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IS  バニシングトルーパー 015-016

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stage-15 食通、来日 前篇



「ふあ~あ~あ~」
 大きなおくびをして、クリスはベッドで寝返りを打った。
 今は日曜の朝九時。いつも通り七時に起きてシャワーを浴びた後、再びベッドに寝転がって漫画を捲って二時間ほどゴロゴロしていた。

 「背中が痛い……」
 背中の怪我から痛みを感じ、寝返りを打って視線をベランダの外へ向ける。
 外の天気は至って快晴。五月最後の週末である今日は絶好の外出日和であるが、クリスは特に予定を経っていない。

 「AMボクサーのセッティングも終わったし、セシリアも今日は部活の練習で忙しいって言うし……」

 クラス対抗戦の襲撃事件から既に数日が経っている。今回の一件について、学園側は外部のISが実験中に暴走して学園に入り込んだと公表している。幸いメキボスとグレイターキンを目撃した人間が少ない上に、メキボスとの通信もエクスバインしか記録されていない。メキボスの前に侵入してきた無人機はクリスの手によって派手に壊れたが、一応残骸も学園に回収された。
 情報操作と事後処理など、簡単にできる。
 エクスバインの修理とAMボクサーの調整を終えた後、カーク博士はクリスがヘリに詰め込んだ大量なお土産を持って直ぐに本社に帰った。エクスバインの修理に予想外の時間を使ったせいで仕事が大量に溜まったらしい。

 『♪~』
 突然、枕元に置いてあった携帯から、聞き慣れたメール着信音が鳴り始めた。

 「隆聖……?」
 携帯を操作して確認すると、液晶ディスプレイには先月知り合った友人の名前が表示されていた。
 メールの内容は、午前中にバイトが終わるから午後は一夏と一緒に遊びに来いという内容だった。

 「一夏の予定を聞いてみる……と」

 簡潔な返事メールを送信して、クリスはベッドから起き上がった。せっかくの天気だし、最近は一夏の訓練とかであまり遊べなかったし、クリスとしては断る理由はない。

 「一夏は……この時間なら道場か。直接行くしかないな」
 一夏の怪我も完治状態ではないが、動かないと体は直ぐ鈍るからという理由で、ここ数日は竹刀の素振りを欠かさずやっている。今は道場着に着替えているのなら、携帯は手元にいないだろうと思って、クリスは外出服に着替えて部屋から出た。

 「アンタ、これから外出すんの?」
 寮の玄関から出た途端、丁度寮に入ろうとする鈴と鉢合わせて話かけられた。
 黒いジャケットに白いシャツ、そしてスリムジーンズ。今クリスの服装は明らかに外出を意識している。

 「まあな。凰は?」
 「あたしは散歩の帰りよ。というかアンタ」
 「うん?」
 何か気に入らなかったのか、鈴は眉を顰めた。

 「その呼び方は止めなさいよ。鈴でいいって」
 「……分かった、今後はそう呼ばせてもらうよ」
 こうして愛称で呼ぶことを許可したのは、鈴は先日の一件でクリスのことを認めたのだろう。

 「そうして。じゃ、あたし部屋に戻るから」
 「ああ、ちょっと待て。今日はこれから予定あるか?」
 隆聖の誘いを思い出して、クリスは横を通して寮に入ろうとする鈴を呼び止めた。
 「うん? 別にないけど……」
 「じゃ、一緒に来ないか?」
 携帯を操作して、隆聖のメールを鈴に見せる。そしてメールの内容を読んだ鈴はすぐに頷いた。

 「いいよ。ここ最近もなんやかんやで結局楠葉に電話しただけで、会いにいけなかったし」
 「じゃ、まずは道場にいる一夏を呼びに行こう」
 「分かったわ」
 目的地が分かった鈴は、踵を返してクリスの先頭に立って歩き出した。少し意外な表情して、クリスもすぐ彼女を追って隣に並んだ。

 「意外だな。てっきり一旦部屋に戻って色々と準備してくると思ったよ」
 「別に準備とかする必要ないわよ。財布とかはちゃんと持ってるし」
 「そうか? 女って、出かける前の準備だけで必ず一時間以上掛かると思ってた」
 「偏見なのよ、そういうの」
 鈴の一言で、クリスの固有観念は覆られた。やはりサバサバとした性格の持ち主である鈴は、そういう一般的認識に当てはまらないらしい。

 「あれ? 何あの人だかり」
 剣道部の道場の前に着くと、何故か外にある練習場に人だかりが出来ていた。全員が道場着を着ている所を見ると、どうやら剣道部の部員達らしい。
 ざっと見て二十人以上居るが、全員はクリス達がいるのと逆の方向に静かに向いている所を見ると、何かを見物しているようだ。

 「今日は日曜だろう……何この出席率」
 「知らないわよ……とにかく近くに行ってみよう」
 好奇心に駆られて、クリスと鈴は音を立てずに剣道部員達の方へ歩いて、端の方に並ぶ。

 「げっ」
 剣道部員たちの視線先にある光景が目に入った途端、クリスは一瞬で硬直した。
 「うん……誰なの? あのおっさん」
 「……まだ二十代よ、あの人」
 二人しか聞こえない小さな声で鈴の発言に訂正を入れて、クリスは視線を正面に戻して口を閉じた。

 広い練習場の中央に、銀髪の白人男一人が静かに佇んでいた。赤いコートの上からでも確認できるその筋肉隆々で大柄な体型、そしてその武人の風貌を見て、その男の名は直ぐクリスの頭に浮かんだ。
 (ゼンガー少佐はなぜここに……)

 IS学園の剣道部部員の視線の中、ゼンガー・ゾンボルトは目を閉じたまま、流れるような動きでゆっくりと腰に下げている太刀を引き抜いて、両手で頭の右横まで持ち上げて、両足を少し開いて構えた。
 生唾を飲み込んだ音がして、部員達は一層緊張した面持ちになってゼンガーを凝視する。

 目を開けて、ゼンガーは自分の前方に視線を向ける。
 ゼンガーの正面から数メートル先に、巻き藁が地面に垂直して刺されていた。その距離はとても太刀で届けそうにないが、ゼンガーと手合わせしたクリスは何の疑問も感じない。
 これくらいの距離、ゼンガーにとっては自分の間合内であった。
 一切の雑念を排除し、ただ標的を両断することに心を研ぎ澄ませて、全身に気を篭める。

 「チェストォォ!!」
 ガキィィィイン!
 身を震わせる掛け声と共に、甲高い金属音が響いた。

 視界に映っている光景を見定めると、ゼンガーは既に太刀を鞘に納めて、身を落ち着かせるように深呼吸していた。そして、地面には既に真っ二つに切り裂かれた巻き藁が転がっていた。

 瞬間移動でもしたかのような超高速の運足で踏み込んで、必殺の一刀を振り下ろすことで、全てを両断する威力を太刀に宿らせた。

 「あれ? もう終わりました?」
 「いつ切ったのか、全然見えませんでしたわよ?」
 「目を逸らしたつもりはないんだけれど……」
 ゼンガーが太刀を収めたのを見て、部員達は驚きの声を上げるのと同時にわさわさと騒ぎ始めたが、どうやらゼンガーの太刀筋を見切れる動態視力の持ち主は居なかったようだ。

 (また速くなってる……というか巻き藁の中身は金属だったのかよ!)
 両断された巻き藁の切断面からまるで磨いたような滑らかな金属の光沢を見えて、クリスも心の中で驚嘆していた。
 (この人は絶対普通の人間じゃない……イク○ー4だ!)

 「お久しぶりです。ゼンガー少佐」