黒と白の狭間でみつけたもの (4)
〈 第4章 謎の青年 「N」 〉
アララギ博士を見送ったあと、チェレン、ベルと別れたトウコはポケモンセンターにいた。
「ごめんなさい。わからないわ」
「そうですか」
何度目かの同じ返答を聞いて、トウコはため息をついた。
カラクサタウンにくれば、持ち主がいるんじゃないかと思ったんだけど……。
新しく仲間になった、ヨーテリーのテリムが拾ってきた、金色の四角いキューブ。
目立つから、持っているトレーナーがいれば、見た人くらいいるんじゃないかと思って、ポケモンセンターで聞き込みをしてみたけれど、情報はゼロ。
容易に見つかるんじゃないかと思った、自分の考えの甘さを思い知る。
「誰か探してるんじゃないかと思ったんだけどな……」
探し物を探している様子の人も見当たらない。
もしかしたら、もう他の町に移動してしまったかもしれない。
あきらめた方がいいのかな。
交番に預けようかと考えながら、トウコはベンチに腰かけた。
向かい側のベンチでは、2人の女の子が、楽しそうに話している。
ポケモンのコーディネートについて話しているようだ。
リボンとか、タッくんやテリムにつけたらかわいいだろうな。
盗み聞きしているわけじゃないけれど、笑い声と一緒に話し声が聞こえてきた。
「それでね!わたしのクルミルは、赤いリボンがお気に入りなんだけれど、この前草むらで落としちゃって大変だったの」
「えーー!かわいそう」
「そうなの。クルミルは泣いちゃうし、なかなか見つからなくて」
「そうだよねぇ、で、どうしたの?」
「それがね!きた道を戻って探してみたら、偶然あったの!」
「うそー!すごい!」
「ねぇー、わたしもびっくり!よく落とし物は、きた道戻れっていうけど、ほんとみたい」
落とし物は、きた道もどれ?
トウコはハッとして立ち上がった。
そうか。もしかしたら、落とした人、戻って探してるかも。なんで思いつかなかったんだろう!
トウコはポケモンセンターを飛び出すと、1番道路まで走った。
これで誰もいなかったら、あきらめる。
そう決めた。
1番道路の手前。
町と道路の境目にたどり着いたとき、トウコはすぐ側の草むらの中でしゃがみこんでいる人を見つけた。
若草色の長い髪を後ろに束ね、黒いキャップをかぶった、たぶん、男の人。
もしかして、落とし物を探してる人かな?
でも、草むらの中で、物探しをしているようには見えなかった。
視線を下に向けて、何かを話している。
丸っこいポケモン。
もしかして、野生のヨーテリー?
トウコはゆっくりと近づいた。
「あの……」
トウコが青年に声を掛けたとたん、野生のヨーテリーは慌てて逃げ去った。
青年が振り返る。
あ、悪いことしちゃったかな……。
トウコに気づいた青年は、立ち上がった。
すらりと背が高い、年齢もトウコより少し上だろうか。
怒ったのかな?
向き合った青年は、整った顔に、帽子を目深くかぶっていた。
帽子の影に透きとおった青色の瞳がみえたが、表情は無表情に近く、何も読みとれない。
青年はトウコに言った。
「君は、今のポケモンが話していたことがわかるかい?」
唐突な質問をされ、トウコは戸惑った。
え……?
どう返していいかわからず、黙り込むトウコ。
「そうか、君にも聞こえないんだね。かわいそうに」
青年はそう言って、草むらの方を見た。
「さっきのポケモンを見ただろう?あれがポケモン本来の姿だ。ボールに入れられてる限り、ポケモンは完全な存在になれない」
哀れむように青年は言った。
よく口が回ると思うくらい、早口に。
……ちょっと変わった人。
このままだと、青年のペースに巻き込まれそうだ。
トウコは、思い切ってきりだした。
「……あの、この辺りで落とし物をしていないですか?こういうのを、拾ったんだけれど……」
金色の四角いキューブ。
トウコがそれを鞄から取り出して見せると、青年は明らかに今までの人とは違う表情をした。
少年が宝物をみつけた時のように、あどけない笑顔を浮かべたのだ。
突然の笑顔にドキリとする。
「ボクのだ!」
そう言って、手を伸ばして受け取った。
嬉しそうに、金色の四角いキューブを握りしめる。
見た目は大人っぽいのに、まるでおもちゃを見つけてはしゃぐ子供のようだった。
こんなに喜んでくれたなら、返せてよかったわ。
その意外すぎる行動に、トウコは驚いたが、同時に、落とし物を持ち主に返せてほっとした。
青年は、その笑顔のまま、トウコを見る。
お礼を言われると思うと、ちょっと照れくさかった。
「ちょうど探していたところだったんだ。まさか、君が拾ってくれた人間だったなんて!」
青年は、笑顔でそう言ってトウコを抱きしめてきた。
え?!えーー!?
