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アズール湊
アズール湊
novelistID. 39418
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黒と白の狭間でみつけたもの (11)

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それなのに、この言いようのない不安はなんだ?

『N!』

ゾロアの声がして、ハッとした。

どうやら食べ終わったようだった。

『どうしたんだよ、何回も呼んだんだぞ!』

「それはすまなかったね、ゾロア」

Nは屈んで、ゾロアの皿を片付けた。

そして、何も言わずに座り込んだNの膝に、ゾロアが飛び乗った。

『どうしたんだ? またぼーっとして。最近、N変だぞ』

ゾロアの言う通りだ。

確かにおかしいと思う。気づけばトウコのことばかり考えている。

ボクと同じような力を持つせいか、ほとんど驚きもせずにボクを受け入れて、気づいたら側にいるのが心地よくなっている。

ボクのことを優しいと言って、笑ったと思ったら、可哀想だと泣いたり。

怒ったと思ったら、顔を真っ赤にして急に黙り込んだり。

なんであんなにも感情がコロコロと変わるのか、本当によくわからないというのに。

それでも、トウコの姿をみるとうれしくなる。

見つけると、近くへ行きたくなる。

側にいて、近くで触れていたいと思う。

こんなことを、人に思うなんて初めてだ。

「確かに、変かもしれないな…」

『え! 病気なのか!?』

「違うよ、ゾロア。病気じゃない……ただ、ボクにもよくわからないんだ」

数式にあてはまらない。正しい形におさめるにはどうしたら良いのだろうか。

ヤグルマの森で、トウコが怪我をした時もおかしくなった。

高台からプラズマ団に突き落されたと聞いて、怒りが湧いたのだ。

団員に腹が立ったなんて言ったら、ゲーチスは失望するかも知れない。

彼らは理想の世界を作るために、日夜頑張ってくれているというのにだ。

あの時だって、作戦のため仕方がなかったはず。

仲間を恨むなんて、どうかしている。

けれども、あの時はなぜかどうしようもなく、腹が立った。

彼女を傷つけたことが許せなくて…。

どうしてあんな感情を持ったのだろう。

『もしかして、トウコのことか?』

「!?」

ゾロアの突然の言葉に、Nの鼓動は高鳴った。

『Nはトウコと会ってから変わった。違うのか?』

変化に敏感なゾロアだ。ゾロアが違うというのなら、本当に違うのだろう。

トウコの名前を聞いただけで、胸が高鳴っている。

トウコの笑顔が浮かぶ。

いったい、どういうことだ?

本当に、どこか変わったのだろうか。

「そんなに変わったかい?」

『そうだな。Nはよく笑うようになった』

ゾロアはそう言ってうれしそうに笑った。

意外な答えだった。

今までもポケモン達と遊び、一緒にいて、笑っていたことはあったはずだ。

表情というものは、そんなことで変化するのだろうか。

「意外だな、いつもゾロアと笑っているじゃないか」

『Nはトウコといると、いつもと違う。嬉しそうな顔をする。きっと、トウコがいいやつだからだ。俺もあいつはなんか好きだ。Nも、トウコといると楽しいだろ?』

嬉しそうにしっぽを振ってゾロアが言った。こう言いながら、トウコの前じゃ素直にほとんど話していない。照れくさいらしい。

トウコが好きか…。

確かにトウコといると楽しい。不思議な感情になる。

離れずに、もっと側にいられたら、この満たされない気持ちがなくなるかもしれない。

この気持ちを好きというなら、そういう感情なのかもしれない。

「そうだね…好きなのかもしれない」

Nがぽつりと呟いたとき、部屋のドアが開いた。

紫の派手なローブに身を包んだ、ゲーチスが入ってきた。

ゾロアが急に無口になる。

いつもそうだ、ゾロアはゲーチスに心を開かない。

恐くないのだと教えても、それは変わらなかった。

「これは、これはN様。お話のところ申し訳ございません」

Nに向かって深々と礼をするゲーチス。

彼がここに来る時は決まっている。それでも、Nは儀礼上と思い聞いた。

「ゲーチスか、何かあったのかい?」

「はい、次の作戦でご相談が。我ら七賢人に、N様の知識と力をお借りできませんかな」

作戦か…。

また多くのポケモン達が傷つくと思うと、嫌な気持ちになった。

それでも、ポケモン達の理想を叶えるには、行動しなければならない。

そうしなければ、多くのポケモン達は救えない。

「わかった。すぐ行くよ」

「では王座にて、お待ちしております」

ゲーチスはそう言って、深く一礼し部屋を出て行った。

『N…また行っちゃうの?』

心配そうに、ゾロアとダルマッカが寄ってきた。

「ああ、ボクは王様だ。やるべきことはやらないと…」

それがボクに課せられた義務だから。

すべてのポケモン達を救うには、これしかないのだから。

「すぐ戻るからね」

そう言って、ゾロアとダルマッカを部屋に残し、Nは廊下に出た。

重い扉を閉め、階段を上り、王座の間にたどりつく。

部屋にはいると、七賢人達がひざまずいてNを出迎えた。

重い空気に息苦しくなる。

それを悟られないように、まっすぐと歩き王座についた。

ふと、トウコを思い出した。

『優しい人間だっているよ』

泣きながら言っていた言葉を思い出す。

皆そうであれば、いいのに。

トウコもポケモン達と引きはがさなければいけないと思うと、胸がズキリと痛んだ。

それでも、ボクは王様。

ポケモン達の未来を作らなくてはならない。

「さあ、次の作戦を考えようか」

Nは王座から、同じ意思を持ちひざまずく団員たちに向かって話しを始めた。