黒と白の狭間でみつけたもの (8)
「そうよ!返しなさい!」
チェレンと共に、ボール片手にプラズマ団に迫った。
後ずさりする団員たち。
青ざめる表情に、勝利を確信したときだった。
「「返す必要はないぜ!!」」
洞窟の奥から、2つの声が響いた。
まだ仲間が!?
走り込んでくる2つの影を見て、プラズマ団の2人組に笑みが戻る。
脇に逸れた2人の団員と入れ替わるように現れたのは、新たな2人組。
「大変だよな。理解されないばかりか、邪魔されるなんて」
「相手は2人、我々も2人。我々の結束を見せつけ、正しいことを教えてやるよ」
再び迫る団員。
今度は同時に2人だ。
チェレンは呆れたように言う。
「まだいたとはね……。それにしても、ポケモン泥棒が何を開き直っているんだか…」
その通りだ。
「トウコ。幼なじみのコンビネーションで、彼らに思い知らせよう!」
「オッケー!まかせて~!」
チェレンと共にダブルバトル!!
プラズマ団は、ミネズミ2匹をくりだしてきた。
こちらも、自慢の2匹を登場させる!
「いけ!タッくん。もう1回おねがい!」
「いけ!ポカブ!相手を圧倒しろ!」
「タッジャ!」「ポカー!」
かみつきに向かってきた、ミネズミを、タッくんとポカブがよける。
レベルの差は画然だった。
トウコとチェレンは顔を見合わせて頷いた。
わかってる。
みせてやるわ!私たちのコンビネーション!
合わせ技を!
「トウコ!」
「まかせて!タッくん、せいちょう!そして、グラスミキサー!」
「タジャーー!」
タッくんの葉っぱが生え替わる。
大きくなった葉をのせて、力の増した緑のつむじ風が起こる!
大きなつむじ風!
相手に向かう!
「ポカブ!ひのこだ!」
「ッカブーー!!」
グラスミキサーに火の粉がまきこまれ、中の葉っぱに引火する!
つむじ風は大きな炎の渦となった!
「くっそー!ミネズミがまんだ!」
2匹のミネズミは、あわてふためき、命令を聞いていない。
「何やってるんだ!なんとかしろ!」
荒々しい声をあげるプラズマ団。
もはや、コンビネーションのかけらもない。
炎のうずとなった、グラスミキサーがミネズミの体を巻き込んだ!
ぐるぐるとまわり、ミネズミの体を離さない。
風が収まったときには、ミネズミ2匹は目を回して倒れていた。
「プラーズマ!負けちまった…」
「プラーズマー!まさかやぶれるとは」
団員たちがくやしそうに吠える。
勝負は終わった。
きっちり、奪った物は返してもらわないと!
「勝負はついたわ。返してもらうわよ」
トウコが言うと、プラズマ団の男が口調を強めて言った。
「俺達は、ポケモンを解放するため、愚かな人間達からポケモンを奪っていくのだ!!」
「やれやれ、本当にメンドーくさいな。どんな理由があろうと、人のポケモンをとっていいわけないよね?」
チェレンが呆れて言った。
プラズマ団の男は、別の団員に慰められるように肩をたたかれた。
何かを言おうとして、口ごもった。
なぜそこまで、意地を張るのかわからなかった。
「お前達のようなポケモントレーナーが、ポケモン達を苦しめるのだ……」
小さな声でそう言った。
「……なぜトレーナーがポケモン苦しめているのか、全く理解できないね!」
チェレンが強い口調で言い切った。
そして、早く渡すようにと、手を差しだした。
後ろにいる、ポカブをみせつけながら。
団員の一人が動く。
手には、モンスターボールを持っていた。
あの女の子のポケモンだろう。
「ポケモンは返す……。だが、このポケモンは人に使われ可哀想だぞ」
プラズマ団員が、そう言って、チェレンにボールを返した。
チェレンがボールを受け取ると、プラズマ団員たちはとぼとぼと、洞窟の外に出て行った。
「……いつか自分たちの愚かさに気づけ…」
そう言い残して。
「ポケモンの力を引き出すトレーナーがいる。トレーナーを信じてそれに答えるポケモンがいる。これでどうして、ポケモンが可哀想なのかわからないね」
そうだよね。
私たちは、そうやってポケモンたちとの絆を大事にしているんだもん。
ポケモントレーナーって、そういうものじゃないのかな。
むやみやたらに、ポケモンを傷つけるのとは違う。
私たちは、お互い信頼しあった形で、一緒にいるんだ。
バトルも、旅も、辛いことも多いけれど、一緒に乗り越える仲間。
楽しいことも、苦しいことも、一緒だから乗り越えられる。
そうだと思うのに……。
「さてと……トウコ。僕がポケモンを返してくるよ」
「うん…」
チェレンがそう言って、洞窟を出ていった。
トウコもゆっくり、その後に続く。
ポケモンを取り返せたのになんだろう。
あんまり、いい気持ちじゃなかった。
幼稚園までの道のりを戻ると、ベルと女の子が待っていた。
「トウコ、本当にありがとうね!2人でポケモンを取り返してくれたんだよね。ほんとトウコ達と友達でよかった!!」
「おねえちゃん、ありがとう!!」
小さな女の子は、取りもどしたモンスターボールを握りしめて、嬉しそうに笑っていた。
よかった…大事なお友達を取り返せて。
「あれ?チェレンは?」
先に出ていった、チェレンの姿が見えなかった。
「あ、なんか先に急ぐとかで、すぐ行っちゃったよ。先生もお礼がしたいって言ってたのに……」
「そっか」
ズボンの裾を、くいくいと引っぱられた。
「お礼にこれあげるね!」
女の子はそう言って、ヒールボールをトウコにくれた。
特別なモンスターボールだ。
「あ、ヒールボール!それで捕まえたポケモンは、体力満タンになるんだよね」
「それ、せんせいとみんなから。おねえちゃん、きっといそいでるって、せんせいがおしえてくれたから」
女の子が言った。
なんだか、気を遣わせてしまったみたい。
にしても、さすがは先生!
チェレンや、私が先に進みたいことをお見通しみたいだった。
「トウコも先に行っちゃうんだね」
「うん、できれば先に進みたいかな」
予定より、ずっと滞在しちゃったし。
ちょっと、申し訳ない気もするけれど。
「そっか、じゃあ、あたしが上手く言っておくよ!あたし、この子を送っていくから。じゃあね!トウコ、バイバーイ!」
「ばいばい~!おねえちゃん!」
ありがとね!ベル。
そう思いながら、手を振って、トウコは先に進むことにした。
ボールの中で、タッくんも、テリムもヒヤリンもぐっすり眠っていた。
今日は当分、バトルは、お預けかも知れない。
みんなにあんなに手伝ってもらっちゃったし、朝からたっぷり遊んだし、くたくたのはずだ。
「ゆっくり進むかな」
大きな欠伸をすると、トウコもシッポウシティ目指して、のんびり歩き出した。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (8) 作家名:アズール湊