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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (11)

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( 第11章 Nの悩み )

ばすっ、 とボールがネットをすり抜けた、気持ちの良い音が響いた。

さきほどから何度となく、決まってゴールに入っている。

正確には、243回の成功と17回の失敗だ。

確実なる成功が望ましい。今日は調子が悪い。いや、最近はというのが正解かも知れない。

コロコロと、床に転がったボールにゾロアが飛びついた。

前足で転がし、おもしろそうにじゃれる。

『N、そろそろ休んだらどうだ?』

「そうだね」

Nがそう言って座り込むと、ゾロアはまたボールで遊びだした。

すぐ側では、おもちゃの列車が道をなくして、動けずに留まっていた。

「ああ、そうだ。作りかけだったんだ」

レールを増やし、接続する。

美しい楕円形に形作られたレールの上を、一定の速度で列車が走り出した。

回り始める列車。

完璧に作られた美しい光景だと、Nは思った。

常備されているミネラルウォーターを一気に飲み干すと、Nは大の字に寝そべった。

天井では、くるくると飛行機の模型がいつものように、一定の速度で回っていた。

正しい数式で作られ、設計された、正しい物。

いつもは、あれを見ているだけでよく眠れるというのに、最近はさっぱりだ。

どうも満たされない。

こんなことは、生まれて初めてだ。

『N、これで遊んでいい?』

小さなダルマッカが、おもちゃ箱からブロックを引きずってきた。

「いいよ、いくらでも好きに遊んで」

Nがにっこりと微笑むと、ダルマッカはうれしそうにブロックで遊び始めた。

ダルマッカが広げ始めたブロックで、レールの列車が脱線する。

床に落ちて、きりきりと音を立てたが、Nは怒らなかった。

ダルマッカの背中には、まだ痛々しい傷が残る。

人間に虐待された痕だ。

はじめてやってきた時は、話そうとしても、触れようとしても応じてくれなかった。

全くご飯も食べなくて、衰弱していった姿を思い出すと、今でも可哀想でならない。

ゾロアたちと声を掛けることを続けて、ほんの少しだけ触らせてもらえるようになって、ようやくトモダチになれたのだから。

ここにやってくるポケモン達は皆そうだ。

人間達に苦しめられ、傷つき、泣いているポケモンばかり。

みんな、人間達を恐れ、怨んでいる。

傲慢な人間に悲しんでいる。

そんな人達からようやく助けられたポケモンが、ここにやってくるのだ。

それでも、ごく一部しか助けられていない。

世界では、もっと多くのポケモン達が傷つけられているとゲーチスは言う。

だからこそ、助けなければならないと。

ポケモンの声が聞こえるボクこそ、世界を変えポケモン達を助ける救世主となれるのだと言った。

ゾロアやダルマッカ達のように、人間のせいで傷つくポケモン達を見ているのは嫌だ。

見て見ぬふりは出来ない。

ポケモン達は、ボクの唯一のトモダチだ。

小さい頃からたくさんのことを教えてくれた優しいトモダチだ。

ポケモンが苦しむ世界など無くなればいい。

ボクはポケモン達を救いたい。

人間の手から解放し、すべてのポケモン達を完全で、安全な世界に住まわせてやりたい。

だからこそ、ゲーチスにたのまれ王にもなった。

同じ意思を持つ多くの人々のおかげで、計画は着々と進んでいる。

あとは、ゼクロム。

キミとトモダチになれれば、世界を変えられるはずなのに……。

どうしてこうも気分が晴れないんだ。

『浮かない顔してどうしたんだ? ハラでも減ったのか?』

ゾロアがNの顔をのぞき込む。

ぺろぺろと舌を出し、何かを欲しがっているようだった。

「お腹がすいたのは、君のほうだろ?」

相変わらずの食いしん坊に、呆れながらNは起きあがった。

ポケモンフードを取り出そうと、棚へ向かう。

棚からいつものポケモンフードを取り出すと、ゾロアが吠えた。

『ちがうよ。食べたいのはそっちじゃない』

最近、ゾロアはこんな調子だ。

いつもの餌だと怒るのだ。

仕方なく食べるときもあるが、トウコからもらったポケモンフードばかり食べる。

それも少しずつ、大事そうに。

Nは仕方なく、いつものポケモンフードを棚にもどし、トウコからもらった残り少ないポケモンフードを取り出した。

お皿に入れていると、待ちきれなそうにしっぽを振った。

『はやく、はやく!』

「少しは待ってくれよ…」

せかされながら、Nはトウコのポケモンフードをゾロアの皿に軽めに盛ると、ゾロアの前に置いた。

嬉しそうにゾロアが食べ始める。

袋を見ても、中身を見ても、こちらで買った物と何も変わらない気がするのに、ゾロアは味が違うというのだ。

栄養バランスも、成分も同一の物だ。

どんな化学的根拠があるのか、さっぱりわからない。

「ほんとに、違うのか?」

『違う、違う! 全然違うって!Nも食べてみれば?』

ゾロアがあんまりそう言うから、一粒食べてみたが、特に変わった味もしなかった。

「ボクにはわからないな」

『Nは鈍感だな』

ゾロアはそう言って、おいしそうに食べる。

ゾロアはトウコのことが好きみたいだ。そのことが、味に関係しているのだろうか。

ゾロアがN以外の人間に懐くなど、信じられないことだった。

ひどい虐待を何年も受けていたゾロアは、ここに来たときにはすっかり人間不信になっていたのだから。長い間、話しかけて、噛みつかれもして、だんだんと心を開いてくれた。

それでも今まで、N以外の人間には決して近づこうとしなかった。

あの公園で、一瞬にしてゾロアの心を開いたトウコ。

彼女と出会ってから、不思議なことだらけだ。

ボクと同じように…ポケモンの心がわかる少女か……。

トウコに出会ったこと自体が衝撃だった。

人間なんて、ポケモンを傷つけ、傷つけたことすらなかったことにする生き物とばかり思っていたのに、トウコはまるで違う。

ポケモン達を信頼し、心を開かせ、受け止める。

トウコが連れているポケモン達も、皆トウコが大好きで、信頼しているようだった。

自らの体が傷つくポケモンバトルでさえも、いつもトウコのためにと、向かってくる。

彼女と共にいることを、何よりも楽しんでいるように見えた。

ポケモントレーナーは、ポケモンの心を見ようともしない、残虐な者がなるものではなかったのか?

ゾロア達はボクが叶えようとしている、ポケモン達の理想のために、仕方なく自らの体を傷つけてでも、一緒に頑張ってくれている。

だから、トレーナーとなったボクにさえ、ついてきてくれるのだと思っていたのに。

ゲーチスに教えられてきたことと、違うことばかりだ。

正しいことをしているはずなのに、心が乱れる。

完璧な数字で描かれた、理想の未来が崩れそうになる。

未来はもう見えたというのに…。

ビジョンは浮かんでいる。

ボクはゼクロムとトモダチになれるだろう。

でも…そこに立ちふさがろうとする者もいるようだ。

それが誰かは、まだはっきりとはわからない。

見え始めた未来に、不安を感じるのはどうしてだろう。こんなことは初めてだ。

未だかつて、ボクが見た未来が変わったことはない。