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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (4)

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青年は、早口にそう言うと、トウコの腕をつかんだ。

「ちょっとっ!」

突然のことに驚いて、腕を振り払おうとしたが、彼は離してはくれなかった。

「カラクサタウンに行こう。今日は演説があるんだ。君にも聞いてもらいたい」

そう言って、ほとんど強引に引っぱられた。

演説?

理由がわからないまま、トウコは仕方なく謎の青年に引かれてついていく。

なんだか、さっきから、彼に振り回されっぱなしだ。

カラクサタウンに入ると、彼は一直線に広場へと向かった。

町の中央広場、よくお祭りの時なんかに出店がでたりする場所だ。

そこには、すでにたくさんの人だかりができていた。

何か始まるようだった。

「何がはじめるんだー?」

「さぁ?」

「んじゃ、ちょいと行ってみるかね」

そんな声が聞こえた。

謎の青年は、その人だかりの側で立ち止まると、ようやく手を離してくれた。

どうやらこの場所で、演説とやらがあるらしい。

「トウコ!」

声がして、振り返るとチェレンがいた。

人が集まっているのをみて、駆けつけてきたようだった。

「何だよこの人だかり!いったい、ここで何があるんだ?」

「演説、らしいよ…」

自分でもよくわからないまま、発音した。

「演説? なんの? ところでその人は?」

謎の青年を見たチェレンが言った。

不思議な雰囲気を持つ青年に、少し警戒しているようだった。

でも、誰と言われても……。

「わかんない」

「わかんないって!?」

「はじまるよ」

謎の青年が静かに言うと、中央広場の壇上に、派手な集団が現れた。

銀色の同じコスチュームを身につけた7~8人。

その集団に守られながら、中央に現れたのは、ひときわ目立つ紫のローブをまとった人だった。

若くはないが、年をとりすぎてもいない、黄緑色の長髪をした壮年の男性。

右目だけが、赤い石がはめ込まれた眼帯に覆われている。隻眼の男。

胸の中に、もやもやとわだかまりのようなものが広がった。

なぜだろうか、直感的にこの人は恐いと思った。

その男は、集まった群衆に向かって、かしこまったお辞儀をすると、落ち着いた口調で話し始めた。

「わたくしの名前はゲーチス。プラズマ団のゲーチスです。今日、皆さんにお話しするのは、ポケモンの解放について、です」

なに?プラズマ団?…ポケモンの解放って?

トウコも疑問を感じたように、周りの人からもざわざわと声が上がった。

「え?」

「なに?」

「ポケモンの……」

「解放……?」

チェレンをみると、彼もよくわからないといった顔をしていた。

ちらりと、謎の青年の様子をうかがうが、まっすぐと目の前の団体を見つめているだけだった。

「我々、人間はポケモンと共に暮らしてきました。お互いを求め合い、必要としあうパートナー。そう思っておられる方が多いでしょう。 ですが、本当にそうなのでしょうか?我々、人間がそう思いこんでいるだけ……そういう風に考えたことはありませんか?」

ゲーチスの言葉に、ざわついていた、群衆が少しずつ沈黙する。

聞き触りのよい声に、自然と耳を傾けていた。

いつの間にか、ゲーチスという男を無視できなくなっている。

「トレーナーは、ポケモンを好き勝手に命令している……。仕事のパートナーとしてもこき使っている……。  そんなことはないと、誰がはっきり言い切れるのでしょうか?」

ゲーチスの言葉に、ドキリとした。

再び、ざわつきはじめる人達。

みんな、この人の意見に動揺しているんだ。

「そんな」

「わからんよ」

そんな声が上がった。

トウコもよくわからなくなった。

ポケモンが絶対に、人間を嫌がっていないなんて言い切れないから。

それでも、ポケモンが好きな気持ちは変わらない。一緒に側にいたい。

タッくんは、私の側で笑ってくれる。

これっていけないことなの?

「いいですか、みなさん!」

再び、語り出すゲーチス。

とたんに、ざわめきは治まった。

「ポケモンは人間とは異なり、未知の可能性を秘めた生き物なのです。我々が学ぶべきところを数多くもつ存在なのです。そんなポケモンたちに対して、わたくし達、人間がすべきことはなんでしょうか」

人間のすべきこと…?

いったい何を言ってるの?

トウコは胸の中の、もやもやとした嫌な気持ちが大きくなっていくのを感じた。

不安と恐怖がいりまじったような。

大きくどよめき、言い合う群衆の中、声が聞こえた。

「なぁに?」

「解放?」

誰かのそんな一声が上がった時だった。

ゲーチスは一段と声を大きくして、言い放った。

「そうです!ポケモンを解放することです!! そうしてこそ、人間とポケモンは、はじめて対等になれるのです。 みなさん、ポケモンと正しく付き合うために、どうすべきかよく考えてください。  というところで、わたくし、ゲーチスの話しを終わらせていただきます。ご静聴、感謝いたします」

そう言って、ゲーチスという男は、深々と一礼した。

演説が終わると、ゲーチスは再び銀色のコスチュームに身を包んだ、プラズマ団という団体員に囲まれて、壇上を後にした。

「今の演説……。私たちはどうすればいいんだ?」

「ポケモンを解放って、そんな話ありえないでしょ!」

ゲーチスの姿が見えなくなるなり、口々に意見が上がった。

ざわめく広場。

誰もが戸惑っているようだった。

集まっていた人達は怒ったり、首をかしげたり、ほとんどが不満を言いながら、散りちりになって、帰っていった。

広場には、トウコとチェレン、そして謎の青年が残された。

「何言ってるんだ、そんなのできるわけないじゃないか!」

チェレンは言った。

トウコも同じ意見だった。

ポケモンを解放? タッくんや、テリムと離れる?

考えるだけで嫌だった。

せっかくできた絆を断ち切るなんて!

そう思っていたとき、ガタガタとモンスターボールが揺れた。

タッくんのボールだ。

怒ったように、ボールの中で何か叫んでいる。

もしかしたら、タッくんも同じことを思ってくれたのだろうか。

「トウコのポケモン、今 話していたよね……」

にっこりと微笑んで謎の青年は、トウコに言ってきた。

またもや突然に、突拍子もないことを言い出すから、トウコは驚いて目をぱちぱちさせた。

チェレンが警戒しながら、青年に言い寄った。

「……ずいぶんと早口だな。それにポケモンが話した……だって?おかしなことを言うね」

チェレンの言葉に、青年は意味がわからないといった様子だ。

「ああ、話しているよ。そうか、君にも聞こえないのか……かわいそうに。君もトウコのように、ポケモンの心がよめればいいのにね」

「!?」

チェレンは驚いた顔して、トウコを振り返り見た。

トウコは何も言わなかった。

突然、こんなことを言われるなんて思ってもみなかったから、何も言えなかった。

なんで?……なんでそんな大事なことを勝手に言ったの?

ただ、ただ、呆然と立ちつくす。

「ボクの名はN。君は?」

N、これがこの人の名前。