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こらぼでほすと ニート16

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「・・・うん・・・じゃあ、僕もありがとう。擦ってれたら、ちょっと痛くなくなった。」
「そうか、でも、派手に落ちたから、しばらくは痛いと思うぜ。それに、爪は・・・時間がかかる。」
 一日一ミリ程度しか伸びないのが、普通だ。生え揃うには何ヶ月かかかる。それまで、痛い思いをしてもらわなければならない。
「大丈夫。もし、時間がかかるなら、一端、ヴェーダに戻って治してくる。素体の修理もできるんだ。」
 素体を交換することもできるし、小さな怪我なら、人間が再生槽や医療ポッドで治療するように治すこともできる。そう説明しても、ニールの心配顔は元に戻らない。心配しないで、と、言っても、うんうんと頷いて、無理に笑うが、それだけだ。その顔が、リジェネには痛い気分を運んでくる。なぜ、そんな気分になるんだろう、と、考えていたが結論が出る前に、ハイネが戻って来た。
「おら、連れてくぞ、ママニャン。」
 ニールは、それを聞いて、リジェネを抱き上げる。ハイネが代わろうとするのだが、いいから、ドアを開けろ、と、言う。
「おまえまで来なくてもいい。」
「いや、うちで預かってるリジェネに怪我させちまったんだ。ちゃんと付き添う。」
 こう言い出したら、梃子でも動かないので、ハイネも諦めて後部座席のドアを開けた。手をしっかり固定してろ、と、ニールはリジェネをだっこするようにして座席に座る。振動が辛いだろうから、と、自分の膝に座らせたのだ。



 結局、レントゲンも撮影してもらったが、骨には異常はなかった。尾てい骨もヒビはなく、ただの打撲と診断されて、一同、ほっとした。左手だけは、麻酔して剥がれた爪の元から全部を抜いたので、かなり分厚く包帯が巻かれている。痛み止めだの湿布薬だのは、その病院で処方箋を書いてもらって、それも貰ってきた。リジェネのほうは、大したことはなくて、ドクターも普通に処置してくれたが、そこに付き添っているほうには、ぎょっとした。
「ニール君、きみ、顔色が悪いぞ? 」
「いや、気が動転しちまって・・・もし、大怪我だったらって。」
「それならいいが・・・まだ回復してないんだから、動き回っちゃダメなんだよ? わかってるかい? 」
「はい、すいません。それから、お手間を取らせて申し訳ありませんでした。今後、気をつけます。」
 ぺこぺこと頭を下げて、ドクターにお礼を言うので、ドクターもハイネに視線で指示をする。しばらく、大人しくさせておけ、というところだ。ハイネのほうも、了解、と、視線を下げて了承した。
 そんな騒ぎで帰宅したら、坊主とサルは出勤する寸前だった。おやつは、適当にチンしたものを悟空は食べていたし、坊主のほうも自分で適当に摘んだそうだ。すいません、と、女房が頭を下げると、おう、と、亭主は鷹揚に構えて、缶ビールを振っている。
「それで、リジェネは? 」
「左手の爪三本剥がした。後は、あちこち打撲で済んだ。」
 ご大層な包帯の中身は、それらしい。それなら、よかった、と、悟空もほっとする。まさか、階段を落ちるなんてあるとは思っていなかった。今まで、誰も落ちたことがなかったからだ。まあ、寺にいるのは、身体能力抜群な人外とかコーディネーターだから、そういう失敗はない。足を滑らせたとしても、リカバリーして上手に着地する。
「案外、イノベイドっていうのは、ドンクサイんだな? 」
「慌ててたんだよ。ママの水を用意してなくて・・・。」
「あはははは・・・・そりゃ失敗だったな? リジェネ。・・・・ママ、俺ら、そろそろ行って来る。」
 悟空は、いつもの調子でリジェネと話して玄関へ出る。坊主のほうも、何も言わない。晩酌が一日くらいしょぼいぐらいで、文句を言うつもりはない。
「とりあえず、着替えて湿布を貼ろうか? リジェネ。」
「それより、お腹空いた。」
「じゃあ、簡単に作るよ。」
 寺には、いろんなストックが冷凍されている。それらをチンすれば、すぐに食事が出来る。その準備をニールが台所でしていると、ハイネも戻って来た。リジェネの毎日の消毒グッズを貰ってきた。しばらくは、毎日、消毒して傷の具合を確かめないといけないから、ハイネが担当だ。一週間ぐらいしたら、またドクターが診察に来る予定だ。


