黒と白の狭間でみつけたもの (11)
それなのに、この言いようのない不安はなんだ?
『N!』
ゾロアの声がして、ハッとした。
どうやら食べ終わったようだった。
『どうしたんだよ、何回も呼んだんだぞ!』
「それはすまなかったね、ゾロア」
Nは屈んで、ゾロアの皿を片付けた。
そして、何も言わずに座り込んだNの膝に、ゾロアが飛び乗った。
『どうしたんだ? またぼーっとして。最近、N変だぞ』
ゾロアの言う通りだ。
確かにおかしいと思う。気づけばトウコのことばかり考えている。
ボクと同じような力を持つせいか、ほとんど驚きもせずにボクを受け入れて、気づいたら側にいるのが心地よくなっている。
ボクのことを優しいと言って、笑ったと思ったら、可哀想だと泣いたり。
怒ったと思ったら、顔を真っ赤にして急に黙り込んだり。
なんであんなにも感情がコロコロと変わるのか、本当によくわからないというのに。
それでも、トウコの姿をみるとうれしくなる。
見つけると、近くへ行きたくなる。
側にいて、近くで触れていたいと思う。
こんなことを、人に思うなんて初めてだ。
「確かに、変かもしれないな…」
『え! 病気なのか!?』
「違うよ、ゾロア。病気じゃない……ただ、ボクにもよくわからないんだ」
数式にあてはまらない。正しい形におさめるにはどうしたら良いのだろうか。
ヤグルマの森で、トウコが怪我をした時もおかしくなった。
高台からプラズマ団に突き落されたと聞いて、怒りが湧いたのだ。
団員に腹が立ったなんて言ったら、ゲーチスは失望するかも知れない。
彼らは理想の世界を作るために、日夜頑張ってくれているというのにだ。
あの時だって、作戦のため仕方がなかったはず。
仲間を恨むなんて、どうかしている。
けれども、あの時はなぜかどうしようもなく、腹が立った。
彼女を傷つけたことが許せなくて…。
どうしてあんな感情を持ったのだろう。
『もしかして、トウコのことか?』
「!?」
ゾロアの突然の言葉に、Nの鼓動は高鳴った。
『Nはトウコと会ってから変わった。違うのか?』
変化に敏感なゾロアだ。ゾロアが違うというのなら、本当に違うのだろう。
トウコの名前を聞いただけで、胸が高鳴っている。
トウコの笑顔が浮かぶ。
いったい、どういうことだ?
本当に、どこか変わったのだろうか。
「そんなに変わったかい?」
『そうだな。Nはよく笑うようになった』
ゾロアはそう言ってうれしそうに笑った。
意外な答えだった。
今までもポケモン達と遊び、一緒にいて、笑っていたことはあったはずだ。
表情というものは、そんなことで変化するのだろうか。
「意外だな、いつもゾロアと笑っているじゃないか」
『Nはトウコといると、いつもと違う。嬉しそうな顔をする。きっと、トウコがいいやつだからだ。俺もあいつはなんか好きだ。Nも、トウコといると楽しいだろ?』
嬉しそうにしっぽを振ってゾロアが言った。こう言いながら、トウコの前じゃ素直にほとんど話していない。照れくさいらしい。
トウコが好きか…。
確かにトウコといると楽しい。不思議な感情になる。
離れずに、もっと側にいられたら、この満たされない気持ちがなくなるかもしれない。
この気持ちを好きというなら、そういう感情なのかもしれない。
「そうだね…好きなのかもしれない」
Nがぽつりと呟いたとき、部屋のドアが開いた。
紫の派手なローブに身を包んだ、ゲーチスが入ってきた。
ゾロアが急に無口になる。
いつもそうだ、ゾロアはゲーチスに心を開かない。
恐くないのだと教えても、それは変わらなかった。
「これは、これはN様。お話のところ申し訳ございません」
Nに向かって深々と礼をするゲーチス。
彼がここに来る時は決まっている。それでも、Nは儀礼上と思い聞いた。
「ゲーチスか、何かあったのかい?」
「はい、次の作戦でご相談が。我ら七賢人に、N様の知識と力をお借りできませんかな」
作戦か…。
また多くのポケモン達が傷つくと思うと、嫌な気持ちになった。
それでも、ポケモン達の理想を叶えるには、行動しなければならない。
そうしなければ、多くのポケモン達は救えない。
「わかった。すぐ行くよ」
「では王座にて、お待ちしております」
ゲーチスはそう言って、深く一礼し部屋を出て行った。
『N…また行っちゃうの?』
心配そうに、ゾロアとダルマッカが寄ってきた。
「ああ、ボクは王様だ。やるべきことはやらないと…」
それがボクに課せられた義務だから。
すべてのポケモン達を救うには、これしかないのだから。
「すぐ戻るからね」
そう言って、ゾロアとダルマッカを部屋に残し、Nは廊下に出た。
重い扉を閉め、階段を上り、王座の間にたどりつく。
部屋にはいると、七賢人達がひざまずいてNを出迎えた。
重い空気に息苦しくなる。
それを悟られないように、まっすぐと歩き王座についた。
ふと、トウコを思い出した。
『優しい人間だっているよ』
泣きながら言っていた言葉を思い出す。
皆そうであれば、いいのに。
トウコもポケモン達と引きはがさなければいけないと思うと、胸がズキリと痛んだ。
それでも、ボクは王様。
ポケモン達の未来を作らなくてはならない。
「さあ、次の作戦を考えようか」
Nは王座から、同じ意思を持ちひざまずく団員たちに向かって話しを始めた。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (11) 作家名:アズール湊