黒と白の狭間でみつけたもの (8)
テリムももうバテてきているし、ヒヤリンはマイペースで、自分が園児と混じって遊んできちゃっているし、タッくんはまだ立ち直ってくれないし。
きっと、チェレンのポカブたちも教室で、同じ状況じゃないだろうか。
教室も、運動場も散らかり放題。
荒れ果てていく幼稚園。
それでもつきない園児達の遊ぶパワー。
トウコも先程から、あっちやこっちに引っぱられながら、何をしているのかわからなくなってきていた。
「トウコせんせ~、大丈夫?」
元気なく見えたのか、女の子が声を掛けてきた。
「大丈夫よ、ありがとう」
いけない、いけない。
こんな小さな子に、気を遣わせてどうするのよ!
よ~し!
トウコは気合いを入れると、大きな声で運動場に呼びかけた。
「はーい!みんな!トウコ先生と、かくれんぼする人、この指と~まれ!」
「する!」
「するする!」
「わたしも~!」
一斉に園児がトウコに向かって走り込んできた。
うわぁ~すごい数。
いいわ、もう、頑張っちゃうんだから!
大人数 対 トウコ。
はっきり言って、ルールなんて途中から変わって、おにごっこが始まったりしていたけれど、良しとして、2回目のゲームを始めているときだった。
「どけ、どけっーー!」
3番道路幼稚園のすぐ側を、銀色のコスチュームをした2人組が、大声を上げながら走り去って行った。
あれって、プラズマ団?
人目も気にせず、全速力で駆けていった。
また、何かの演説活動でもしているのだろうか…。
半分あきれながらそう思っていた。
「なんなんだよ、いまの……?」
教室からみていたらしい、チェレンもあきれながら言った。
「待て~!」
声が聞こえた。
こっちに向かってくる。
よくみると、幼稚園の先生と、育てやさんのお姉さん。
そして、ベルだった。
小さな女の子を連れている。
もしかして、いなくなっていた園児?
でも、なんでベルまで?
「……ってベル? どうして走ってるの?」
チェレンも同じ事を思っていた。
2人で顔を見合わせる。
走ってきたベルは、トウコとチェレンの顔を見るなり、息を切らしながら早口に言う。
「ねぇねぇ、今の連中、どっちに向かった?」
「あっちだけど……」
チェレンがプラズマ団が走っていった方を指さした。
「ああ、もう!なんて早い逃げ足なの!?」
「だから、どうして走ってるのさ。よくわからないけれど、いなくなっていた子は見つかったんですよね?」
ベルの後ろに立っている、幼稚園の先生と育てやのお姉さんにチェレンが聞く。
「実は……いなくなっていた子は見つかったんだけれど…」
困ったように、黙り込む。
何かあったの?
小さな園児の女の子は、泣きそうな顔をしていた。
「…おねえちゃん……あたしのポケモン?」
「大丈夫! 大丈夫だから泣かないで!」
ベルがあわてて優しく声を掛けた。
「……あのねベル。だからどうして走ってたんだ?」
チェレンの追求に、ベルがようやく話し出す。
「聞いてよ!さっきの連中にこの子のポケモン、とられちゃったのよ!」
「!?」
なにそれ!?
「それを早く言いなよ!」
強い口調でチェレンが言う。
「トウコ、ポケモンを取り返すよ!」
「もちろん! テリム、ヒヤリン!」
トウコは2匹を急いでボールに戻し、借りていたエプロンを急いで脱いだ。
チェレンも急いで支度をする。
「ベル! 君はその女の子の側にいてよ」
「わかった。2人ともお願い!」
チェレンが急いで走り出す。
トウコもその後ろをついていくように、追いかけた。
足の速いチェレンは、あっという間に先に行く。
分かれ道にきたが、チェレンはそのまままっすぐ走った。
そして、突き当たりで右に曲がる。
すぐにトウコの方を振り返り、こっちだと合図した。
見つけたみたいだ。
トウコが追いつき、チェレンが待っていた場所は、小さな洞窟の入り口だった。
「あいつら、この中に入っていったよ」
チェレンが言った。
あんな小さい子のポケモンを奪うなんて、なんて奴らだろう!
「じゃあ…いくよ!」
トウコは頷いて、チェレンと共に、薄暗い洞窟の中に足を進めた。
ここは確か、地下水脈の穴。
外が明るいせいか、しばらく何も見えない。
1~2分くらい暗闇を見つめていた。
ようやく目が慣れ、視界が開く。
奥の水辺に、プラズマ団の2人組がいるのが見えた。
チェレンと共に駆け寄る。
「ちょっとあんた達!さっきの子のポケモン返しなさいよ!」
「わざわざ追いかけてきたのか」
プラズマ団の男が鼻で笑った。
「ポケモンを返す?我々が解放してやるのだ」
もう一人の男も言った。
どうやら、全く返す気はないらしい。
「トウコ。こいつら話しが通じない、メンドーな連中だね」
見限ったチェレンが、ため息をつく。
ほんと、話しが通じない。
聞こうともしない。
腹が立つわ。
「あんな子供にポケモンは使いこなせない。それではポケモンが可哀想だろう?」
「そんなの、勝手な意見だわ!あの子とそのポケモンは友達なのよ!」
「友達?そんなのは人間の勝手な意見だと、ゲーチス様は言っている。ポケモンはあるべき姿に戻るべきなのだ。おまえらのポケモンも同じ、我らプラズマ団にさしだせ!」
男がトウコに詰め寄った。
「トウコ!」
「おまえもだ!我々プラズマ団にさしだせ!っというか奪ってやるよ!」
チェレンも男に詰め寄られる。
「そんなのごめんだわ」
「ああ、同じ意見だ。そっちはまかせたよ」
「もちろん、負ける気がしないわ」
ボールを構えたトウコとチェレンに、プラズマ団がボールはなつ!
床にボールが当たる前に、トウコとチェレンもポケモンをはなった!
トウコの前に、タッくんが現れる。
「ゆけ!ミネズミ!」
プラズマ団の男が命令する!
「かみつけ!」
「タッくん、避けて!」
「タジャ」
しっぽの葉っぱを気にしながら、タッくんは軽々と避けた。
ミネズミは、再びかみつこうと、タッくんに迫った!
ミネズミの歯が、タッくんのむしられたしっぽの葉っぱをかすった。
取れかかっていた葉っぱの破片がとれた。
「タジャ!」
急に怒り出すタッくん。
まだ、むしられたことを気にしているらしい。
「タッくん!グラスミキサー!」
トウコの指示に、タッくんは、思い切りイライラをぶつけた!
タッくんのむしられた葉っぱが数枚抜け落ちて、大きな風を起こす!
つむじ風のようになったそれが、ミネズミに襲いかかった!
タッくんの鋭い葉っぱが、ミネズミの体を傷つける!
「ズミー!」
痛みに耐えられなくなったミネズミが倒れる。
タッくんは、フンっと鼻息荒く腕を組み、倒れたミネズミを見下ろして、少しはすっきりしたのか、ボールに戻っていった。
圧倒的。
ちょっと、タッくんが恐いくらい…。
「なぜだ!なぜ正しき我らが負ける!?」
信じられない様子で、戸惑う男。
チェレンの方も片がついたみたいだ。
「さすが、トウコ。さあ、あの子から取り上げたポケモンを返しなよ!」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (8) 作家名:アズール湊