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IS  バニシングトルーパー 013-014

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stage-13 鏡に映る影



 IS学園で起こった一連のアクシデントの後始末が一段落ついた頃は、既に学園が夕日が沈みかけている時間帯だった。一夏と鈴がまだ保健室で横になっているが、クリスは既にベッドから起きて、IS学園の地下整備室まで来ていた。
 「いや、ジェネレータ出力が下がった時は本気で焦りました。まさかあのタイミングでAMボクサーが届くとは思いませんでしたよ、カーク先生」
 パンを齧りながら、クリスは目の前にいるロープを着た学者風の男に話しかけた。
 「体はもう良いのか? 熱も出してたのだろう?」
 無表情で厳しい目付きでクリスを睨みながらも、カークと呼ばれた男はクリスの体を心配していた。
 カーク・ハミル。まだ三十代でありながらヒュッケバインシリーズの全機体設計を担当した男であり、クリスのIS工学の先生だった男でもある。
 「大丈夫ですよ。多分T-LINKシステムによる一時的な影響だと思いますし、熱ももう下がりました」
 「やれやれ。自分の体くらいは大切にしろ」
 呆れたように肩を竦めて、カークは振り返ってクリスに背を向けて、壁際にある二つのハンガーに固定されている機体を見上げる。
 「……まっ、こっちの方が酷いがな」
 「すみません……」
 二つのハンガーにそれぞれ固定されているのは、酷く破損しているエクスバインと、通常状態に戻されたAMボクサーだった。
 「あの状況だ、別にお前を責めるつもりはない。だがダメージがレベルDまで来ると、エクスバイン本体は当分の間に使えないな」
 「AMボクサーの方は大丈夫ですか?」
 「調整が不完全な状態でスラッシュモードを使ったが、ダメージはほぼないから、軽くメンテすれば直ぐに使える……エクスバイン本体が直ればな」
 「すみません……所で、ボクサーを届いてくれたあの人はうちの関係者ですか? あの機体もゲシュペンストに見えましたが」
 「……ゲシュペンスト・タイプRVだ。これ以上の情報は私から話せない」
 「……わかりました」
 それも当然のこと。ここはIS学園、所属不明な機体と関係しているのがIS学園の人間に聞かれたら色々とまずい。
 「エクスバインの予備パーツを持ってきたのが正解だったな。直ぐに修理に取り掛かるから、お前はもう保健室に戻れ」
 「えっと、その……修理の間の代用機は……ありませんか?」
 「ないよ」
 「あれ、でもR-1はもう組み立てたのでは……」
 「あれのT-LINKシステムがお前に馴染んだらリセット作業が面倒だ。大体、修理は数日だけで済むだから、お前は普通に授業を受ければいいだろう」
 「そうですか……」
 落胆したように肩を落としたクリスを見て、カークは何かを思い出したように話をかけた。
 「ところで、最近マリーから連絡を受けてないか?」
 「マリオン先生? いや、受けてませんよ。何かあったのですか?」
 不思議な顔して、クリスはパンを咥えたまま首を傾けた。
 マリー、それはカーク博士がマリオン・ラドム博士に対する愛称である。二人は元夫婦だったが、マリオン博士の退社と同時に離婚した。
 「彼女がゲシュペンストのデータとパーツを買い取ったって話は知っているな?」
 「はい。新型のベース機にゲシュペンストを使うって話でしょう?」
 「ああ。量産仕様一機、専用機仕様二機だと聞いている」
 「へえ~量産仕様のゲシュペンストですか……」
 ゲシュペンストの特性はデュノア社のラファール・リヴァイヴと共に、その癖のなさと構造の弄り易さにある。当時はハースタル機関の技術者もその事を気付いたため、既に設計済みのゲシュペンストMK-IIの生産を断念して、ヒュッケバインシリーズの開発に着手した。今更ゲシュペンストの方を量産試作のベース機に選んだということは、自分の開発プランに相当の自信があるということだろう。
 「そっちはまだマシだ。専用機仕様の二機の操縦性がピーキー過ぎて、普通の操縦者では手が付けられないらしい」
 「そんなに凄いですか?」
 「ああ。片方は相性抜群の操縦者が見付かったからまだいいが、もう片方は未だに使いこなせる人間が見付かっていない。お前はマリーに気に入られてたから、テストを頼んで来るんじゃないかと思ったんだが、どうやら私の思い過ごしだったようだ」
 「そんな無茶な機体、よく開発許可が降りましたね」
 「……私がいうのは何だが、彼女の暴走を止められる人間なんて、そういないからな」
 そう言って、クリスに背を向けたカークの背中から、何だが哀傷が漂っているように見えた。カークのそんな姿を見て、クリスは彼にかける適切な言葉を見付からなかった。

 「……こんな所で何をやっている」
 「ぷう——!」
 言葉を選んでいる最中に、後から聞き覚えのある声が響いて、クリスは思わず口中のジュースを噴いた。
 「あっ、織斑先生……」
 振り返ると、そこには恐ろしい面相をしている千冬が立っていた。
 「怪我した上に熱まで出したのに、なぜこんな所でうろついている! 保健室に戻れ!」
 「いや、でも目が覚めたら腹減ってたし……」
 「口答えするな! まったくどれだけ人に心配させれば気が済む! 縛るぞ!!」
 「うわっ、すみません! それだけは勘弁してください!!」
 キツイ態度と裏腹に、千冬もクリスの体調を心配していた。それを分ったクリスも、無断で保健室から出た自分の行動に反省した。
 「はぁ……まったく、オルコットが心配して探し回ってたぞ」
 「面目次第もございません……」
 密かに仕入れた限定ケーキを後でセシリアに分けてやろうと決めたクリスだった。

 「クリスがお世話になっている先生か。私はハースタル機関技術部所属のカーク・ハミルだ。よろしく頼む」
 手の中の作業を止めて、カークは千冬に話かけた。
 「これは失礼。クレマンの担任先生を務めている、織斑千冬です」
 クリスの頭を掴んでいる手を離して、千冬はカークに向って自己紹介を済ました。
 「正体不明の者に奪われたエクスバインの装備を取り返してくれて、とても感謝している」
 「いえ、まったくの偶然ですので、特に何かをしたという訳では」
 正体不明の者とは、ギリアムのゲシュペンスト・タイプRVのことです。ギリアムの出現は明らかにボクサーを届けるためだが、ハースタル機関としては明確な関係を認めるわけにはいかない。ばればれの嘘でも、今日のアクシデントは落ち度がIS学園側にもあるため、学園としてもそれ以上の追求はできない。
 「まあ、とにかく大きな損害が無いのは幸いだった。私はエクスバインの修理作業があるので、クリスを頼む」
 「はい、彼のことは任せてください」
 「ちょっ、ちょっと織斑先生、引っ張らないでください!」
 「黙れ。保健室に戻るぞ」
 カークに一礼した後、千冬は強引にクリスを引き連れて整備室を後にした。二人が出て行ったのを見て、カークは再びエクスバインに向き直した。
 「……まずは、ウラヌスシステムの稼動データを抽出しなければな」
 エクスバインを見上げるその瞳に、仄暗い悦びの色が灯っていた。

 「……先生」
 「何だ?」
 保健室へ静かに歩いてる途中に、二人の沈黙を打破したのはクリスの言葉だった。