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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (7)

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タッくん、テリム、ヒヤリンは、よほど水遊びが楽しいのか、さっきよりは激しくないものの、噴水の池をつついて、波紋を作ったり、葉っぱを浮かべたりして、3匹元気にまだ遊んでいる。

トウコは、近くのベンチに腰かけると、タッくん達を見守りながら、湿っぽい服を乾かした。

「ずいぶん、濡れちゃったなぁ」

体半分、プールに入った後みたいだ。

髪はびしょぬれ、肩まで服も濡れてしまっている。

くっついてくる服を上から押さえるように拭き取って、タオルで髪を乾かしていると、テリムがとことこやってきた。

「テリ~……」

ぐぎゅ~っというテリムのお腹の音が、はっきりと聞こえた。

そういえば、テリムだけは朝ご飯がまだだった。

「はい、お疲れ様」

トウコがそう言って、ポケモンフードをわたすと、テリムはがつがつ食べ始めた。

匂いにつられて、さっきのミネズミ達が、顔を覗かせた。木の隙間からこちらの様子をうかがっている。

ポケモンフードは、野生のポケモン達を引き寄せる、おいしい匂いがするようだ。

マメパトが再び飛んできて、テリムの隣に降り立った。

テリムが食べる様子をじいっとのぞく。

腹ぺこテリムは、そんなことお構いなしにぺろりと、あっという間にご飯をたいらげてしまった。

そして、再びタッくん達のもとに駆け寄った。

マメパトは、テリムが食べ散らかした、ポケモンフードのおこぼれをもらおうといそいそと歩く。

そして、嬉しそうに口に入れようとした時だった。突然、勢いよくやってきた真っ黒な影に驚いて、あわてて飛びたってしまった。

ばさばさと羽音が響いた後に、そこに現れていたのは、野生のヨーテリー。

しかし、すぐさまその姿はぼやけた。

「!?」

姿が変わる。黒っぽいポケモン。

テリムとも違うけれど、黒いヨーテリーのような小さなからだ。

黒っぽい小さな2つの耳をピンとたてて、ふさふさのしっぽもたっている。

4つの足先と、頭の上にはえたふわふわの毛先は、鮮やかな赤色をしていた。

マメパトを追い払ったそのポケモンは、テリムがこぼしたポケモンフードのおこぼれをぺろぺろとなめていた。

見たことがないポケモン。

トウコがポケモン図鑑を開くと、ようやく名前がわかった。

【ゾロア わるぎつねポケモン:人や他のポケモンに化けて、相手を驚かせる。正体を隠すことで、危険から身を守っている】

姿を変えられるなんて、不思議なポケモン。

不思議な昨日の、夢の幻をみせるムーシャナを思い出した。

「ゾロア?」

トウコが声を掛けると、ゾロアはびくりと体を震わせた。

一気に警戒するゾロア。

「そんなに恐がらないでよ。ほら、残り物じゃなくてこっちを食べたら?」

ポケモンフードを手に、トウコが手を近づけると、ゾロアはうなりながら後退し、トウコを睨んだ。

「ガウウゥッ!」

警戒心が強い。

ひどく拒まれている。恐がられてるんだ。

「タジャ!」

「だめよ!タッくん」

様子に気づいたタッくんが駆けつけてくるのが見えて、トウコは急いで制止した。

タッくんに睨まれでもしたら、きっとますます恐がってしまう。

「…大丈夫だから」

後ろで見守っているタッくんを気にしながら、トウコは手に持っていたポケモンフードをゾロアの前で、ひと欠け食べてみせた。

ゾロアはじいっと見てくる。

興味はあるんだ。

トウコは、持っていたフードのひとつを、少し距離をあけてゾロアの前に置いた。

ゾロアは警戒しながらも、そこにゆっくりと近づく。

そして、匂いを嗅いで安全だとわかったのか、ぺろりとなめたあと、ようやく一粒口にした。

食べてくれた!

嬉しくて、トウコは笑顔になった。

今度は、ポケモンフードを持った手を差しだしてみる。

ゾロアはトウコの手をみて、すぐに後ずさりしたが、何もしないとわかると、ゆっくり近づいてきた。

匂いを嗅ぎ、何度か、トウコとフードを交互にみる。

そして、ようやくトウコの持ったポケモンフードをぺろりと舐めた。

食べてくれるかも!とトウコは期待した。

しかし、ゾロアは、ひょいと体をひるがえすと、トウコを振り返ることなく反対側へ走っていく。

ああ、だめか……。

そう思いながら走り去っていくゾロアを目で追っていくと、ゾロアはしっぽをふりながら、誰かに飛びついた。

若草色の緑の長い髪。

黒いキャップ。

腰には見覚えのある、金色のキューブがつり下げられている。

あれは…。

「N…?」

声を掛けると、彼はゾロアを抱えたまま、トウコを見た。

「やあ、また会ったね」

驚く様子もなく、Nはにっこりと微笑んだ。

ゾロアはうれしそうにしっぽを振りながら、Nに体をすり寄せている。

あんなに警戒していたゾロアが懐いている。

やっぱり、ポケモンを大事にしている優しい人みたいだ。

昨日、泣きそうな顔で去っていったNが気がかりだっただけに、元気そうにしている彼の姿を見て、トウコは少し安心した。

それとは逆に、タッくんは少し警戒しているようで、すぐ側でじっとNを様子をうかがっている。

「その子、Nのポケモンなの?」

「そう、ボクのトモダチ。すごいね。君はゾロアの気持ちを簡単に開かせたみたいだ。ゾロアは言っているよ。『珍しく優しい人間と出会った』とね」

またポケモンと話したみたい。

内心、どこかでまだ信じられない気持ちもあるけれど、できれば信じたい。

ゾロアのうれしそうな表情をみれば、嘘じゃないと思うもの。

「すごいのはあなただわ。あんなに恐がってたゾロアが懐くなんて」

「ゾロアは、小さい頃からボクのトモダチだからね」

ゾロアをなでるNは、優しい顔をしていた。

古くからの友達なんだ。それじゃあ、かなうはずがないわ。

ゾロアの鳴き声に反応して、Nは頷いたり、笑ったりしている。

あんまり楽しそうだから、トウコもつられて笑顔になった。

「何を、話しているの?」

「トウコの持っているそれを、今度食べたいからボクに買ってくれと言っているよ」

ポケモンフード…、なんだ、気に入ってはくれたんだ。

ちょっとうれしかった。

「Nはいいわね。そうやってポケモン達と話せるんだもの」

「君だって、気持ちはわかるんだろう?話せるんじゃないのかい?」

言われてドキリとする。

はじめて会ったときもそうだったけれど、Nは直球ストレートに言葉を投げかけてくる。

それでも、嫌みを感じない。気づくと、受け入れてしまっている。

「そうだけど…。私は、ほんとに近くでポケモンに触れないとよくわからない。目を閉じてようやく気持ちや声が伝わってくる感じだから…。そんなに簡単にできないのよ」

不思議と、Nには話しやすかった。

今まで内緒にしてきたことなのに、Nに話しやすいのはどうしてだろう。

「それでも、君はポケモンたちの声が聞ける。ボクと変わらないじゃないか」

そう言われて、心の中がほんわかと温かくなった。

うれしいのかもしれない。

こんな話しをするのは、はじめてだから。

こんなこと、自然と話せる人なんて、今までいなかったから。

「そうなのかな…」

不思議でたまらない。