、未だに到着していない。
 「まさか本当に試合直前までに届くとはな」
 アリーナのピット搬入口で、一夏が愚痴を零して、背を壁に預けた。
 今搬入口には、一夏のほかに、クリスと箒も居た。不安な表情で上の段階にあるモニター室にいる千冬と真耶の教師二人を見上げて、そわそわしている一夏と対照的に、既にISスーツに着替えたクリスが床に座って目を閉じて精神集中していて、二人から少し離れている箒は、ただ無表情で腕を抱いて一夏の方を見つめていた。
 「って、結局俺、この一周間一回しかISの練習してないけど、そんなで大丈夫か?」
 「大丈夫だ、問題ない」
 一夏の問いに、クリスが目も開けずに答えた。
 「いや、そのネタだと、ダメってことだから」
 「と、弟子が不安がってるが、実際はどうなんだ?篠ノ之師匠」
 目を開けて、クリスは箒の方へ視線を向けた。
 「誰が師匠だ。まったく……」
 話題を振られて、箒はやっと口を開けて、二人の近くに来た。
 
 「でもこの一週間、一夏に稽古をつけたのは篠ノ之だろう?どんな感じだった?」
 「まだまだだな。こいつは小学校の時私より強かったが、今はただの腑抜けだ」
 ふんっと鼻を鳴らして、箒は非難の目線で一夏を睨む。
 「仕方ないだろう、中学の時は家事とかで、部活なんてやる余裕なかったんだよ」
 「家事?一夏がやってたのか?」
 一夏の両親が失踪したという事実は、既に入学前に渡された資料に記載されていたが、織斑家の家事は千冬ではなく、一夏の担当だったことはクリスにとって意外だった。
 「まあな。うち、千冬姉と俺だけだし、千冬姉は家じゃだらしいないしな。知ってた?千冬姉の部屋はいつも服が散らかしていてな、よく俺に……」
だがクリスの問いに、一夏はただ懐かしいそうな表情で答えた。
 「一夏!それ以上言ったら……」
 三人はそう大きくない声で会話していたが、運が悪くモニター室にいる千冬に聞かされていたようで、スピーカーで自分の弟を脅迫して来た。
「げっ、地獄耳かよ……」
 最も怖い相手に脅されて、一夏の顔が一瞬で恐怖の色に染まった。小心者の一夏が怯える姿をみて、クリスの顔に笑みが浮かべた。
 「…笑うところじゃねえぞ! お前は千冬姉の恐怖を知らないから……」
 「いや、嘲笑いのつもりはない。ただ、姉弟二人仲いいなと思って」
 「そうか?まあ、長い間二人でやってきたから、確かに仲は悪くないが……」
 髪を掻きながら、微妙に照れている一夏だった。そんな一夏を見て、箒がまた鼻を鳴らして、不機嫌そうな顔して目を逸らした。
 「まあ、毎日姉と会えるだけでもいいじゃないか」
そう言っているクリスの口調に、少々寂しさが混ざっていた。それを気付いた箒は何かが気になったみたいに、口を開けた。
 「クレマンも、その……姉がいたのか?」
 「ああ、居たよ。もう数ヶ月あっていないが」
 「へえ~姉がいたのか。会えないのは、やっぱりお前の仕事が忙しいから?」
 会って数日、自分の話をあまりしないクリスから家族の話を聞いて、一夏も興味がわいて来た。
 「うん~実は姉さんもハースタル機関に就職していてな。イングラム社長の仕事を手伝ってるから、俺なんかよりずっと忙しいよ」
 「社長の手伝い?何か知性的OLな感じだな。うちの姉とおおちが……っは!」
 ガラス越しに、担任先生が自分を睨んでいるのに気付いて、一夏が慌てて手で口を塞いだ。ただの仏頂面をしているように見えるが、実の弟である一夏は、本能であの視線の中に篭められている殺意を理解した。
 「……そうでもない。俺にISを教えたのは姉さんだったよ。あの時は毎日ダメ出しされて、よく鬼のようにトレーニングメニューを追加してくれたものだ」
 まるであの時の苦痛を思い出したように、クリスの顔色の少し青くなった。
 「……お前たち、似たもの同士だな」
 姉の恐怖に囚われている一夏とクリスを見ていて、箒が率直な感想を口にした。
 「「どの辺が?」」
 男二人の声が見事にハモった。
 「シスコンの所が」
 「「……」」
 「なぜ黙る!」

 「二人とも、オルコットさんは既に準備ができましたよ」
 モニター室にいる真耶が、相手の入場を男子二人に知らせる。
 顔を上げて搬入口のモニターを見ると、既にISを展開してアリーナの上空で待っているセシリアが映されていた。
 「仕方ない、とりあえず俺が先に出よう」
 あまりレディに待たせるのは流石に気が引くと思って、クリスは床から立ち上げて、一夏に自分が先陣を取る意図を伝えて、
 「構いませんよね、先生!」
 大声で操縦室にいる先生二人の許可を請った。

 「どうします?」
 窓際に座っている真耶は後ろに立っている千冬の意見を求めた。
 「うん……山田君、織斑のISの搬入は後どれくらいかかる?」
 「えっと、後三十分前後ですね」
 「……アリーナの使用時間が限られている。仕方ない、クレマンを先に出させろ」
 「分かりました」
 ガラス越しで、真耶は手でオッケーのサインをしてクリスに見せる。 
 「やれやれ、あの馬鹿もついてないな」
 千冬が頭を押さえて、ため息をついた。それを見て、真耶は不思議な顔して頭を傾けた。
 「どうしたのですか?」
 「……先にクレマンとオルコットを戦わせるなら、織斑は一戦の機会が失う。三人の中、一番経験の少ない彼には、少しでも多くの経験を積んで欲しかったが……」
 話の途中で、千冬は真耶の顔がニヤニヤしているのを気付いて、口を閉じた。
 「織斑先生は弟が大好きですね~!」
 「…今のは身内贔屓と取れる発言だったな。すまんが忘れてくれ」
 「照れました?」
 「……」
 千冬が無言に真耶の側まで近づいて、左手で真耶の頭を鷲掴みで持ち上げた。
 「いたたたたたた、割れます、割れますから!織斑先生!」
 千冬のバイオレンスな照れ隠しに当てられ、真耶が悲鳴を上げる。
 「……私はからかわれるのが嫌いだ、山田くん」
 「分かりました、分かりましたから! あっ、わあああああああ!!」
 真耶の断末魔が、ビット搬入口からアリーナ観客席まで響き渡った。

 「んじゃ、先に行くぞ。後で俺とやり合うことになるだろうけど、手加減を期待するなよ」
 ガラスの向こうに起きている虐殺(?)から目を背けて、クリスは一夏に軽口を叩いた。
 「お前こそ、油断してオルコットにやられたら、俺が仇をとってやるよ」
 「抜かせ。篠ノ之、コイツを頼んだぞ」
 「俺は子供か!」
 「な、何で私が……!」
 一夏のことを押し付けられて、箒が不満そうな表情をした。
 「えっと、毎日一夏と二人きりで道場に篭ってたから?」
 「あ、あれはただ、こいつの腐った根性をだな……」

 一瞬で顔が真っ赤になって動揺する箒が、大声で弁解しようとするが、そんな彼女を無視して、クリスは胸元のドッグタグを持ち上げて、今の相棒の異名を呼んだ。