黒と白の狭間でみつけたもの (3)
タッくんが思ったこと、ヨーテリーが言いたかったことが、情景となって浮かんできた。
1番道路の草むら。
ほんとにすぐそばの林の中に、ミネズミがいる。
ちょっと大きなふとっちょミネズミ。
大きな石の上にふんぞり返って、なんだかえらそう。
まわりには、食べ物だとか、ガラクタだとかがごちゃごちゃと並んでて、次から次へとヨーテリー達が同じようなものを持ってくる。
ミネズミは、それを奪うように受け取ると、ケラケラと得意げに笑っていた。
それとは逆に、周りのヨーテリー達は怯えているみたい。
このミネズミに、いじわるされてるんだ。
トウコは目を開けた。
「ありがとう、タッくん。よくわかったわ」
タッくんは、不思議そうにトウコを見上げていた。
トウコはヨーテリーに向かって微笑んだ。
「大丈夫よ、あなた達にいじわるしてるミネズミをこらしめちゃいましょ!ね、タッくん?」
「タージャ!!」
まかせろとやる気を見せるタッくん。
ヨーテリーはきょとんとしていたけれど、状況がわかったのか、やっと笑ってくれた。
それから、トウコはヨーテリーとタッくんに案内されて、林の中のふとっちょミネズミの住みかまでやってきた。
辺りには、ミネズミがヨーテリー達に持ってこさせて集めたガラクタが散乱していた。
ふとっちょミネズミの前までやってくると、ヨーテリーは落ち着かない様子で、トウコの後ろに隠れた。
よっぽど恐い目にあってたにちがいない。
きっと、草むらのポケモンがビクビクしていたり、少なかったのだって、このミネズミが原因だろう。
トウコ達をみるなり、ミネズミは住みかを荒らしにきた敵と思ってか、臨戦態勢だった。
「ズミズミ!ッネズミー!!」
飛びかかってきたミネズミを、タッくんは容易に避けた。
ふとってるせいか、動きが鈍い。
「ズミ?!」
「もう、いじめっこなんて許さないんだから!」
あなたのせいで、せっかくのポケモンデビューが、ちょっとおかしくなったんだから。
せっかく、1番道路で新しい仲間をつくろうと思ってたのに!
責任とってもらうわ!
「タッくん、たいあたり!」
「ターッジャー!」
ミネズミのふとっちょ腹に、タッくんのたいあたりが直撃する!
「ズミー!?」
ミネズミは後ろに飛ばされながら、回転して、頭とおしりをすりむいた。
すっかり泥だらけだ。
もぞもぞと重たい身体を起こす。
「ズミミ!」
何するんだと言いたいのか、ミネズミはえらそうにタッくんを指さした。
ギロリとにらみ返すタッくん。
迫力負けしたのか、ふとっちょミネズミの顔がおじけずいた。
「ズッミィー!!」
やけになったのか、ミネズミは、自分がヨーテリーに集めさせた、きれいな石やおもちゃの破片だとか、側にある物を手当たり次第に投げつけはじめた。
たいして力はないのか、投げたものは、ほとんどタッくんまで届かない。
「ジャッ、ジャッ」
かろうじて届いてきたガラクタを、しっぽで軽々とタッくんが、はたき落とす。
あわあわと慌て始めるミネズミ。
ついには、走り出して逃げようとし始めた。
「タッくん、決めるわよ!つるのムチ!!」
「タジャー!!」
パシンッ!と音を立てて、逃げるミネズミの背中に直撃!
ミネズミは、あわをふいて倒れた。
「いっけー!」
トウコがボールを投げ込むと、モンスターボールはカタカタ音を立ててから、すぐに静かになった。
これでもう、ヨーテリー達もいじわるされることもないはずだ。
トウコがミネズミの入ったボールを拾っていると、林の側からヨーテリー達がひょこひょこと顔をのぞかせた。
じぃっと遠くから様子を見ているヨーテリー達。
その様子がおかしくて、トウコはクスリと笑った。
「もう大丈夫だよ」
これで、草むらのポケモン達も元にもどるよね。
「テリー!」
案内をしてくれた、ヨーテリーが嬉しそうにしっぽを振って駆け寄ってきた。
ありがとうって言ってくれてるみたい。
何かを口にくわえていた。
なんだろう?
トウコはそれを手に取った。
ちょうど掌の大きさぐらいの、金色の四角いキューブ。
小さな正方形がたくさん集まってできていて、中央は空洞になっていた。
立体的なパズルのようだ。
1つ1つに記号のようなものが書かれているけれど、ずいぶん使い込まれているのか、文字はかすれてしまっている。
切れたチェーンがついているから、キーホルダーだったのかもしれない。
「どうしたの?これ」
「テリィ!」
得意げな表情をみせるヨーテリー。
お礼のプレゼントのつもりらしい。
もしかして、拾ってきたのだろうか。
ヨーテリーはよくものをひろうことで有名だ。
誰の物でもなければ、もらってもいいのだけれど、それにしては砂や泥がついていない。
さきほどまで、きれいに使われていたようだ。
誰かの落とし物なのかもしれない。
「ありがとう、ヨーテリー」
うれしそうにしっぽを振るヨーテリーの背中を、トウコは優しくなでた。
落とし物なら、もしかしたらカラクサタウンで探せば、持ち主を見つけられるかも知れない。
そう思って受け取ることにした。
ヨーテリー達に別れを告げると、トウコは1番道路に戻った。
急いでチェレンとベルを追いかける。
1番道路の最終地点、カラクサタウンの入り口では、すでに2人と博士が待っていた。
「トウコ、おそーーーい!!」
「一本道なのに、いったいどこで道草をくってたんだい?」
チェレンは腕を組んでイライラしているようだった。
「ごめん、ごめん!本当にごめん! 博士も待たせてしまってすみません!」
「ハーイ、大丈夫よ!気にしてないわ。それより、勝負はどうなったのかしら?」
アララギ博士はあいかわらずのハイテンションだ。
「ちょっと、なんでかポケモンが少なくてさ、僕たちは1匹ずつしか捕まえられなかったんだ」
チェレンが言った。
なんだ、やっぱりあのミネズミのせいで、2人とも苦労してたんだ。
トウコはちょっと安心した。
2人は軽々捕まえているような気もしたから。
「私も捕まえたのは1匹だけよ」
「それでよくこんなに時間がつぶせたもんだね」
チェレンは大きくため息をついた。
だからほんとに悪かったってば!
「まぁまぁ、勝負は引き分けってことね!みんなよく頑張ったわ!!」
「ねぇねぇ、トウコが捕まえたのって、そのヨーテリー? かわいいよね!私も同じの捕まえたんだぁ」
「え?ヨーテリー?」
足元を見ると、いつの間にかさっきのヨーテリーがついてきていた。
トウコを見つめてしっぽを振っている。
「あら!すっかり懐いてるじゃない。トウコ、まだ渡したモンスターボールは残ってるかしら?」
「あ、はい!」
博士に言われるまま、トウコはモンスターボールを取り出すと、しゃがみこんだ。
泣き虫のヨーテリー。
はじめは事情も知らないで、タッくんと攻撃しちゃったのに、ついてきてくれたんだ。
トウコが笑ってみせると、ヨーテリーは嬉しそうに鳴いた。
「仲間になってくれる?」
「テリー!」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (3) 作家名:アズール湊