黒と白の狭間でみつけたもの (8)
( 第8章 昼時は、園児と共に… )
ざくざく、ざくざく。
ざくざく、ざくざく。
さっきから、ひたすら穴を掘っている。
なんでこうなってるんだっけ?
シャベルを片手に、トウコは考えた。
「おねえちゃんせんせい! はやくはやく!」
砂場に作った、大きなお山にトンネルが通るのを、園児達が楽しみにしながらせかす。
トウコはすっかり泥だらけになっている腕を、お山につっこんで、砂を掘ってはかきだしていた。
「はいはーい。ちょっと待ってね」
もう少しで、できそう。
そう思って、最後の砂を掘り出したとき、勢いよく飛んできたボールで、お山が消えた。
え…!?
くずれた砂のお山をみて、園児がめそめそと泣き始める。
「せんせ~!お山くずれちゃった~!」
「せっかくつくったのに~!」
「ほ、ほら、大丈夫。もう一回つくろう~!」
おろおろしながら、砂場の砂をかき集める。
そこにやってきたのは、お山を崩した張本人だった。
「せんせ~、ボール来なかった?」
「ちょっと、ケントくん。ボール遊びは向こうでやってちょうだい!」
泣いている周りの園児をみても、ケントは動じていない。
「また、ケント君だ~!」
女の子が泣きながら、ケントを指さした。
「なんだよ!こんなところで、山なんかつくってるからいけないんだ!」
そう言って、トウコがかき集めていた砂の山を足でめちゃくちゃに崩した。
よけいに泣き出す園児達。
なんでこうなるやら…。
「ちょっと!ケント君。みんなにあやまりなさい!」
「や~だね!」
そう言って、あっかんべーをするケント。
全く~!!
「こらっー!!」
「うわ~!怒ったぞ!鬼トウコだ~!」
うわーっとケントが走り出すと、ケントと共に、何人かの園児がきゃーきゃー言いながら散らばって逃げていく。
「せんせい~。ご本よんで~」
教室からやってきたらしい園児に、後ろから服を引っぱられた。
「ごめん、ちょっと待ってね」
トウコはため息混じりに言った。
ああ。
カオスだわ。
収拾のつかない園児達のパワーに圧倒される。
テリムは、いたずらっ子のケント君にまた追い回されているし、ヒヤリンはすっかり馴染んでいるのか、女の子たちとのんびり花飾りをつくっている。
タッくんにいたっては、先程しっぽの葉っぱをむしられたショックで、ボールの中に閉じこもっている。
「トウコ、遊んでないでこっちを手伝ってくれないか!」
エプロン姿に身を包んだチェレンが、眼鏡を指でくいっと上に上げながらビシリと言った。
幼稚園の先生ですと紹介しても、誰も疑う人はいないくらい似合いすぎている男だ。
後ろに園児をくっつけていると、主夫にも見えてくる。
トウコがぷっと吹き出していると、チェレンはイライラしながら言った。
「教室の中が大変なんだ!手伝ってくれ!」
なによ、その偉そうな態度は!
当たり前のようにそう言うから、ちょっとイラっとした。
「こっちだって大変よ!何とかしてほしいくらいだわ」
「外はまだ、簡単そうじゃないか」
「そんなことないわ! 教室の方がみんな走り回らなくてよさそうじゃない」
「そんなことはない!」
「せんせい、けんかはダメだよ!」
いつの間にか、園児達が見ていた。
急に恥ずかしくなる。
「あ、ごめんね。大丈夫よ、大丈夫!」
「け、けんかじゃないよ。ほら、みんな教室に戻ろうか?」
心配そうに見ていた園児達を、引き連れてさきほどの定位置に戻ったあと、ライブキャスターが鳴った。
チェレンからだ。
こんな近くにいるのに!?
