IS バニシングトルーパー 008
stage-8 就任パーティー
「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」
ドイツでギリアムがエルザムのケーキを楽しんでる頃に、IS学園の生徒達は朝のホームルームを開いていた。
教壇に立っている真耶が宣言した通り、クラス代表は織斑一夏に決まった。
「では、織斑くん。皆さんに何か一言、言ってください」
真耶に言われて、一夏は席から立ち上がって、後ろにいるクラスメイト達へ向いた。
「えっと、何が自分にとっても意外な結果になりましたが……頑張ります」
自分に女子達の目線が集まって緊張したのか、一夏は浮かない顔で簡潔な挨拶した。
「という訳で、クラス代表はこれで決定したな。クラス対抗戦に向って、これから皆は織斑に協力するように」
教室の隅に居た千冬が教壇に近づいて、生徒達にそう言った。
「「「「はい!!!」」」」
一夏の浮かない顔に反して、女子達の返事は明らかにテンションが高い。
「あれ、何が皆のテンション高くないか?」
一人だけ理由が分からないクリスは、自分の疑問を口にした。
「あれ、知らないの? クレマン君」
前の席にいる女子は振り返って、クリスに話をかけた。
「クラス対抗戦を優勝したクラスには、学食のデザート半年分フリーパスが与えられるんだよ」
隣の女子も会話に参加してきた。
「何っ!? 聞いてないぞ俺! 織斑先生!!」
デザートのフリーパスに反応して、クリスは席から立った。
「何だ?」
通達事項の連絡を終えて、もう教室から出ようとする千冬はクリスに呼び声に応じて、立ち止った。
「代表決定戦のやり直しを要求します!!」
「却下だ」
「いや、しかしですね……」
「フリーパスが欲しければ、現任クラス代表を勝たせろ。いいな」
そう言って、千冬は身を振り返ってクリスに正面を向けて、彼の目を見据えた。
「……期待しているぞ。クリス」
「……はいはい。お望み通り、クラス代表様を生まれ変わらせて見せますよ」
「ひいっ!!」
指を鳴らしながら、やる気を満ちた目を向けてくるクリスに、身の危険を感じた一夏は思わず身を怯ませた。
午前の授業には実習があり、その時に一年一組の生徒達はグラウンドに集まった。
「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、クレマン。手本を見せろ」
「「はい」」
千冬の指示に、一秒も掛からないうちに、クリスとセシリアはそれぞれ自分ISの展開を終了した。
「さすがだな。織斑は何を呆けている。さっさとISを展開しないか」
「は、はい」
千冬に叱咤され、未だに展開を終えていない一夏はやけになって、大声で叫んだ。
「えぇ~! 来い! 白式!!」
叫んだ後光の粒子に包まれた一夏は、やっとISの展開を完成した。三人が展開し終えたのを見て、千冬は次の指示を出した。
「よし、では飛べ」
その言葉と同時に、二つの蒼い閃光が空に舞い上がった。一歩遅れて、一夏も二人の後を追って、飛び立った。
「何を遊んでいる。スペック上では、三機の中白式が一番上だぞ」
一夏の粗末な飛び方に、地上にいる千冬から叱りの通信が飛んできた。
「いや、んなこと言われてもな……イメージがいまいちはっきりしないんだよ。何かコツでもあるのか?」
「やれやれ。クレマン」
「はいはい、教師の仕事が押付けられた感じがしなくもないんですが、覚えましたよ。織斑先生」
千冬から通信を切って、クリスは隣に飛んでいるセシリアに話をかけた。
「ところでセシリア」
「あっ、はい! 何でしょ、クリスさん」
クリスに話をかけられ、セシリアは嬉しそうに微笑んで応じた。
「今晩は一夏の就任パーティーがあるけど、放課後からそれまでに何か予定があるのか?」
「いいえ、別に何もありませんわよ」
「そうか、なら放課後一人で俺の部屋に来てくれ。一時間もあれば十分だ」
「えっ! お、お部屋にですか!? い、一時間もあればって、いきなりそんなこと言われましても、心の準備が……」
一瞬で顔が真っ赤になって、セシリアは両手を頬に当ててうっとりした表情になった。
「では三人、次に急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地面から十センチだ」
通信回路越しで、千冬が次の指示を出した。
「んじゃ、頼んだよ」
セシリアとの会話を終え、クリスは地面への急降下を始めた。
「あっ、ちょっとお待ちを……!」
セシリアもクリスに続いて、降下を始めた。
「十センチ……っと!」
地面へ急降下して、地面に衝突しそうな位置で体勢を変えて、クリスは順調にグラウンドに着陸した。エクスバインのウイングを畳んで、待機状態に入ったクリスに続いて、セシリアも無事着陸した。
「きっちり十センチか。さすがだな、二人とも」
見事に指示通りに動いた二人を褒めて、千冬はまだ上空にいる一夏を見上げた。
「いつまでそこにいるつもりだ、織斑。早く降りて来い!」
「はっ、はい! よし、俺も!」
千冬に言われて、一夏も降下体勢に入った。
しかし、急降下が一夏にとってはまだ少々難しいテクニックだった。
「わあぁぁぁ!!」
ドオオオォォォン!!!
高速降下の勢いを止められず、一夏は地面に全力ダイブして、地面に大きな凹みを作った。
「一夏!」
一夏の墜落を見て、真っ先に箒が叫びながら行列から飛び出した。
IS装着状態で地面衝突したくらい、どうにかなるわけが無い。それを分かっていながら、やはり箒は一夏のことを心配してしまう。
「やっべぇ……」
穴の中に、無事だった一夏はバツの悪そうな顔で頭を掻いていた。それを見て、箒は胸を撫で下ろしてた、すぐ怒ったような顔になった。
「この馬鹿! それくらいもできんのか!」
「すみません……」
「早く降りろとは言ったが、グラウンドに穴を開けろとは言ってないぞ」
箒に続いて、千冬が追い討ちをかけた。
「すみません……」
「まったく……次は武器の展開をやって貰う。早くこっちに来て並べ」
「は、はいっ」
穴から出てきて、一夏はクリス達の横に並ぶ。
「ではまず織斑、武装を展開しろ」
「はい」
返事をした一夏は、左手で右腕を握って光の粒子を放出して、やがて雪片弐型がゆっくりと形成された。
「遅い。0.5秒で出来るようにしてやれ、クレマン」
「はいはい。分かりましたよ」
「では次、オルコット、武装を展開しろ」
「あっ、はい」
千冬の指示で、セシリアは手を上げて横へ突き出すと、一瞬でレーザーライフルがその手に現れた。
「さすが代表候補生だな。しかしそのポーズはやめろ。横に向って展開して誰を撃つ気だ。正面展開するようにしろ」
「ですが、これは私のイメージをまとめる為には必要な……」
「クレマン、任せたぞ」
「……約束分以外の仕事を押し付ける気なら、給料を分けるか飯を奢るかにしてください」
「最後はお前だ、クレマン。プロの手本を見せろ」
「話聞いてますか先生?」
作品名:IS バニシングトルーパー 008 作家名:こもも