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IS  バニシングトルーパー 003-004

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 「来い、エクスバイン」
 蒼い光の粒子が彼の身を包み込み、一秒もしない内に、エクスバインと呼ばれる、スマートなシルエットをしている蒼い鎧が、彼の身に纏った。ただ前回の展開と少し違ったのは、今回クリスが展開したエクスバインの右腕の方には、大きな長方形ケース状パーツが取り付けていることだった。

 (サイコクラッチ、接続……グラビトンシステム、フォーマット開始。テスラドライブ、展開)
 クリスが心の中で黙々と念じると共に、エクスバインのパックパックの翼パーツがゆっくり展開していく。
 「クリストフ・クレマン、出る!」
 クリスの言葉と共に、既に翼を全開したバックパックから膨大な推力が噴出され、クリスとエクスバインを共にアリーナの空へ押し上げた。

 今日はこの行事のため、最後の授業時間を潰したので、アリーナの観客席に居るのはクラスメイト達だけだったが、クリスとエクスバインがアリーナに飛び込んだ時、僅かな歓声が上げた。
 「これがクリスさんの専用機でしたわね」
 クリスがアリーナに登場すると、すでにアリーナの上空で待っていたセシリアが話しを掛けてきた。
 「うちの新型技術実験機、エクスバインだ。専用機という訳ではないが、俺の使用を前提に調整してある」
 こうして並んで見ると、ブルーティアーズとエクスバインは共にブルーを基調としていて、細部に白と黄のパーツで飾られているため、カラーリングの構成がかなり近い。
 「そうでしたか。近くで見ると、中々華奢なISですね。そ、それに、私のブルーティアーズと色が、お、お揃いですわね」
 このことを喜ぶセシリアの声が、段々小さくなって、最後の方はクリスの耳に届かなかった。
 「ん?何か言った?」
 「い、いいえ。それより、罰ゲームの件、覚えてらしゃいます?」
 「バニーの服ならもう届いたぞ。ピンクとブラック、どっちがいい?」
 「二着も買いましたの!? ってそっちではなくて、デートの方ですの!」
 「デート?そんな話したっけ?」
 「なっ!素敵なディナーに誘って頂けるとおしゃったではありませんの!」
 クリスがまったく覚えないって顔を見て、セシリアが思わず焦ってしまった。
 「ああ、奢りね、覚えているよ」
 フォトンライフルSを握り締めて、銃口をセシリアに向ける。其れを見たセシリアも一瞬で目つきを戦士のモノに変え、スターライトMK-IIIを構えた。
 「但し、勝てばの話だろう!」
 「エスコート、お願いしますわ!!」
 重ねた言葉と同時に、両者は躊躇無く同時にトリガーを引き、銃弾が交差した。


 初撃を撃った後、両方は一旦距離を取った。
 「チッ、トリガーのタイミングを早くなったな」
 間一髪でセシリアの射撃をかわしたつもりだったが、クリスの視界に映るエネルギーシールドゲージが僅かに下がった。 
 「如何でしたか? わたくしの射撃は」
 綺麗な金髪が揺らして、セシリアは得意げな表情で言った。 
 「掠っただけで調子に乗ってもらっては、困るな!」
 スラスターを噴かして、かく乱機動を取ったクリスは、ライフルを構えて、セシリアとの撃ち合いに持ち込もうとしたが、セシリアは動じることなく、ただ左腕を水平に挙げて、
 「今日こそ踊って頂きますわ! 行きなさい! ブルーティアーズ!」
言葉と同時に、四枚のフィン状ビットが展開して、クリスへ襲っていく。

 「ブースト……ブレーク、っと!」
 高速移動中に、突然体勢を変えて上半身を後ろへ下げて、推進ベクトルを変えて急停止した瞬間、ビットの攻撃が目の前を通っていく。
 「ビットの攻撃パターンが複雑化したが、攻撃頻度がかなり減ったな。これは一体……」
 セシリアのビットは相変わらず四方八面から波状攻撃を仕掛けてくるが、前回ほどのしつこさは感じない。だがセシリアの自信あふれた表情を見て、何かがあるのは明白だ。
 「なら、まずはビットを!」
 これ以上出方を待っていても埒が挙がらないと思って、クリスは銃の照準を一基のビットに合わせて、トリガーの引こうとした矢先に――
 <警告:六時方向から攻撃>
 エクスバインのAIからの警告メッセージが来た。
 「なにっ!」
 ビットを撃ち落とそうとしている最中に、思わぬ方向から攻撃が来た。慌てて横へバーニアを噴かして、直撃を食らうところを何とか避けたが、それでも掠ったみたいで、シールドゲージが削られてしまった。
 「チッっ……そういうことか」
 舌打ちして、クリスの視線がさっきの攻撃の元へ辿った。
 そこにいるのは、スターライトを構えて、口元がにやけているたセシリアだった。
 「ただ数日で、よくできたな」
 「当然ですわ! わたくしとって、代表候補生の名は伊達ではなくてよ!」


 「お、オルコットさん、ビットの動きを最小限に押えて、あくまで牽制用に回しましたね……」
 大きなヒビが入ったメガネを指で押し上げながら、未だに頭に残っている痛みを絶えている真耶が、セシリアの変化に気付いた。
 「そうだ。それでビットの操縦に割った思考を減らして、本体の動きもある程度可能になったな」
 「凄いね。前回の時と全然違いますよ」
 「……努力もしただろうが、あれが本来の実力だ。前回の戦いはどうも相手のベースに乗せられていたようにしか見えん」
 「じゃ、今回はクレマン君が危ないでしょか」
 「……それはどうかな。山田くん、ハースタル機関が提出したあのISの資料をプリントアウトしてくれ」
 モニターに映っているクリスとエクスバインの空中機動に、千冬が眉を寄せて指を顎を当てて、椅子に座っている後輩に指示を出した。
 「は、はい……」
 辛うじて動き出した真耶は頭を抱えたまま、マウスを握って資料を探し始めた。

 アリーナに戻して、クリスは依然として回避に専念していた。
 クリスが今使っている銃・フォトンライフルSは、ヒュッケバインMK-IIのフォトンライフルの発展モデルで、高速のエネルギー弾丸を連射でき、銃身の長さも1メートル前後で、取り回しやすいが、いかんせん威力も射程も命中精度も、セシリアのスターライトMK-IIIの方が圧倒的に上だった。距離が制限されている今、クリスは完全に抑えられていたが。
 「さすがはクリスさん、なかなか削らせてくれませんわね」
 今のセシリアはビットでクリスの動きを封じて、スターライトを確実に当てていく攻撃スタイルを取っていて、クリスを押さえているものの、エネルギーシールドの方はあまり削っていない。十回仕掛けて、一回を当てるのは精一杯だ。
 だが、焦ってはいけない。前回の二の舞はもうごめんだ。
 セシリアは頭の中で何回も自分に告げる。

 「このままではじわじわと削られる一方だ、なんとか自分の間合いに引き込まないとな……」
 一方、回避運動をこなしていながらも、クリスは反撃に転じる隙を伺っていた。
 こうしている間に、シールドゲージが既に1/5が削られている。其れと比べて、セシリアの方も何発喰らったものの、大きなダメージは負っていない。
 「さて、問題はどうやって、だ。……うん?」
 あれこれ考えているうちに、エクスバインのAIから提示メッセージが届いた。