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IS  バニシングトルーパー 005

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 一夏の白式の武装は言った通り、接近戦用ブレード一本しかない。それと対照的に、クリスのエクスバインは各距離を対応できる武器を揃えている。間合いに入り込まねば、クリスの射撃攻撃で一方的に嬲り倒される結果になる。
 しかしそれは、クリスにとっても明白なことだった。
 「回避軌道が安易すぎるぞ!」
 一夏の移動先に、銃弾をばら撒く。飛んでくる銃弾を避ける暇もなく、一夏が下意識に左腕を挙げて、エネルギーシールドで受け止めるしかなかった。 
 「チッ、接近するだけで苦労しそうだ」
 「接近したところで、勝てはしないぞ!」
 「うっせえ! そこで待ってろ!」
 「待つか馬鹿!」
 距離を詰めようする一夏に対して、クリスはただ後退しながらライフルで迎撃していくが、戦いの中の男子二人の口調は、いつもより熱くなっていた。

 「……クレマンのやつめ、手加減しないとか言った割りには、遊んでいるな」
 まるで男子二人の追いかけっこが気に入らんようで、千冬はイラついた表情してガムを噛んでいた。
 「そう……ですね」
 横に居る箒もわかるほど、クリスの攻撃が温く見えた。
 グラビトンライフルを使えば、回避運動が容易く読まれる一夏のエネルギーシールドを大量に削れるのだろう。発射までの時間が長いを理由に使わないだとしても、もっと主動的に攻勢にでれば、今よりもっと削れたはずだが、今のクリスはただ消極的にライフルで迎撃しているだけ。
当然、千冬がその理由を思い付くのは、一瞬のことだった。
 「あいつ、白式のフィティングが終わるのを待っているのか……」
 しかし、それは純粋にフェア精神なのか、それとも白式への好奇心なのか、千冬は断定できなかった。

 「もらった!」
 クリスの連射の隙について、一夏は一気に接近してブレードで斬り付ける。
 「なんの!」
 展開したファングスラッシャーを手に取って一夏の攻撃を受け止める。
 「しかし、セシリアといい、お前といい。一週間前とは全然違うな」
 「そうか?」
 「ああ、剣を振る気迫が全然違う」
「そりゃ、どうも!」
 会話しながらも、一夏は両手に篭った力を強める。さすがにファングスラッシャーを片手で持つクリスは持ち堪えず、段々押し込まれていく。
 「だが、調子に乗るなっ、よ!」
 クリスは正面から一夏の胴体に蹴りを放った。
 しかし、一夏も同じことを二度喰らうほど、間抜けじゃなかった。
 「同じ手二度と喰うかよ!」
 「何っ!」
 一夏は後方へ一歩引いてキックを避け、そしてブレードを右手側に構えた。
 「今度こそ、もらった!」
 「しまった!」
 力を振り絞って、一夏はクリスに切り付けた。
 「くっ!!」
 一瞬の隙を晒して、避ける暇もなかっあクリスは左腕で防御するしかなく、重い一撃を食らってしまった。