たぶん、手が離せないということなのだろう。
トウコがライブキャスターの通信をつなぐと、チェレンの後ろでさわぐ園児が見えた。
あ、髪の毛引っぱられてる…。
『さっきは悪かった。とにかく、この場をどうにかもたせないと!僕はなんとか教室でやってみるから、トウコは外の子達をたのむよ』
「わかったわ。早く、先生帰ってこないかしら……」
『まったく、そもそもの原因は君じゃないか。僕までメンドーなことに巻き込んで……』
「いいじゃない。手伝ってくれたって!それに、チェレンだって手伝う理由はできたはずよ」
『…まぁそうだね。とにかく、そっちはまかせたからね!』
ぷっつりと切れる通信。
「せんせい~、何お話ししてたの?」
「ちょっとねぇ~」
ごまかしながら、トウコは再び砂場の山の作成を試みた。
外の遊具で遊ぶ子たちも、もちろん見守りながら。
こんなに、幼稚園の先生が大変だったなんて知らなかったわ……。
そもそもの原因は、なんだったのだろう。
チェレンとのバトルが、はじまりだったかもしれない。
3番道路を進んだトウコは、トライバッジを同じく持っていた、チェレンとバトルをするはめになった。
接戦のすえ、勝ったトウコは、チェレンとそこで別れるつもりだったのだが、たまたまその場所がこの幼稚園の前で、園児たちが目を輝かせながら勝負を観戦していたのもあって、幼稚園の先生に、せっかくだから少しだけ、園児たちにポケモンたちを見せてほしいと頼まれたのだ。
私も、チェレンも、小さい頃にポケモン達にふれあえた時の、うれしさもわかっていたから、そりゃもう大歓迎で引き受けた。
ポケモンたちの回復までしてもらい、ジュースまで頂いて、申し訳ないくらいで…。
その後、隣の育て屋さんからやってきた、私にヒヤップをくれたお姉さんと再会して、またまた私たちのバトルをみていたらしく、勝負に負けたチェレンにヤナップをプレゼントをしてくれた。
相変わらず、面倒見のよいお姉さんで、優しくて、どうやら幼稚園の方も先生として手伝ってもいるようだった。
園児達にお礼も言われ、ポケモンももらい、チェレンもその時は、いつもみたいにクールぶりながらもうれしそうに、お礼を言っていた。
そこまでは、良かったのだけれど……。
それから私たちは、シッポウシティにそれぞれ向かう予定だった。
その時だ、幼稚園の先生が、1人園児がいないことに気づいたのは。
あわてる先生と、戸惑う私とチェレン。
いなくなった園児の特徴を聞いて、探してこようかと申し出たのだが、さすがに顔もわからないと難しいだろうと断られ、代わりにこの幼稚園を、少しの間みていてほしいと頼まれてしまったのだ。
いなくなった子供の安全の方が心配だったし、トウコはすぐに引き受けて、チェレンもメンドーがりながらも、一緒に引き受けてくれたといったかんじだ。
それから、いなくなった園児を先生と、育てやさんのお姉さんが探しに行って、園児と遊びながら先生が帰ってくるのを私たちは待っているわけだけれど、一向に帰ってこない。
いったいどこまで行ったのだろう?
こんなことなら、ライブキャスターの連絡先を聞いたり、教えておくべきだったかもしれない。
だんだん、チェレンと私の力量じゃあ、園児達をまとめるのが難しくなってきている。
タッくん達に手伝ってもらったが、限界に近い。
ざくざく、ざくざく。
ざくざく、ざくざく。
さっきから、ひたすら穴を掘っている。
なんでこうなってるんだっけ?
シャベルを片手に、トウコは考えた。
「おねえちゃんせんせい! はやくはやく!」
砂場に作った、大きなお山にトンネルが通るのを、園児達が楽しみにしながらせかす。
トウコはすっかり泥だらけになっている腕を、お山につっこんで、砂を掘ってはかきだしていた。
「はいはーい。ちょっと待ってね」
もう少しで、できそう。
そう思って、最後の砂を掘り出したとき、勢いよく飛んできたボールで、お山が消えた。
え…!?
くずれた砂のお山をみて、園児がめそめそと泣き始める。
「せんせ~!お山くずれちゃった~!」
「せっかくつくったのに~!」
「ほ、ほら、大丈夫。もう一回つくろう~!」
おろおろしながら、砂場の砂をかき集める。
そこにやってきたのは、お山を崩した張本人だった。
「せんせ~、ボール来なかった?」
「ちょっと、ケントくん。ボール遊びは向こうでやってちょうだい!」
泣いている周りの園児をみても、ケントは動じていない。
「また、ケント君だ~!」
女の子が泣きながら、ケントを指さした。
「なんだよ!こんなところで、山なんかつくってるからいけないんだ!」
そう言って、トウコがかき集めていた砂の山を足でめちゃくちゃに崩した。
よけいに泣き出す園児達。
なんでこうなるやら…。
「ちょっと!ケント君。みんなにあやまりなさい!」
「や~だね!」
そう言って、あっかんべーをするケント。
全く~!!
「こらっー!!」
「うわ~!怒ったぞ!鬼トウコだ~!」
うわーっとケントが走り出すと、ケントと共に、何人かの園児がきゃーきゃー言いながら散らばって逃げていく。
「せんせい~。ご本よんで~」
教室からやってきたらしい園児に、後ろから服を引っぱられた。
「ごめん、ちょっと待ってね」
トウコはため息混じりに言った。
ああ。
カオスだわ。
収拾のつかない園児達のパワーに圧倒される。
テリムは、いたずらっ子のケント君にまた追い回されているし、ヒヤリンはすっかり馴染んでいるのか、女の子たちとのんびり花飾りをつくっている。
タッくんにいたっては、先程しっぽの葉っぱをむしられたショックで、ボールの中に閉じこもっている。
「トウコ、遊んでないでこっちを手伝ってくれないか!」
エプロン姿に身を包んだチェレンが、眼鏡を指でくいっと上に上げながらビシリと言った。
幼稚園の先生ですと紹介しても、誰も疑う人はいないくらい似合いすぎている男だ。
後ろに園児をくっつけていると、主夫にも見えてくる。
トウコがぷっと吹き出していると、チェレンはイライラしながら言った。
「教室の中が大変なんだ!手伝ってくれ!」
なによ、その偉そうな態度は!
