IS バニシングトルーパー 005
stage-5 白VS蒼
「いや、クリスが勝つだろうとは思ったけど、セシリアも前回とは全然違うな……」
ビット搬入口のモニターで観戦していた一夏が、思わず感想を口にした。
練習試合の時にはほぼ一方的だったが、まさか今回セシリアがクリスをぎりぎりまで削られるとは思わなかった。
「多分、あれがイギリス代表候補生本来の実力だろう」
一方、一緒に観戦していた箒は納得した顔で、自分の考えを言った。
「俺、これからもあんなレベルの相手と試合をするのか……」
「この根性なしが! 一週間をかけて根性を叩き直したのに、もう忘れたのか?」
今の試合で二人の実力が分かって、一夏が自分の実力に不安を覚えてきた。そんな弱気の一夏を見て、箒は思わずイラついて大声を出した。
「箒……」
いきなり怒鳴られて、一夏は怒った顔している箒を見て、言葉を失った。
「あっ……」
一夏の驚きの顔で自分が熱くなっているのを気付いたようで、箒は顔をそっぽに向けた。
「……お前はこの一週間私の稽古について来れた。自信を持て」
「……ああ、分かったよ。箒」
箒らしい素直じゃない励ましを受けて、一夏が拳を握る。もう先ほどの無力感はもう感じない。
「ありがとうな、箒」
「お、おお……」
強い意志が篭った自信の笑みを浮かばせて、一夏は箒に礼を言ったが、箒は照れてるようで、赤くなった顔を背けたまま返事をした。
「あの、俺はもう入っていいか?」
「わあっ!」
暫く黙り込んだ二人に割り込んだのは、出口から戻ってきたクリスだった。
「クリス、いつから戻ったんだ?」
「ついさっきな。お前の準備が終わるまで、一旦休憩らしい。しかし……」
一夏と箒を交差して見て、クリスはISを解除して、申し訳なさそうな顔で髪を掻いた。
「もう少し待っておくべきだったかな……」
「なな、なに言ってるんだ! クレマンは変な気を遣うな!」
「そうだぞ。ちょっと箒と話してるだけだ」
手を振って否定する箒、そして本気で訳が分からないと思っている一夏だった。
「ところで、お前のISはまだか?」
「織斑君、織斑君!」
モニター室にいる真耶が一夏の名を呼ぶ声を聞こえ、搬入口に居る三人がモニター室を見上げた。
「織斑君のISは届きました。今出します!」
キーボードを操作している真耶の声と共に、搬入口が重厚な音を立てて開いた。
「これが、俺の専用機……」
そこに現れたのは、一機の真っ白なISだった。各部が曲面の意匠が入れられ、そのシャープな造形と真っ白のカラーとマッチングして、全体的に闘士の気概を漂っていた。
そのISに引き寄せられたように、一夏がそのISに近づいていく。
「……名は『白式』。お前専用のISだ」
何時の間にか、千冬がモニター室から降りてきた。
「白式……」
自分のISを手で触れ、一夏はその名を呟いた。
「あれ、これってメーカーはどこですか?開発者は?スペックカタログはありますか?」
魅せられたようにISを触れている一夏と違い、反対側から白式を間近で観察しながら写真取っているクリスは千冬に質問責めしていた。
「……お前はとりあえずデジカメで写真を撮るのをやめろ」
「いや、職業病ですよ。すみません」
謝りながら、クリスはデジカメを事前に持ってきた鞄にしまった。
「織斑は何をぼーっとしている、さっさと装着しろ。アリーナの使用時間がもう少ない、初期化と最適化はクレマンと戦いながらやれ。出来なければ負けるだけだ。分かったな」
「おっ、おお」
千冬に催促され、一夏は白式の装着位置に座り、体を委ねた。
そして白式も主を迎えたように、各パーツが一夏の手足を覆っていく。
打鉄の装着経験もあって、今度は自分がバイパーセンサーの起動状態を確認しながら、順調に白式を起動していく。
「何か、打鉄の時と一体感が違うな」
「それが専用機というものだ。お前だけのものだからな」
一夏が感じた些細な違和感に、千冬が答えた。
「別に其れくらいの時間なら、待っても構いませんが……」
クリスが気楽そうに鞄からガムを取り出して、千冬と箒に一枚ずつ渡す。
「ダメだ。時間的に余裕はない」
「……よろしいのですか? 手加減はしませんよ?」
「それであの馬鹿がやられたら、それまでの話だ」
ガムの包み紙を剥きながらも、千冬の視線は既に白式の起動を完了した一夏を捉えていた。
「そうですか……では」
残りのガムを鞄にしまって、クリスがもう一度エクスバインを展開した。
「じゃ、先に出るぞ。ついて来いよ、一夏」
「おっ!」
奥にいる一夏に声をかけて、クリスはエクスバインと共に、アリーナの上空へ舞い上がった。
エクスバインの後姿を見て、一夏は箒に向かって声を掛けた。
「箒」
「な、なんだ?」
唐突に声を掛けられた箒は、はっとしてISを装着した一夏を見上げる。
箒を正面から見据えた一夏の目は、昔を髣髴させるような強い目だった。
「行って来る」
その自信が満ちた目に、思わずも安心感が抱いてしまう。ああ、こいつはやっぱり根の部分は変わってないな、と箒が思った。
「あ……。ああ、勝って来い、一夏」
黙々と頷いて、一夏がゆっくりと出口へ移動した。見上げると、蒼いISを纏うクリスがこっちを見下ろしていた。
これから強敵に立ち向かうが、先ほどの緊張は既になくなり、今あるのは、胸に昂ぶる戦意だけ。
「……白式、出る!」
両肩のスラスターを展開して、空へ一気に飛び上がった。
「……先言った通り、初期設定だろうと、手加減はしないぞ」
「望むところだ。この一週間の成果、見せてやるぜ?」
不敵な笑みを浮かばせて、バイザー越しに上がってきた一夏を見据えるクリスに、一夏は自信の笑みで返した。
「しかし、真っ白の機体ってちょっと珍しい感じがするな」
「そうか?俺は別に気にしないが」
「よし、試合終わったら金色に塗ってやるか」
「……遠慮しておく」
「それでは、第二試合を開始します!!」
軽口叩いてるうちに、試合開始の合図が響いた。
「……さて、はじめるか」
「ああ」
クリスがフォトンライフルSを手に取ったと同時に、一夏が一本のブレードを呼び出した。
打鉄のよりさらに長くてその巨大なブレードは、自分の威力を外見だけで示していた。
しかし其れを見たクリスが一瞬で呆れた顔になった。
「……なんていきなり接近戦武装なんだよ」
「これしかねえよ」
「……刀一本の専用機かよ」
「言っておくが、俺は結構気に入ったぜ」
「やれやれ、残りの容量は何で埋れているか興味深いな」
そう言いながら、クリスはライフルの銃口を一夏に向けて、
「その白式の性能、見せてもらおうか!」
言葉が終わると同時に、トリガーを引いた。
「くっ! 当った!?」
クリスがトリガーを引いたと同時に、一夏が回避運動を始めたが、数発のうち、幾つか食らった。
「まずは、曲線移動しつつ接近!」
クリスとセシリアとの練習試合の時を思い出して、一夏は自分が取るべき行動を決めて、距離を詰めようと移動し始めた。
作品名:IS バニシングトルーパー 005 作家名:こもも