IS バニシングトルーパー 008
やれやれと肩を竦めて、クリスは腕を動かずに手から光粒子を放出して、一瞬でクリスの両手にはそれぞれフォトンライフルSとグラビトンライフルが握った。
「さすがだな。早い上にノーモーション。理想的な展開方式だな」
「……ありがとうございます」
千冬に褒められ、警戒(?)しつつクリスは礼を言った。
「安心して任せられる」
「……」
「さすがですわね、クリスさん」
隣にいるセシリアが憧れの眼差しを向けてきた。
「セシリア、近接用の武装を展開しろ」
「え?あ、はい」
千冬に言われて、セシリアは接近戦武装を展開しようとするが、直ぐには展開できず、ただ光の粒子が手の中で漂っていた。
「クッ」
「まだか?」
「も、もう直ぐです・・・・ああ、もう!『インターセプター』!」
やけくそ気味に叫ぶと、セシリアの手にやっとショートブレードが現れた。
「・・・・何秒かかっている。お前は実戦でも相手に待ってもらうのか?」
「じ、実戦の時はもっと早く展開できますわ!」
「そんなのは当てにならん。すぐに展開できるようになれ。いいな」
「はい……」
しょんぼりした顔で、セシリアは千冬の言葉に返事をした。そんなセシリアを見て、千冬は一言を足した。
「クレマンにでも教えて貰え」
「はっ、はい!!」
その一言で、セシリアはまた笑顔に戻った。
「俺、そろそろクラス変えようかな。二組あたりに行って、優勝すればフリーパスも手に入るし」
「そんな! 私と一緒にいるのは嫌ですか? クリスさん!」
クリスの冗談に、セシリアは涙目して本気に焦った。
「では、今日の授業はここまでだ。織斑はグラウンドを片付けておけ」
「えぇぇぇ~!!」
自分が掘った穴を埋めろと命じられ、一夏は絶望したような顔になった。同時にクリスは千冬の側まで寄って、小さい声で話しをかけた。
「あの~織斑先生。二組の担任先生って誰ですか?今のうちに挨拶をしておきたいのですが……」
「約束を破る気か?」
周りに話を聞かれないように、千冬も小声で返事をした。
「いや、約束分の働きますが、教師の仕事まで押し付けられるのはちょっと……」
「オルコットの方は大した問題ではないから、ついてに教えてやれ。彼女とかなり親しいだろう?」
「いや、だからそれは先生の仕事じゃ……」
「ほう……朝お前の部屋の前まで迎いに来て、晩御飯の時も誘いにくる。そんな健気なオルコットにお前はそういう態度を取るのか?」
千冬の部屋は自分の部屋の向こうにあるせいで、そういうことは隠しようがない。
「ぐっ……」
流石にそこまで言われると、クリスも言葉が出ない。
「教えてやれ。いいな」
「はい……」
千冬に教師の仕事を押し付けられたようで癪な感じを覚えつつ、クリスは静かに頷いた。
残りの授業時間もすぐに流れていき、あっと言う間に放課後になった。一旦自分の部屋に戻った後、セシリアは言われた通りクリスの部屋に訪ねた。
「あの……クリスさん、その両手に持っているのは一体……」
「バニーガールの服だよ。ピンクとブラック、どっちがいい?」
両手にそれぞれバニーガールの服を一着持っているクリスを見て、セシリアの笑顔が引き攣った。
「もしかして……それを着て欲しいのですか?」
「まあ……罰ゲームだからな。約束は守って貰わないと」
「き、着るだけですの?」
「他に何をするんだ?」
上目遣いで聞いてくるセシリアに、クリスは首を傾けた。
「い、いいえ! 何もありませんわよ!」
顔が真っ赤になったセシリア、慌てて両手を振って否定する。
「じゃ、先ずはブラックの方な。これを持って脱衣所で着替えて来てくれ」
「先ず!? 先ずってどういう意味ですの!?」
「早くしてくれよ? その間に俺はメモリカードにある写真をPCに移るから」
「しゃ、写真取る気ですの!? ちょ、ちょっと!」
黒いバニー服を渡して、クリスはセシリアの肩を手を添えて彼女を脱衣所に押しこんだ。
「……あれ、何がを忘れてるような……」
脱衣所のドアを閉めて、パソコンの前に戻ったクリスは、何が大事な事を忘れているような感じがした。
「まあいい。とりあえずメモリカードを……」
「ま、まったく仕方ありませんわね、クリスさんったら」
脱衣所に押し込まれたセシリアは、自分に渡されたバニー服を広げて観察しながら、満更でもない顔でニヤけていた。
「そんなに私に着て欲しいのかしら……」
一旦バニー服を棚において、セシリアは自分の制服のボタンに手をかけて、ゆっくりとそのスカート部分を長く改造した制服、そして中に着ていたシャツを脱いだ。
洗面所にある鏡の前に立って、セシリアを下着姿の自分を見つめる。
同年代に比べて豊満な胸に細い腰、加えて肉付きのいい尻で、プロのモデルでも顔負けのプロポーションを持つ彼女は今、かなりセクシーなラベンダー色下着を着ていた。
「クリスさん、私のことをどう思ってるのかしら」
周りから美人と評されるセシリアの周囲に、言い寄ってくる男達は少なくなかったが、彼女は誰の相手もしなかった。そんな彼女がやっとこの学園で出会えて、知りたいと思った唯一相手は、自分と微妙な距離感を保っている。
一緒に食事したり、散歩したりしても、クリスは自分のことをあまり話さない。
「……まあ良いですわ。どの道、諦めませんから」
鏡に映る自分に向かってファイトポーズをして、下着を脱いだセシリアはバニーガールの服装とアクセサリーに手を伸ばした。
「最後はこれを……」
最後にウサ耳を頭の上につけると、セシリアは完全にバニーガールに変身した。
「……にしても、何でサイズぴったりなのかしら」
鏡の前に立って、バニー服と網タイツを着た自分の体のライン手でを撫でて、セシリアは不思議に思った。
「とりあえず、脱いだ服は……」
自分の制服やシャツなどを畳んで、セシリアは服を置く所を探していると、シャワー室のドアの側にある脱衣カゴが視界に入った。
……そして、その中に置いてある物体も。
「こ、これは!」
「おっ、やっと着替え終わったのか」
指で机の表面を叩いながらセシリアの着替えを待っていると、脱衣所のドアを開ける音がした。
視線を向けると、そこから現われたのは、バニーガール姿のセシリアだった。
「やはり似合うな。可愛いよ……セシリア?」
言葉の途中に、クリスはセシリアの様子に不自然を感じた。
顔をうつ伏せて何も言わずに、セシリアはクリスの前まで歩いた。
「……クリスさん」
「なっ、何?」
セシリアがクリスの名を呼ぶ声に、何か怒りのような感情が篭っていた。クリスが返事すると、セシリアは顔を上げてクリスを見上げた。
目に少し涙が溜めているセシリアは、怒ってるような、切ないような、複雑な表情をしていた。
「これは一体誰のものですか!!」
手をあげて、その握っているものをクリスに見せる。
「そ、それは!」
クリスが素頓狂な声を上げた。
そう、セシリアが握っていたのは、自分の担任先生・織斑千冬の黒いブラジャーだった。
作品名:IS バニシングトルーパー 008 作家名:こもも