黒と白の狭間でみつけたもの (7)
自然と、ポケモン達と話せてしまうNが。
ポケモンと心を通わせ話すこと、それを誰かに話すこと……。
周囲の目を気にして、私には恐くてできなくなっていることを、平気でできてしまうN。
うらやましいとトウコは思った。
「Nは、恐いと……思ったことはないの?」
「恐い?」
「その力が、人にばれること……恐くないの? 私は恐い。誰かにこの力がばれて、嫌われるのが恐い。だから、あなたが悪気はなかったのだとは思うけれど、チェレンに私の力を話した時、かっとなったわ。チェレンやベルにこの力がばれて、嫌われたらと思うと恐ろしいの」
だからずっと2人にも黙っていた。
だからこそ、不思議。
Nはこんな悩みを思ったことはないのだろうか。
ずっと、もし同じような力をもつ人がいたら、聞いてみたいと思っていたこと。
Nはよくわからないといった顔をしている。驚いて黙っているようにも見えた。
突然、聞いたから混乱させたのかも知れない。
「恐い…か。驚いたな、そんなことを考えたこともなかったからね。ボクは小さい頃から、ポケモンたちとずっと一緒に育ってきた。ポケモンたちと話すのは当然であったし、ポケモンたちがトモダチだった。それはトウコも同じじゃないのか?」
不思議そうに返ってきた答え。
Nにとって、それは普通のこと……。
それで人に嫌われるなんて、考えもしないことだったみたいだ。
もしかしたらNは、力のことも、周囲に理解されて育ったのかも知れない。
こんなことに悩むのは、私だけなのだろうか。
「そっか、Nはそんなことを考えないで平気だったのね…。うらやましいわ。 私もね、気づいたときにはポケモン達と話していたの。森で一緒に遊んだり、楽しかった。みんな大切な友達だったし、ポケモン達と話して、一緒に過ごす毎日が……大好きだった」
「それなら、恐がることもないだろう。わかるのに、ポケモンたちの声を無視する方が、ボクは苦しくなるよ。君も苦しいんじゃないのか?」
「それはね…。でも、周りから見れば、それは普通ではなくて…、すごく嫌がられた。私が恐いと、そう言われて……。それから、私はずっと力を隠してきた。人前でこの力を使うことはなくなって、今も力を使うのは、時々恐いの。タッくん達には、ごめんと思うこともあるけれど……」
トウコはそう言って、黙り込んだ。
Nみたいに、考えずにすんだら楽なのかも知れない。
それでも、カノコタウンに来てからできた友達を、また失うかも知れないと思うと恐くなる。
もう失いたくはない。
拳をぎゅっと握りしめた。
「君を傷つける人間がいたのか。ひどいね。人間は勝手だ。自分たちがいつも正しいと思って、ポケモンや君のような人も傷つける……。トウコは悪くない」
そう言って、Nはうつむいているトウコの頭をそっとなでた。
慰めてくれてるの?
驚きながら、顔を上げると、彼の優しい眼差しが見えてドキリとした。
柔らな青色に吸い込まれそうだ。
「タージャジャ…」
タッくんが、トウコにそっと体をすりよせて何か言う。
ぺったりとくっつける体からは、優しいぬくもりが伝わってくる。
「『トウコは恐くなんかないよ…』そう言っているよ、君のツタージャは」
Nが教えてくれた。
「ありがとう、タッくん」
しゃがみこみ、励ましてくれたタッくんの頭をなでると、テリムやヒヤリンも心配そうに駆け寄ってきた。
みんな心配してくれている。
うれしくて、みんなを抱きしめた。
温かい感情。優しい気持ちがたくさん伝わってくる。
「ありがとう、みんな大好きよ」
なんだか、私がNに聞いたつもりが、励まされちゃってる。
もっと、この力を大事にしてあげてもいいのかもしれない。
温かな気持ちが、そう考えさせてくれていた。
「Nは優しいね!」
トウコが笑顔でそう言うと、Nは驚いた顔をした。
「そんなこと、言われたのは初めてだ」
そう言って、少し視線をそらす。
もしかして、照れてる?
ほんと変な人。
あなたに言われて、少し勇気が出たかもしれない。
「ありがとう、N! 私、あなたみたいな人に会えたのは初めてで、すごくうれしかったの」
にっこりと微笑むトウコにつられて、Nも照れながらも、少しずつ笑顔になった。
『♪~♪~♪~』
ライブキャスターの音が響いた。
トウコは急いで、自分のライブキャスターをのぞいたが、音は鳴っていなかった。
鳴っているのは、Nのだ。
Nは通信を見ながら黙っている。
「呼ばれたみたいだ。ボクは行くよ」
誰かと待ち合わせでもしていたのかもしれない。
ついつい話しすぎてしまった。
「そっか、じゃあまたどこかで……」
この先の町は、どんどん道が分かれていく。
もしかしたら、もう会えないかと思うと、少し寂しかった。
初めて出会った、同じような力を持つ人。もっと話していたいと思ってしまった。
「ああ、またね」
Nはそう言って、トウコに笑って見せた。
「きっとまたトウコとは会えるよ。ボクが見た未来が正しければね」
不思議なことを言い残して、Nは手を振ると、3番道路の方へ急ぎ足で歩いていった。
見えなくなるまで手を振ったが、あっという間に姿は遠くなって見えなくなった。
ああー…行っちゃった。相変わらず早いわね。
「タジャジャ!」
タッくんが声を掛ける。
テリムとヒヤリンもタッくんと同じ顔をしていた。
伝えたいことは一緒。
トウコが目を閉じると、3匹の声が聞こえた。
『僕たちも早く行こうよ!』
トウコはくすりと笑った。
「そうね、そろそろ行こうか!」
「タジャー!」「テリィー!」「ヒヤー!」
目指すはシッポウシティ!
2つ目のバッチを手に入れなくちゃ!
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (7) 作家名:アズール湊