黒と白の狭間でみつけたもの (3)
〈 第3章 泣き虫ヨーテリー と トウコの秘密 〉
ガサガサッ
ザッ、ザッ、ザッ
草むらの中で何かが動いている音がいくつもした。
いるんだ、ポケモンが。
さっきから、タッくんがときどき立ち止まっては、草の奥をじっとみている。
トウコもその先をじっとみつめた。
1番道路に入って早々、トウコ達は、アララギ博士に呼び止められた。
ポケモンの捕まえ方を教えてなかったからと、追いかけてきてくれたのだった。
博士はわざわざモンスターボールをプレゼントしてくれて、ポケモンの捕まえ方まで教えてくれた。
それから、アララギ博士はトレーナーに必要な基礎を教えるからと、私たちが意見を言う間もなく、足早に先にカラクサタウンに行ってしまった。
トレーナーのグッズが売っている場所なんて、みんな知っているのに。
博士ってば、ほんと世話好きなんだから。
それで、博士を追いかけて、カラクサタウンに向かってるわけだけれど、ベルの提案で、1番道路で誰が一番ポケモンを多く捕まえられるか、競争しながら向かうことになって、今はみんなバラバラだ。
ベルも、チェレンも先に行ってしまってすっかり姿が見えない。
カノコタウンは、イッシュ地方の中でも、ものすごく田舎。
自然がいっぱいといえば、聞こえは良いけれど、ポケモンセンターもなければ、買い物するスーパーだってなかった。
だから、カラクサタウンにはしょっちゅうお母さんと買い物で行ったし、道に迷う事なんてないのだけれど、草むらに1人で入るのは初めてだからだろうか。
なんだか、いつもと草むらの様子が違う気がした。
出かけるときは、決まってお母さんがむしよけスプレーをまいてはいたけれど、それでもこんなにポケモンがいないことはなかった気がする。
トレーナーとして未熟だからなの?
図鑑にデータを記録できるし、一石二鳥なわけだけれど、思っていたように上手くはいかない。
音や気配はする。
でもなぜか、さっきからガサガサ音がするのに、ポケモンが出てこないのだ。
草むらに入ってしまえば、何もしなくても、もっとポンポンと野生ポケモンが飛び出してくるかと思ったのに、探しても全然出てこない。
逃げられているようにも感じる。
これはいったいどういうことだろう。
「もしかして、あの2人がどんどん捕まえちゃってて、出てこなくなっちゃったとか?」
そうだとしたら、確実に勝負に負けちゃう。
あー、どうしよう!
「タジャ!タージャ!」
頭を抱えているトウコに、タッくんが呼びかけた。
草むらの向こうを、手をバタバタしながら必死でアピールしている?
草むらの間にある、草のないわずかな空き地。
そこにふわふわした茶色いポケモンが、何か探しているのか、きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていた。
ヨーテリーだ。
茶色くてかわいい。
今、チャンスかも。
タッくんに目配せすると、わかったようで頷いた。
草むらの茂みに隠れながら、ゆっくり近づいた。
なんだか自分が野生のポケモンにでもなった気分だ。
ヨーテリーは時々、物音をきいて耳をぴくぴく動かしたが、気づいてないようだった。
ギリギリまで近づく。
よーし!
「タッくん!たいあたり!」
「タジャー!!」
ヨーテリーは、ふいをつかれて、身動きがとれない。
タッくんのたいあたりで、ヨーテリーは草むらの中に大きく飛ばされた!
タッくんは得意顔だ。
しかし、ヨーテリーは目を回していない。
まだ体力があるようにみえる。
ポケモンを捕まえるこつは、弱らせること。
モンスターボールを投げるには、もう一度くらい、攻撃が必要そうだった。
草むらの中で、ひっくりかえっていたヨーテリーに近づくと、もう一度攻撃を出そうと、やる気のタッくんは、ヨーテリーをにらみつけた。
ヨーテリーはもぞもぞと起きあがると、トウコとタッくんを順に見る。
飛びかかってくるつもりかもしれない。
そう思ったその時だった。
ヨーテリーは、突然、ボロボロと大粒の涙を流しながら泣き出してしまったのだ。
「……ィ、リィー! テリィテリィー!」
え、何?私が泣かせたの?
