IS バニシング・トルーパー 009-010
黙って寮の玄関の前まで歩くと、鈴は振り返ってクリスに話しかけた。
「楠葉だよ、水羽楠葉。隆聖と知り合いなら、楠葉も知ってるでしょ?」
「うん……バイトのシフトが入っていたから昨日は会えなかったけど、聞いた話では普通に生活しているらしい。何でもバイト先で手作りのドリンクをメニューに乗せてるとか」
「げっ、手作りのドリンクってまさか……」
「うん? どうした?」
「な、何でもないわよ。けどそうね……近いうち会いに行こうかな~」
「旧友に相談に乗ってもらうのも手だな、いいと思うよ」
「……後さ」
「何だ?」
「ジュース、ありがとうね」
「気にするな。もし君がクラス対抗戦に優勝できた時、学食のフリーパスを貸してくれればいい」
「……どんだけ図々しいのよアンタ」
「滴水之恩、当湧泉相報。中国の言葉だろう?」
「本っ当、ムカつく奴」
そこまで言うと、鈴は早足で寮の中に駆け込んで、
「じゃ、お休み」
振り返ってクリスに向かって一言残すと、ツインテールを揺らしながら寮の廊下に走っていった。
「……さて、帰ってフィリオさんにメールするか」
段々小さくなっていく鈴の後姿を見て、クリスも欠伸しながら寮の中へ入った。
作品名:IS バニシング・トルーパー 009-010 作家名:こもも