当たり前のようにそう言うから、ちょっとイラっとした。
「こっちだって大変よ!何とかしてほしいくらいだわ」
「外はまだ、簡単そうじゃないか」
「そんなことないわ! 教室の方がみんな走り回らなくてよさそうじゃない」
「そんなことはない!」
「せんせい、けんかはダメだよ!」
いつの間にか、園児達が見ていた。
急に恥ずかしくなる。
「あ、ごめんね。大丈夫よ、大丈夫!」
「け、けんかじゃないよ。ほら、みんな教室に戻ろうか?」
心配そうに見ていた園児達を、引き連れてさきほどの定位置に戻ったあと、ライブキャスターが鳴った。
チェレンからだ。
こんな近くにいるのに!?
たぶん、手が離せないということなのだろう。
トウコがライブキャスターの通信をつなぐと、チェレンの後ろでさわぐ園児が見えた。
あ、髪の毛引っぱられてる…。
『さっきは悪かった。とにかく、この場をどうにかもたせないと!僕はなんとか教室でやってみるから、トウコは外の子達をたのむよ』
「わかったわ。早く、先生帰ってこないかしら……」
『まったく、そもそもの原因は君じゃないか。僕までメンドーなことに巻き込んで……』
「いいじゃない。手伝ってくれたって!それに、チェレンだって手伝う理由はできたはずよ」
『…まぁそうだね。とにかく、そっちはまかせたからね!』
ぷっつりと切れる通信。
「せんせい~、何お話ししてたの?」
「ちょっとねぇ~」
ごまかしながら、トウコは再び砂場の山の作成を試みた。
外の遊具で遊ぶ子たちも、もちろん見守りながら。
こんなに、幼稚園の先生が大変だったなんて知らなかったわ……。
そもそもの原因は、なんだったのだろう。
チェレンとのバトルが、はじまりだったかもしれない。
3番道路を進んだトウコは、トライバッジを同じく持っていた、チェレンとバトルをするはめになった。
接戦のすえ、勝ったトウコは、チェレンとそこで別れるつもりだったのだが、たまたまその場所がこの幼稚園の前で、園児たちが目を輝かせながら勝負を観戦していたのもあって、幼稚園の先生に、せっかくだから少しだけ、園児たちにポケモンたちを見せてほしいと頼まれたのだ。
私も、チェレンも、小さい頃にポケモン達にふれあえた時の、うれしさもわかっていたから、そりゃもう大歓迎で引き受けた。
ポケモンたちの回復までしてもらい、ジュースまで頂いて、申し訳ないくらいで…。
その後、隣の育て屋さんからやってきた、私にヒヤップをくれたお姉さんと再会して、またまた私たちのバトルをみていたらしく、勝負に負けたチェレンにヤナップをプレゼントをしてくれた。
相変わらず、面倒見のよいお姉さんで、優しくて、どうやら幼稚園の方も先生として手伝ってもいるようだった。
園児達にお礼も言われ、ポケモンももらい、チェレンもその時は、いつもみたいにクールぶりながらもうれしそうに、お礼を言っていた。
そこまでは、良かったのだけれど……。
それから私たちは、シッポウシティにそれぞれ向かう予定だった。
その時だ、幼稚園の先生が、1人園児がいないことに気づいたのは。
あわてる先生と、戸惑う私とチェレン。
いなくなった園児の特徴を聞いて、探してこようかと申し出たのだが、さすがに顔もわからないと難しいだろうと断られ、代わりにこの幼稚園を、少しの間みていてほしいと頼まれてしまったのだ。
いなくなった子供の安全の方が心配だったし、トウコはすぐに引き受けて、チェレンもメンドーがりながらも、一緒に引き受けてくれたといったかんじだ。
それから、いなくなった園児を先生と、育てやさんのお姉さんが探しに行って、園児と遊びながら先生が帰ってくるのを私たちは待っているわけだけれど、一向に帰ってこない。
いったいどこまで行ったのだろう?
こんなことなら、ライブキャスターの連絡先を聞いたり、教えておくべきだったかもしれない。
だんだん、チェレンと私の力量じゃあ、園児達をまとめるのが難しくなってきている。
タッくん達に手伝ってもらったが、限界に近い。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (8) 作家名:アズール湊