「メガネは無事だったよ、リジェネ。」
 その晩、ニールがメガネを回収してきて渡してくれた。そうそう簡単に割れる代物ではない。レンズにも傷一つついていなかった。
「漢方薬っっ。」
「はい? 」
「ママ、三時の漢方薬と九時の漢方薬が抜けてる。飲んでっっ。」
 そう叫んだら苦笑された。リジェネの利き腕は右だが、何かと不自由だろうと、食事の介助やら着替えの手助けなんかをしてもらって、ニールはクスリをスルーしていた。今日から、しばらくは一緒に寝よう、と、リジェネもニールの部屋で寝ることになって、脇部屋に運んでくれたのだ。すでに、時刻は十時を過ぎている。
 そして、三時の分が文机に、そのまま放置されていた。それを指して、リジェネは睨む。
「あ、忘れてた。・・・はいはい、それじゃあ、飲んでくる。」
 ひょいとコップを取上げて、ニールは部屋を出て行った。だが、信用してはいけない。リジェネも、ひょこっと立ち上がって、ゆっくりと回廊を降りる。あちこちギシギシと痛いのだが、動けないことはない。ちまちまと回廊を歩いて戻ったら、ハイネの怒鳴り声だ。
「こぉーらっっ、ママニャン。何、やろうとしてんだ? 」
 やっぱり棄てる気だったな、と、リジェネもせっせと歩いて居間に入る。そこから見えるのは台所のシンクにコップを傾けようとしていたママの姿だ。
「何してんのっっ? ママ。」
 リジェネも叫ぶ。あれ? と、その声にニールもハイネも振り向く。動くのが辛いだろうと運んでいたのに、勝手に降りて来たらしい。
「これ、棄てて新しいのを飲もうと思ってたんだよっっ。リジェネ、そんなに動いてると熱が出るぞ。」
「そんなことで誤魔化されないんだからね。ハイネ、ママに漢方薬を呑ませて。あと、クスリ。」
「ほら、見ろ。怪我人すら確認にきてるぞ? 」
 ニヤニヤとハイネが冷蔵庫に手を延ばす。もう、と、ニールも諦めて古いのは棄ててコップを洗って、新しいおどろおどろしい液体を注いで飲み干した。わかっちゃいるが、とてもマズイ。すぐに口を水で洗うようにして飲む。
「クスリ。」
「それは寝る前だ。」
 寝る前のクスリは、すぐに眠くなる代物なので、まだ飲む訳にはいかない。深夜近くに、坊主たちが帰宅するから、それからの用事が終わってからだ。
「動ける程度なら問題はないな。ママニャン、もう抱っこして運ばなくていいぞ。」
 ひょこひょことぎこちないが、とりあえず動けているリジェネに、ハイネは、そう言う。過保護というか世話好きというか、ニールは痛いのに歩かせるのは可哀想だ、と、抱っこして移動させていた。
「痛くないのか? リジェネ。」
「痛み止めが効いてるんだと思う。」
 爪の処置をしたので、そちらの鎮痛剤は服用した。そのお陰で打撲の痛みも軽いものだ。だから、痛くないと言ったが、ニールは、やっぱり心配顔だ。
「どうして、そんなに心配するの? ママ。処置してあるんだから、もう大丈夫なんだけど。」