こらぼでほすと ニート16
きっちり一週間を里帰りして、寺に戻った。もちろん、ハイネもついてくる。とはいうものの、やっぱり常時は難しいから、アイシャが三日に一度はやってくる。アイシャは小さい生き物が大好きだから、リジェネの相手も楽しいらしい。
そして、リジェネは、すっかりテレビっ子な状態で、ダウンロードしたアニメやら特撮を日がな一日、鑑賞している。とはいえ、食事と昼寝とクスリと漢方薬に関しては、時間きっちりにニールにやるように催促してくる。面倒だから、と、ニールは漢方薬を食事前に飲んでいるが、本来は食間で、朝十時、午後三時、午後九時辺りが望ましいのだと、悟空に教えてもらったから、その時間にコップに漢方薬を用意する。
本日も、昼寝から覚めたニールに漢方薬の配達をしたが、水を忘れた。ハイネが、水がない、と、立ち上がろうとするので、慌てて引き返したのだが、慌てていて、回廊の階段を滑り落ちた。ぎゃっと声をあげて一気に下まで滑り落ちる。ズドドンという大きな音がした。
「リジェネっっ? 」
その音で、目が覚めたばかりのニールと、そこに付き添っていたハイネも回廊に転がり出てきた。階下でひっくり返っているリジェネに、慌ててニールが降りて来る。
「リジェネッッ、どこが痛い? 」
びっくりして自分が、どうなったのかわからなかったリジェネだが、ニールの声で現状を把握した。あっちこっちヒリヒリと痛いのだが、ものすごく痛いところがあって、そこに目をやって、顔色が変わる。左手の爪が根元から三本ばかり剥がれている。そこから、どくどくと血が流れていた。
「わぁっっ、僕の手っっ。」
たぶん、何かに捕まろうとして、勢いで爪が剥がれたらしい。他にも、お尻やら背中やらが、ズキズキと痛い。ちょっと自分の身体が、どうなってるのかわからなくて涙が出てくる。
「ハイネ、ドクターのとこへ運ぶぞ。」
「はあ? 」
「だって、これ、なんとかしてもらわないとっっ。それに骨が折れてるかもしれないだろ? 」
「待て、ママニャン。俺が診断する。」
ハイネのほうは、ゆっくりと階段を下りてきて、リジェネの足から触り始めた。たかだか階段を数段落ちたぐらいで、骨折なんて有り得ない。
「息できるか? 深呼吸してみろ。」
リジェネは命じられるままに、深呼吸する。ズキズキと背中とお尻は痛いが、呼吸は普通にできた。それから、腕を曲げられたり頭を触られたりしたが、それで痛いということはない。手の先が痛いのが、一番の激痛だ。
「骨は折れてないと思う。・・・んー、この爪は処置が難しいな。」
べろりと爪の下のほうから剥がれているので、これを剥がしておかなければならない。そうなると、麻酔でもして爪を剥がすことになる。病院でやるしかないのだが、本宅へ連れ込むのは、ハイネも考える。
「ちょっと待ってくれ。ドクターと連絡取るから。」
もう一度、階段を上がって本堂まで行って、そこでアスランと連絡を取る。あちらも、本宅へ運ぶのは難色を示した。そこには、ラボのマザーに直結するサーバーがあるからだ。
「どっか、こういう処置できる病院ってないか? 素性は詮索されないとこ。」
「ドクターの知り合いがないか尋ねてみる。少し時間をくれ。後、ティエリアに身体構造についても尋ねてみる。」
できれば、特区内の外科処置してくれる病院があれば望ましい。イノベイドが階段を踏み外すなんて考えもしていなかったが、そういうこともあるんだな、と、ハイネは携帯端末を切って、しばらく待っていた。
さて、階段下で転がっているほうは、ポロポロと涙を零して、「痛い、痛い。」 と、泣いている。こんなところに放置しておくわけにもいかないから、とりあえず抱き上げて居間に運んだ。
「そこ、見るな、リジェネ。」
左手の剥がれた爪が、いかにも痛そうで、タオルで、そっと、そこを隠した。他に背中やお尻が痛い、と、言うので、畳の上に横にして、そこいらを擦ってやる。尻餅をついた様子だから、尾てい骨あたりにヒビが入っているかもしれない。一応、最低限の医療知識のあるニールも、そう判断して、そこいらを擦る。呼吸は普通にできているなら、肋骨にはヒビもないはずだ。頭は痛いところがないというから、上手く庇ったらしい。
「ごめんな、リジェネ。」
「なんで、ママが謝るの? 」
「だって、おまえさん、俺の水を取りに走ったから、階段から落ちたんだろ? 俺が自分で行けばよかった。」
そう言われて、リジェネは気付いた。ママは、まだ漢方薬を飲んでいない。
「ママ、漢方薬っっ。」
「うん、後で飲む。・・・今は、それどころじゃない。」
「いいから、飲んでっっっ。」
「うん、病院行ってからな。一回や二回抜けても大丈夫だから。」