 「チッ、意外と効いたな」
 一夏の重い一撃にぶっ飛ばされ、予想以上に削られた自分のエネルギーシールドゲージを目尻に、クリスは後退しつづライフルとファングスラッシャーを戻した。
 「逃がすか!」
 だがせっかく接近したチャンス、一夏は見逃さない。初撃の勢いに乗って追撃してきた。
 「もう一丁!」
 一夏が振るブレードが再び襲ってくる。だがこの時クリスの左手は既に棒状のものが握っていた。
 「調子に乗るなよ!」
 瞬間に、クリスの手に握った棒の端部から光の刀身が現れ、一夏の斬撃を受け止める。
 「なにっ!」
 ヒュッケバインシリーズの共通武器、接近戦用のビーム型ソード、ロシュセイバーだった。エネルギーで刀身を形成して、攻撃のときはその高熱で敵にダメージを与えるため、実体剣のように振って質量打撃を加えなくても威力に影響しない。
 「まずは離れろ!」
 「うあっ!」
 再び一夏の胴体に蹴りを入れる。一瞬反応が遅れた一夏は後ろへ蹴り飛ばされ、その隙にクリスはチャクラムシューターを展開した。
 「チャクラム、行け!」
 有線式チャクラムが飛び出し、一夏に襲う。
 「ワイヤーか! なら!」
 チャクラムに簡単に捕らわれ、ワイヤーに巻き付かれていく一夏は何とかワイヤーを切り断とうと試みるが、クリスの狙いは最初から違った。
 「切断しても無駄だ!」
 クリスの言葉が終わると同時に、白式に巻き付かれているワイヤーの末端にあるチャクラムが光り始めた。それに気付いた一夏は、一瞬でその意味を理解した。
 「爆発するなんて聞いてねえぞ!!」
 パンッ!!!!!!
 一夏の言葉は最後まで続くことなく、チャクラムの爆発音に遮られた。

 「一夏!!」
 爆発に飲み込まれた一夏を見て、箒は心配そうに彼の名前を呼んだ。隣にいる千冬が動揺してないように見えても、腕を組んでいるその手は自分のスーツの袖を皺が出来るじゃないかと思うほど握り締めていた。

 爆発の煙から少し距離を置いて、クリスはロシュセイバーを持ったまま、警戒態勢を取る。
 そして、煙が晴れた瞬間、クリスはフッと笑った。
 「ようやく終わったか」
 「……待たせたな」
 煙の中に立っていたのは、また健在の一夏と、フィティングを終え、「真の姿」が露になったIS・白式だった。
 初期化と最適化を終え、やっと第一形態にシフトした白式は、そのスラスター翼が初期状態より大きくなり、各部のパーツもさらに細かく展開されたように進化を遂げた。

 「一夏……」
 一夏の無事を確認した箒は、安心したように胸を振り下ろした。
 「機体に救われたな、あの馬鹿……」
 小さな声で呟いた千冬も、袖を握り締める手の力を緩めて、放心したように口元を上げた。

 「これで、この白式は本当に俺だけの専用機になったわけね」
 実感を確かめるように、一夏は握り締めている自分の手を見る
 「ああ、お前だけのものになったんだ」
 もう一本のロシュセイバーを呼び出して、クリスは二本の剣を中段に構えた。
 「さあ、進化した白式の能力を見せろ!」
 「ああ、見せてやるさ!」
 クリスの呼声に応じて、一夏は再びブレードを構える。すると、ブレードの一部がスライドし変形して、巨大なエネルギー状の刃が現れた。
 「展開装甲……!?」
 まさかこの技術が白式に採用されているとは思わず、クリスは一瞬驚いたが、すぐ注意力を目の前の相手に戻した。
 「来い! 一夏!」
 「ああ、うちの姉が見てるんだ、しっかり決めてさせてもらうぜ!」
 巨大なビームソードを握りしめて、一夏がクリスを真正面に見据えた。
 「このシスコンが」
 ロシュセイバーを強く握りしめ、クリスは腕に力を篭める。
 「お前が……」
 一歩を踏み出して、
 「言える義理かよ!」
 スラスター翼の推力を一気に開放して、真っ白のISを纏う一夏が一直線に突進した。
 視線の先に立つ蒼いIS、エクスバインとその主、クリスに向って。
 「届け! “雪片弐型”!!」
 一瞬でもはやく、相手より先に届けば勝てる!
 「甘い! Gウォール!!」
 雪片弐型のビーム刃が届く前に、クリスがエクスバインの重力防壁を起動した。一瞬でも一夏の勢いを止めれば、勝機は自分に大きく傾く。
 しかし、クリスは雪片弐型の威力を甘く見ていた。
 
 「馬鹿な!!」