なんだかすごく悪いことをしたようで、トウコはタッくんをみた。
タッくんも、完全に闘志が抜けきったようで、困ってトウコに助けを求めている目をしている。
トウコはふうとため息をつくと、ヨーテリーにかけよって、しゃがみこんだ。
「もう、泣かないでよ。私、あなたをいじめるためにしたんじゃないの。仲間になってほしくて……悪かったわよ」
「タジャ、タジャ」
タッくんも、うんうんと頷く。
「テリィー、テリィー!」
まだまだ泣きやまないヨーテリーに、タッくんは慰めているのか、ヨーテリーの背中をさすった。
すると、べそをかいていたヨーテリーがようやく、落ち着き始めた。
「タージャ」
タッくんがうまく慰めたようだ。
トウコはホッとした。
「ありがとう、タッくん」
「ジャ!」
タッくんは、大丈夫と言っているようだった。
「テリー? テリテリテリィー…」
「タジャ?」
泣きやんだヨーテリーは、タッくんに何か言っているようだった。
話しているのかな?
「テッテ、テッテリ……テリテリィー」
「タージャ!? タジャジャ?」
「テリー……」
うっすらと再び目に涙を浮かべるヨーテリー。
タッくんは、トウコを見ると、何か言い出した。
「タージャ!タジャ!タジャ!! ター!」
タッくんは、草むらわきの林の茂みを指して、何かを必死に訴えている。
なんかに怒っているようにも見える。
「あの林がどうしたの?」
「タジャ!タージャ!!タッ!」
「う~ん……」
タッくんが、身振り手振りでなんとか、説明しようとしてくれるが、さっぱりわからなかった。
首をかしげるトウコに、タッくんは悲しそうな表情をした。
きっと、何かあるんだよね。
ヨーテリーが言っていたことが。
林の中?
なんでヨーテリーが泣きそうなの?
タッくんの伝えたいことがわかれば……。
ふと、ある考えが頭をよぎった。
でも、これは。
『トウコ、これは内緒にしたほうがいいことだわ』
お母さんの言葉を思い出した。
わかってる。
でも、この子、こんなに泣いてた。
ほうっておけないよ。
涙目のヨーテリーをみて、トウコは決心した。
周りをみわたす。
ベルも、チェレンも、誰もいない。
トウコはタッくんと向き合ってしゃがみ込むと言った。
「ねぇ、タッくん。お願いがあるの」
「タジャ?」
トウコの真剣な表情に、タッくんは驚いているようだった。
「ヨーテリーの言いたいこと、私に教えて欲しいの。だから、恐がらないでね」
「ター?」
いったいどうするつもりなのか、タッくんは首をかしげていた。
内緒にしていること。
それは、少しだけポケモンの思いがよめることだ。
ベルにも、チェレンにも話していない。
私の秘密。
トウコは、タッくんの額に、自分の額を重ね合わせると、目を閉じた。
頭の中に、ビジョンが起こる。
ガサガサッ
ザッ、ザッ、ザッ
草むらの中で何かが動いている音がいくつもした。
いるんだ、ポケモンが。
さっきから、タッくんがときどき立ち止まっては、草の奥をじっとみている。
トウコもその先をじっとみつめた。
1番道路に入って早々、トウコ達は、アララギ博士に呼び止められた。
ポケモンの捕まえ方を教えてなかったからと、追いかけてきてくれたのだった。
博士はわざわざモンスターボールをプレゼントしてくれて、ポケモンの捕まえ方まで教えてくれた。
それから、アララギ博士はトレーナーに必要な基礎を教えるからと、私たちが意見を言う間もなく、足早に先にカラクサタウンに行ってしまった。
トレーナーのグッズが売っている場所なんて、みんな知っているのに。
博士ってば、ほんと世話好きなんだから。
それで、博士を追いかけて、カラクサタウンに向かってるわけだけれど、ベルの提案で、1番道路で誰が一番ポケモンを多く捕まえられるか、競争しながら向かうことになって、今はみんなバラバラだ。
ベルも、チェレンも先に行ってしまってすっかり姿が見えない。
カノコタウンは、イッシュ地方の中でも、ものすごく田舎。
自然がいっぱいといえば、聞こえは良いけれど、ポケモンセンターもなければ、買い物するスーパーだってなかった。
だから、カラクサタウンにはしょっちゅうお母さんと買い物で行ったし、道に迷う事なんてないのだけれど、草むらに1人で入るのは初めてだからだろうか。
なんだか、いつもと草むらの様子が違う気がした。
出かけるときは、決まってお母さんがむしよけスプレーをまいてはいたけれど、それでもこんなにポケモンがいないことはなかった気がする。
トレーナーとして未熟だからなの?
図鑑にデータを記録できるし、一石二鳥なわけだけれど、思っていたように上手くはいかない。
音や気配はする。
でもなぜか、さっきからガサガサ音がするのに、ポケモンが出てこないのだ。
草むらに入ってしまえば、何もしなくても、もっとポンポンと野生ポケモンが飛び出してくるかと思ったのに、探しても全然出てこない。
逃げられているようにも感じる。
これはいったいどういうことだろう。
「もしかして、あの2人がどんどん捕まえちゃってて、出てこなくなっちゃったとか?」
そうだとしたら、確実に勝負に負けちゃう。
あー、どうしよう!