何言ってるのっっ、と、怒鳴ろうとして視線を合わせたら、リジェネも黙ってしまった。ニールは、とても心配そうな顔で、リジェネの背中を撫でていたからだ。撫でる行為に、鎮痛効果なんてものはない。ただの気休めだが、リジェネも痛みが減ったような気がする。
「もう、痛くない。だからっっ。」
「いいから、じっとしてろ。・・・・遅いな、ハイネは。」
ゆっくりと頭を撫でて、背中や腕をニールの手移動していく。なんの効果もないはずだが、何か温かいとは思う。ドタバタと足音がして、ハイネがやってきた。近くの病院へ運ぶと言う。
「病院? 」
「ドクターの知り合いのとこだ。そこへドクターが遠征して来る。クルマを門の前につけるから、ちょっと待っててくれ。」
「いや、ハイネ。どうして本宅じゃないんだよっっ。なんかあったらっっ。」
「なんかあっても、今のところ、こいつは本宅は出入り禁止だ。それに、あれぐらいじゃあ、イノベイドの身体は問題がないらしい。ティエリアに確認は取った。打撲程度で、その爪の処置するだけなら、そこいらの病院でできる。」
「はあ? 」
それだけ言い放つと、ハイネが外へ走り出した。なんで出入り禁止なんだ? と、ニールが首を傾げたら、リジェネから回答がある。
「僕とティエリアは敵同士だったから、万が一、キラのマザーに僕が悪戯する可能性があるからなんだ。」
「ええ? 」
「僕は、そのつもりじゃないけど、信じてもらう証拠はないからね。ティエリアとキラが、今、製作しているセキュリティーとリンクのシステムを完成させれば、僕のほうからは侵入できないらしいから、それまでのこと。」
「・・・そんな・・・」
ちょっと痛みが退いてきた。起き上がると、ニールが身体を支えてくれる。それが心地良いと思った。左手は、ズキズキというよりドクドクという感じだが、身体の痛いのは少しマシだ。
「それはいいんだ。だって、僕はママに逢いたかったんだから、そっちに用事はないんだ。」
「ごめん、リジェネ。」
「だから、ママが謝ることはないと思うんだけど? 階段を転がったのは、僕が失敗したからだし。本宅の出入り禁止は、キラからすれば当たり前の防衛手段だ。」
「でも、おまえさんは俺のために慌てたんだから、謝るべきだとは思う。」
「そういうものなの? よくわからないけど。」
「俺としては、そういうものだ。俺のためにしてくれることだから、感謝するべきだろ。」
そして、リジェネは、すっかりテレビっ子な状態で、ダウンロードしたアニメやら特撮を日がな一日、鑑賞している。とはいえ、食事と昼寝とクスリと漢方薬に関しては、時間きっちりにニールにやるように催促してくる。面倒だから、と、ニールは漢方薬を食事前に飲んでいるが、本来は食間で、朝十時、午後三時、午後九時辺りが望ましいのだと、悟空に教えてもらったから、その時間にコップに漢方薬を用意する。
本日も、昼寝から覚めたニールに漢方薬の配達をしたが、水を忘れた。ハイネが、水がない、と、立ち上がろうとするので、慌てて引き返したのだが、慌てていて、回廊の階段を滑り落ちた。ぎゃっと声をあげて一気に下まで滑り落ちる。ズドドンという大きな音がした。
「リジェネっっ? 」
その音で、目が覚めたばかりのニールと、そこに付き添っていたハイネも回廊に転がり出てきた。階下でひっくり返っているリジェネに、慌ててニールが降りて来る。
「リジェネッッ、どこが痛い? 」
びっくりして自分が、どうなったのかわからなかったリジェネだが、ニールの声で現状を把握した。あっちこっちヒリヒリと痛いのだが、ものすごく痛いところがあって、そこに目をやって、顔色が変わる。左手の爪が根元から三本ばかり剥がれている。そこから、どくどくと血が流れていた。
「わぁっっ、僕の手っっ。」
たぶん、何かに捕まろうとして、勢いで爪が剥がれたらしい。他にも、お尻やら背中やらが、ズキズキと痛い。ちょっと自分の身体が、どうなってるのかわからなくて涙が出てくる。
「ハイネ、ドクターのとこへ運ぶぞ。」
「はあ? 」
「だって、これ、なんとかしてもらわないとっっ。それに骨が折れてるかもしれないだろ? 」
「待て、ママニャン。俺が診断する。」
ハイネのほうは、ゆっくりと階段を下りてきて、リジェネの足から触り始めた。たかだか階段を数段落ちたぐらいで、骨折なんて有り得ない。
「息できるか? 深呼吸してみろ。」
リジェネは命じられるままに、深呼吸する。ズキズキと背中とお尻は痛いが、呼吸は普通にできた。それから、腕を曲げられたり頭を触られたりしたが、それで痛いということはない。手の先が痛いのが、一番の激痛だ。