突然のことに、狼狽した。
心臓が跳ね上がって、動悸が激しい。
ぎゅーと抱きしめてくる感じから、ありがとうと言われているような気もする。
それでも…、それでもだ!初対面の相手に突然、抱きつく人なんているだろうか?!
しかも、こんなにきつく!
「わ、わかったから、離してくだあさい!」
声が裏っかえってしまった。
あたふたとしながら、青年の身体を引き離す。
青年に悪びれた様子は見られない。
むしろ、何で嫌がられたのかわからないといった風だった。
「トモダチに聞きながら探していた。さっき、仲間が人間に渡してしまったと聞いたから、もう戻ってこないと思っていた。君が拾ってくれた人間だったなんてね。君はトウコというんだろう?」
その言葉に、トウコは耳を疑った。
なんで…?まだ名前も言ってないのに……。
初対面のはずだ。知り合いから、紹介された覚えもない。
「名前、なんで知ってるの?」
「さっきのポケモンが話してくれたよ。君はポケモンの言葉は聞こえないんだね。でも、ポケモンの心をよみとることはできるんだろう?初めてだよ、そんな人間に出会ったのは」
「ポケモンと話したって……!?」
そういえば、さっきポケモンの声が聞こえるとか、そんなことを言っていた。
突然のことに動揺する。
ポケモンと話せる人間なんて会ったことがない。
トウコにとって、そんな人と出会うのは、夢みたいなものだった。自分と似たような力をもつ人が、もしかしたらどこかには、いるのかもしれないと、そんな人がいるなら話してみたいと、淡い期待を抱いたことはある。
それでも、こんな突然に現れるものなのだろうか。
今まで期待を裏切り続けられたこともあって、こんな突然のこと信じられなかった。
信じられない!……信じられないけれど、誰にも教えていない秘密を、彼はなぜか知っている。
知られたくない秘密。
誰にも話していないのに!
あの状況で、秘密を知ることができたのは、ポケモン達だけだ。
そう考えると、嘘を言っているようには思えなかった。
「ポケモンたちの声が聞こえるボク、ポケモンたちの心を読みとる君、似ていると思わないかい?もしかしたら、君なら僕たちのことを理解し、トモダチを救うことができるかも知れないね」
アララギ博士を見送ったあと、チェレン、ベルと別れたトウコはポケモンセンターにいた。
「ごめんなさい。わからないわ」
「そうですか」
何度目かの同じ返答を聞いて、トウコはため息をついた。
カラクサタウンにくれば、持ち主がいるんじゃないかと思ったんだけど……。
新しく仲間になった、ヨーテリーのテリムが拾ってきた、金色の四角いキューブ。
目立つから、持っているトレーナーがいれば、見た人くらいいるんじゃないかと思って、ポケモンセンターで聞き込みをしてみたけれど、情報はゼロ。
容易に見つかるんじゃないかと思った、自分の考えの甘さを思い知る。
「誰か探してるんじゃないかと思ったんだけどな……」
探し物を探している様子の人も見当たらない。
もしかしたら、もう他の町に移動してしまったかもしれない。
あきらめた方がいいのかな。
交番に預けようかと考えながら、トウコはベンチに腰かけた。
向かい側のベンチでは、2人の女の子が、楽しそうに話している。
ポケモンのコーディネートについて話しているようだ。
リボンとか、タッくんやテリムにつけたらかわいいだろうな。
盗み聞きしているわけじゃないけれど、笑い声と一緒に話し声が聞こえてきた。
「それでね!わたしのクルミルは、赤いリボンがお気に入りなんだけれど、この前草むらで落としちゃって大変だったの」
「えーー!かわいそう」
「そうなの。クルミルは泣いちゃうし、なかなか見つからなくて」
「そうだよねぇ、で、どうしたの?」
「それがね!きた道を戻って探してみたら、偶然あったの!」
「うそー!すごい!」
「ねぇー、わたしもびっくり!よく落とし物は、きた道戻れっていうけど、ほんとみたい」
落とし物は、きた道もどれ?
トウコはハッとして立ち上がった。
そうか。もしかしたら、落とした人、戻って探してるかも。なんで思いつかなかったんだろう!
トウコはポケモンセンターを飛び出すと、1番道路まで走った。
これで誰もいなかったら、あきらめる。
そう決めた。
1番道路の手前。
町と道路の境目にたどり着いたとき、トウコはすぐ側の草むらの中でしゃがみこんでいる人を見つけた。
若草色の長い髪を後ろに束ね、黒いキャップをかぶった、たぶん、男の人。
もしかして、落とし物を探してる人かな?