「タジャ!タージャ!」
頭を抱えているトウコに、タッくんが呼びかけた。
草むらの向こうを、手をバタバタしながら必死でアピールしている?
草むらの間にある、草のないわずかな空き地。
そこにふわふわした茶色いポケモンが、何か探しているのか、きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていた。
ヨーテリーだ。
茶色くてかわいい。
今、チャンスかも。
タッくんに目配せすると、わかったようで頷いた。
草むらの茂みに隠れながら、ゆっくり近づいた。
なんだか自分が野生のポケモンにでもなった気分だ。
ヨーテリーは時々、物音をきいて耳をぴくぴく動かしたが、気づいてないようだった。
ギリギリまで近づく。
よーし!
「タッくん!たいあたり!」
「タジャー!!」
ヨーテリーは、ふいをつかれて、身動きがとれない。
タッくんのたいあたりで、ヨーテリーは草むらの中に大きく飛ばされた!
タッくんは得意顔だ。
しかし、ヨーテリーは目を回していない。
まだ体力があるようにみえる。
ポケモンを捕まえるこつは、弱らせること。
モンスターボールを投げるには、もう一度くらい、攻撃が必要そうだった。
草むらの中で、ひっくりかえっていたヨーテリーに近づくと、もう一度攻撃を出そうと、やる気のタッくんは、ヨーテリーをにらみつけた。
ヨーテリーはもぞもぞと起きあがると、トウコとタッくんを順に見る。
飛びかかってくるつもりかもしれない。
そう思ったその時だった。
ヨーテリーは、突然、ボロボロと大粒の涙を流しながら泣き出してしまったのだ。
「……ィ、リィー! テリィテリィー!」
え、何?私が泣かせたの?
なんだかすごく悪いことをしたようで、トウコはタッくんをみた。
タッくんも、完全に闘志が抜けきったようで、困ってトウコに助けを求めている目をしている。
トウコはふうとため息をつくと、ヨーテリーにかけよって、しゃがみこんだ。
「もう、泣かないでよ。私、あなたをいじめるためにしたんじゃないの。仲間になってほしくて……悪かったわよ」
「タジャ、タジャ」
タッくんも、うんうんと頷く。
「テリィー、テリィー!」
まだまだ泣きやまないヨーテリーに、タッくんは慰めているのか、ヨーテリーの背中をさすった。
すると、べそをかいていたヨーテリーがようやく、落ち着き始めた。
「タージャ」
タッくんがうまく慰めたようだ。
トウコはホッとした。
「ありがとう、タッくん」
「ジャ!」
タッくんは、大丈夫と言っているようだった。
「テリー? テリテリテリィー…」
「タジャ?」
泣きやんだヨーテリーは、タッくんに何か言っているようだった。
話しているのかな?
「テッテ、テッテリ……テリテリィー」
「タージャ!? タジャジャ?」
「テリー……」
うっすらと再び目に涙を浮かべるヨーテリー。
タッくんは、トウコを見ると、何か言い出した。
「タージャ!タジャ!タジャ!! ター!」
タッくんは、草むらわきの林の茂みを指して、何かを必死に訴えている。
なんかに怒っているようにも見える。
「あの林がどうしたの?」
「タジャ!タージャ!!タッ!」
「う~ん……」
タッくんが、身振り手振りでなんとか、説明しようとしてくれるが、さっぱりわからなかった。
首をかしげるトウコに、タッくんは悲しそうな表情をした。
きっと、何かあるんだよね。
ヨーテリーが言っていたことが。
林の中?
なんでヨーテリーが泣きそうなの?
タッくんの伝えたいことがわかれば……。
ふと、ある考えが頭をよぎった。
でも、これは。
『トウコ、これは内緒にしたほうがいいことだわ』
お母さんの言葉を思い出した。
わかってる。
でも、この子、こんなに泣いてた。
ほうっておけないよ。
涙目のヨーテリーをみて、トウコは決心した。
周りをみわたす。
ベルも、チェレンも、誰もいない。
トウコはタッくんと向き合ってしゃがみ込むと言った。
「ねぇ、タッくん。お願いがあるの」
「タジャ?」
トウコの真剣な表情に、タッくんは驚いているようだった。
「ヨーテリーの言いたいこと、私に教えて欲しいの。だから、恐がらないでね」
「ター?」
いったいどうするつもりなのか、タッくんは首をかしげていた。
内緒にしていること。
それは、少しだけポケモンの思いがよめることだ。
ベルにも、チェレンにも話していない。
私の秘密。
トウコは、タッくんの額に、自分の額を重ね合わせると、目を閉じた。
頭の中に、ビジョンが起こる。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (3) 作家名:アズール湊