「骨は折れてないと思う。・・・んー、この爪は処置が難しいな。」
べろりと爪の下のほうから剥がれているので、これを剥がしておかなければならない。そうなると、麻酔でもして爪を剥がすことになる。病院でやるしかないのだが、本宅へ連れ込むのは、ハイネも考える。
「ちょっと待ってくれ。ドクターと連絡取るから。」
もう一度、階段を上がって本堂まで行って、そこでアスランと連絡を取る。あちらも、本宅へ運ぶのは難色を示した。そこには、ラボのマザーに直結するサーバーがあるからだ。
「どっか、こういう処置できる病院ってないか? 素性は詮索されないとこ。」
「ドクターの知り合いがないか尋ねてみる。少し時間をくれ。後、ティエリアに身体構造についても尋ねてみる。」
できれば、特区内の外科処置してくれる病院があれば望ましい。イノベイドが階段を踏み外すなんて考えもしていなかったが、そういうこともあるんだな、と、ハイネは携帯端末を切って、しばらく待っていた。
さて、階段下で転がっているほうは、ポロポロと涙を零して、「痛い、痛い。」 と、泣いている。こんなところに放置しておくわけにもいかないから、とりあえず抱き上げて居間に運んだ。
「そこ、見るな、リジェネ。」
左手の剥がれた爪が、いかにも痛そうで、タオルで、そっと、そこを隠した。他に背中やお尻が痛い、と、言うので、畳の上に横にして、そこいらを擦ってやる。尻餅をついた様子だから、尾てい骨あたりにヒビが入っているかもしれない。一応、最低限の医療知識のあるニールも、そう判断して、そこいらを擦る。呼吸は普通にできているなら、肋骨にはヒビもないはずだ。頭は痛いところがないというから、上手く庇ったらしい。
「ごめんな、リジェネ。」
「なんで、ママが謝るの? 」
「だって、おまえさん、俺の水を取りに走ったから、階段から落ちたんだろ? 俺が自分で行けばよかった。」
そう言われて、リジェネは気付いた。ママは、まだ漢方薬を飲んでいない。
「ママ、漢方薬っっ。」
「うん、後で飲む。・・・今は、それどころじゃない。」
「いいから、飲んでっっっ。」
「うん、病院行ってからな。一回や二回抜けても大丈夫だから。」
何言ってるのっっ、と、怒鳴ろうとして視線を合わせたら、リジェネも黙ってしまった。ニールは、とても心配そうな顔で、リジェネの背中を撫でていたからだ。撫でる行為に、鎮痛効果なんてものはない。ただの気休めだが、リジェネも痛みが減ったような気がする。
「もう、痛くない。だからっっ。」
「いいから、じっとしてろ。・・・・遅いな、ハイネは。」
ゆっくりと頭を撫でて、背中や腕をニールの手移動していく。なんの効果もないはずだが、何か温かいとは思う。ドタバタと足音がして、ハイネがやってきた。近くの病院へ運ぶと言う。
「病院? 」
「ドクターの知り合いのとこだ。そこへドクターが遠征して来る。クルマを門の前につけるから、ちょっと待っててくれ。」
「いや、ハイネ。どうして本宅じゃないんだよっっ。なんかあったらっっ。」
「なんかあっても、今のところ、こいつは本宅は出入り禁止だ。それに、あれぐらいじゃあ、イノベイドの身体は問題がないらしい。ティエリアに確認は取った。打撲程度で、その爪の処置するだけなら、そこいらの病院でできる。」
「はあ? 」
それだけ言い放つと、ハイネが外へ走り出した。なんで出入り禁止なんだ? と、ニールが首を傾げたら、リジェネから回答がある。
「僕とティエリアは敵同士だったから、万が一、キラのマザーに僕が悪戯する可能性があるからなんだ。」
「ええ? 」
「僕は、そのつもりじゃないけど、信じてもらう証拠はないからね。ティエリアとキラが、今、製作しているセキュリティーとリンクのシステムを完成させれば、僕のほうからは侵入できないらしいから、それまでのこと。」
「・・・そんな・・・」
ちょっと痛みが退いてきた。起き上がると、ニールが身体を支えてくれる。それが心地良いと思った。左手は、ズキズキというよりドクドクという感じだが、身体の痛いのは少しマシだ。
「それはいいんだ。だって、僕はママに逢いたかったんだから、そっちに用事はないんだ。」
「ごめん、リジェネ。」
「だから、ママが謝ることはないと思うんだけど? 階段を転がったのは、僕が失敗したからだし。本宅の出入り禁止は、キラからすれば当たり前の防衛手段だ。」
「でも、おまえさんは俺のために慌てたんだから、謝るべきだとは思う。」
「そういうものなの? よくわからないけど。」
「俺としては、そういうものだ。俺のためにしてくれることだから、感謝するべきだろ。」
作品名:こらぼでほすと ニート16 作家名:篠義