でも、草むらの中で、物探しをしているようには見えなかった。
視線を下に向けて、何かを話している。
丸っこいポケモン。
もしかして、野生のヨーテリー?
トウコはゆっくりと近づいた。
「あの……」
トウコが青年に声を掛けたとたん、野生のヨーテリーは慌てて逃げ去った。
青年が振り返る。
あ、悪いことしちゃったかな……。
トウコに気づいた青年は、立ち上がった。
すらりと背が高い、年齢もトウコより少し上だろうか。
怒ったのかな?
向き合った青年は、整った顔に、帽子を目深くかぶっていた。
帽子の影に透きとおった青色の瞳がみえたが、表情は無表情に近く、何も読みとれない。
青年はトウコに言った。
「君は、今のポケモンが話していたことがわかるかい?」
唐突な質問をされ、トウコは戸惑った。
え……?
どう返していいかわからず、黙り込むトウコ。
「そうか、君にも聞こえないんだね。かわいそうに」
青年はそう言って、草むらの方を見た。
「さっきのポケモンを見ただろう?あれがポケモン本来の姿だ。ボールに入れられてる限り、ポケモンは完全な存在になれない」
哀れむように青年は言った。
よく口が回ると思うくらい、早口に。
……ちょっと変わった人。
このままだと、青年のペースに巻き込まれそうだ。
トウコは、思い切ってきりだした。
「……あの、この辺りで落とし物をしていないですか?こういうのを、拾ったんだけれど……」
金色の四角いキューブ。
トウコがそれを鞄から取り出して見せると、青年は明らかに今までの人とは違う表情をした。
少年が宝物をみつけた時のように、あどけない笑顔を浮かべたのだ。
突然の笑顔にドキリとする。
「ボクのだ!」
そう言って、手を伸ばして受け取った。
嬉しそうに、金色の四角いキューブを握りしめる。
見た目は大人っぽいのに、まるでおもちゃを見つけてはしゃぐ子供のようだった。
こんなに喜んでくれたなら、返せてよかったわ。
その意外すぎる行動に、トウコは驚いたが、同時に、落とし物を持ち主に返せてほっとした。
青年は、その笑顔のまま、トウコを見る。
お礼を言われると思うと、ちょっと照れくさかった。
「ちょうど探していたところだったんだ。まさか、君が拾ってくれた人間だったなんて!」
青年は、笑顔でそう言ってトウコを抱きしめてきた。
え?!えーー!?
突然のことに、狼狽した。
心臓が跳ね上がって、動悸が激しい。
ぎゅーと抱きしめてくる感じから、ありがとうと言われているような気もする。
それでも…、それでもだ!初対面の相手に突然、抱きつく人なんているだろうか?!
しかも、こんなにきつく!
「わ、わかったから、離してくだあさい!」
声が裏っかえってしまった。
あたふたとしながら、青年の身体を引き離す。
青年に悪びれた様子は見られない。
むしろ、何で嫌がられたのかわからないといった風だった。
「トモダチに聞きながら探していた。さっき、仲間が人間に渡してしまったと聞いたから、もう戻ってこないと思っていた。君が拾ってくれた人間だったなんてね。君はトウコというんだろう?」
その言葉に、トウコは耳を疑った。
なんで…?まだ名前も言ってないのに……。
初対面のはずだ。知り合いから、紹介された覚えもない。
「名前、なんで知ってるの?」
「さっきのポケモンが話してくれたよ。君はポケモンの言葉は聞こえないんだね。でも、ポケモンの心をよみとることはできるんだろう?初めてだよ、そんな人間に出会ったのは」
「ポケモンと話したって……!?」
そういえば、さっきポケモンの声が聞こえるとか、そんなことを言っていた。
突然のことに動揺する。
ポケモンと話せる人間なんて会ったことがない。
トウコにとって、そんな人と出会うのは、夢みたいなものだった。自分と似たような力をもつ人が、もしかしたらどこかには、いるのかもしれないと、そんな人がいるなら話してみたいと、淡い期待を抱いたことはある。
それでも、こんな突然に現れるものなのだろうか。
今まで期待を裏切り続けられたこともあって、こんな突然のこと信じられなかった。
信じられない!……信じられないけれど、誰にも教えていない秘密を、彼はなぜか知っている。
知られたくない秘密。
誰にも話していないのに!
あの状況で、秘密を知ることができたのは、ポケモン達だけだ。
そう考えると、嘘を言っているようには思えなかった。
「ポケモンたちの声が聞こえるボク、ポケモンたちの心を読みとる君、似ていると思わないかい?もしかしたら、君なら僕たちのことを理解し、トモダチを救うことができるかも知れないね」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (4) 作家名:アズール湊