黒と白の狭間でみつけたもの (4)
トウコの様子を見て、チェレンは青年に敵意をもったようだった。口調を強めて言う。
「……僕はチェレン。トウコの友達だ。博士に頼まれて、ポケモン図鑑を完成させるための旅に出たところだ。もっとも、僕の最終目標はチャンピオンだけど」
「ポケモン図鑑ね…。そのために幾多のポケモンを、モンスターボールに閉じこめるんだ。ボクもトレーナーだが、疑問で仕方ない。ポケモンはそれで幸せなのかって」
Nは哀れみにも似た表情を浮かべた。
そして、動揺しているトウコを見る。
タッくんのモンスターボールが、カタカタと音を立てて震えていた。
Nはそれをわかってか、にっこりと微笑んだ。
「……そうだね、トウコ。君のポケモンは、まだ何かを話したいようだ。君のポケモンの声をもっと聞かせてもらおう!」
人の気も知らないで、Nは早口で言うなり、勝負を仕掛けてきた!
Nの放ったボールから、チョロネコが飛び出してきた。
「チョロネッ!」
トウコは震えているモンスターボールをつかむと、叫んだ!
「タッくん!お願い!」
この人の言いたいこと、少しはわかる。
それでも、勝手にチェレンの前で、あのことを話すなんて!
絶対許さないんだから!
ボールから放たれた、ツタージャのタッくんは、すでに臨戦態勢だった。
「タージャーー!!」
飛び出したタッくんは、長くのばしたツルをチョロネコにくりだした!
大きくしなったツルが、チョロネコにむかう!
ツルはチョロネコの頬をかすめたが、うまく避けられてしまった。
「チョロネコ、なきごえだ」
「チョロ~~!!」
チョロネコは、大きな、なきごえをあげた。
チョロネコのなきごえがわんわんと木霊した。
タッくんが少し萎縮した。
「タッくん、たいあたり!」
「タジャ!」
チョロネコに、タッくんのたいあたりが決まるが、あまり効いていないのか、チョロネコは余裕の表情で立ち上がった。
「もっと!君のポケモンの声を聞かせてくれ!」
Nが言う。
負けたくない!
「タッくん、頑張って!」
トウコの声に、タッくんはうなづいた。
「チョロネコ、ひっかく」
「避けて!タッくん!」
すばしっこいチョロネコの攻撃が、ジャンプしたタッくんのしっぽをかすめた。
が、タッくんは機転を利かせて、尾のツルをぐいぐいとのばした。
急にのびた、緑のつるが、チョロネコの足に絡まる。
「チョロ!」
空中で足をとられたチョロネコは、そのまま、つまづいて転んだ。
地面に落ちる。
スキあり!
「とどめよ!タッくん。つるのムチ!」
バシンとチョロネコに直撃する。
チョロネコは、起きあがろうと必死に足の力を入れたが、そのまま起きあがれず、鳴き声を上げると倒れ込んだ。
タッくんは、ガッツポーズをした。そして、Nをにらむと、指さして何かを言った。
「タジャ! タージャジャ!タジャーータッ!!」
何を言っていたのかは、わからない。
それでも、私の代わりに怒ってくれたような気がする。
Nはタッくんの言葉に、驚きを隠せない様子だった。
「そんなことをいうポケモンがいるのか……!?」
信じられない様子で、そう呟いた。
ふんっと鼻息混じりに、苛立ったタッくんは、Nにもう一度にらみをきかせ、自分からモンスターボールの中に戻ってしまった。
「ありがとう、タッくん」
トウコがそう言うと、ボールの中で、タッくんは照れくさそうに頭をかいた。
トウコはボールをしまい込んだ。
Nは傷ついたチョロネコに近づいて、チョロネコをそっと抱きしめていた。
「ボクがふがいないばかりに、ごめんねチョロネコ」
そう言うNの表情を見て、トウコはハッとした。
泣いてしまうのではないかと思うくらい、苦しそうな表情だった。
見てるこっちが痛々しいくらいだ。
不思議な人。
はじめは、変わった人だと思った。そして、勝手な人だと思った。
大人なのか、子供なのか…。
考え方もどこかずれているし、よくわからないことも言う。
何を考えているのか、つかめない人。
秘密をばらされた時には、かっともなった。
それでも、チョロネコを大事に抱える姿を見ていると、怒りはだんだんとどこかへ消えていった。
この人、ポケモンが大好きなんだ。
傷ついたポケモンを見て、自分が辛くなるくらい。
本当は、ポケモンバトルをすることさえ、彼は嫌なのかも知れない。
大好きなポケモンを思う、Nの気持ちがひしひしと伝わってきた。
優しい人……なんだろうな。
勝負に勝ったら、一言くらい何か言ってやろうと思っていたはずなのに、忘れてしまった。
Nは、チョロネコをモンスターボールにそっと戻すと、握りしめたそのボールを見つめた。
「……モンスターボールに閉じこめている限り、ポケモンは完全な存在になれない。 ボクはポケモンというトモダチのため、世界を変えなければならない」
そう言って、Nはトウコとチェレンを気にもかけずに、足早にどこかに行ってしまった。
「……おかしなやつ。だけど、気にしなくていいよ。トレーナーとポケモンは、お互い助け合っている!」
チェレンはそう言って、トウコを見つめた。
何か言いたそうなことはわかった。
無意識に目を逸らしていた。
「……じゃあ、僕は先に行く」
チェレンは、何か考えているようではあったけれど、問いつめてはこなかった。
「次の街、サンヨウシティのジムリーダーと早く戦いたいしね」
じゃあね、とチェレンは手を振って、2番道路の方へ行ってしまった。
ごめんね、チェレン。
言えなかった。
いつか、楽に話せるときがくるといいんだけれど……。
トウコは、遅れた冒険の買い物をすませるために、フレンドリィショップへと向かった。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (4) 作家名:アズール湊