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IS  バニシングトルーパー 015-016

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 さすがに挨拶くらいはすべきだと思って、クリスはゼンガーの元へ近づいた。ゼンガーもクリスとその後についている鈴の存在に気付いて、彼らに正面を向けた。

 「ふむ、クリストフか。久しぶりだな」
 「はい、お元気でなによりです。今日はどうしてここに?」
 「友がこの学園に用事があってな、俺はその付き添いだ。見学のつもりで一人で剣道部を訪ねてみた所、彼女に声をかけられた」

 「彼女……?」
 ゼンガー少佐の言葉を聞いて、クリスは首を傾けた。学園に自分以外にゼンガーの知り合いがいるなんて意外すぎる。

 「さすがです、ゼンガー少佐」
 ここ数ヶ月ですっかり馴染んだ声が後ろから聞こえて、振り返ってみると、
 「あっ、イク○ー5先生」
 後ろには自分の担任先生である織斑千冬と、道場着姿の一夏と箒が居た。そしてその後には剣道部員達は好奇心に満ちた目でゼンガーとクリスを見ていた。

 「イ○サー5って誰だ」
 「あっ、いえ……」
 今日は日曜なのに、クリスを睨み付けている千冬は結構正式な服装を着ていて、しかも顔には化粧した痕跡が微妙に残っている。

 「未熟の業で織斑教諭に笑われないかと不安でしたが、生徒達にいい刺激を与えられれば幸いです。『シシオウブレード』、お返しします」
 そう言いながら、ゼンガーは先程使っていた太刀を腰から取り外して、千冬に差し出す。

 「……利秋先生から頂いたこの『シシオウブレード』、私には勿体ないかもしれませんね」
 ゼンガーから差し出した太刀を千冬は両手で受け取って、大事そうに抱えた。

 「ご謙遜を。流派は違っても、織斑教諭の実力を高く評価しているからこそ、利秋先生は直々に鍛造した『シシオウブレード』を贈ったと思います」
 「そう……ですね。利秋先生の期待を裏切られぬよう、私も精進するしかありません」
 稲郷利秋はドイツで示現流剣道道場を開いている剣士であり、ゼンガーの師匠でもある人物。本人は既に60歳を超えているが、剣術においては今でもゼンガー以上の実力を持っている。

 「あれ、織斑先生とゼンガー少佐は知り合いですか?」
 知り合ってる風に話している二人の会話に、クリスが割り込む。

 「ああ、以前織斑教諭はドイツ軍でIS戦技教官として一年ほど滞在していたのでな、何回かお手合わせを願ったことがあり、大変ためになっている」
 「いえいえ、示現流の剣士は日本にも居ますが、ゼンガー少佐ほどの使い手は早々居ません。だから寧ろ沢山学ばせていただいたのは私の方です」

 「なるほど……」
 要は超人同士ってことか、と密かに心の中で呟くクリスだった。

 「ところで、クリスは剣道部に用事か?」
 「あっ、そうだった。お前に用事があった」
 ずっと黙っていた一夏に話しかけられて、ここに訪ねた目的を思い出したクリスは、携帯を操作して隆聖のメールを一夏に見せる。

 「うん、いいよ。素振りのノルマも終わったし。箒は……ってあれ?」
 誘いを快諾した一夏は箒に声をかけようとしたが、隣には既に彼女の姿が居なかった。視線を回りに巡らせて探すと、箒は既に道場の中に入って素振りを始めていた。
 どうやらゼンガーの剣術を見て、心に火がついたらしい。

 「ああなったら多分呼んでも無駄だ……仕方ない、俺達で行くか。ちょっと着替えてくる」
 「分かった。弾にも声をかけておいて構わんか?」
 「ああ、そうしてくれ。ゼンガー少佐、今日はどうも有難う御座いました!」
 ゼンガーに一礼した後、一夏は更衣室に向って走り出した。一夏を見送りした後、クリスはゼンガーへ向き直す。

 「ゼンガー少佐はこれからどうします?」
 「うむ。友と校門で待ち合う約束をしているので、そろそろ行かねばならんな」
 「丁度いい。クレマン、お前はゼンガー少佐を校門まで案内しろ」
 「先生はこれからお仕事ですか?」
 「ああ、先日の一件はまだ完全に片付けていないし。それに真剣を持ったまま校内をうろつくわけにもいかん」
 「わかりました。ときに織斑先生」
 「何だ?」
 「口紅、少しだけずれてま……っていたたたたたた!」
 「ふん」 
 顔が少し赤く染まった千冬と、アイアンクローをかけられて悲鳴を上げているクリスを見て、厳しい表情をしているゼンガーも顔を僅かに緩めた。

 「貴様達、ゼンガー少佐はもう帰るぞ!」
 「「「「ゼンガー少佐、有難う御座いました!!」」」」
 感謝の言葉を口にしながら、剣道部員達が一同に頭を下げた。そして、
 「 私、ゼンガー少佐のファンになりました! サインしてください!」
 「しゃ、写真もお願いしていいですか?」
 「きゃ~~! 握手してもらちゃった! 今日からもう手を洗わない!!」
 ゼンガーが反応する前に、女子達はマジックを持ってゼンガーを包囲した。
 どうやら武士の雰囲気が漂う渋い男が好みの女子生徒も少なくない。ドイツ軍の中でもゼンガーのファンが多いが、女子生徒みたいにストレートな表現をしてくる者があまり居ない。そのせいで、対応に慣れてないゼンガーも生徒達のリクエストに答えていくしかなかった。

 「遅かったな、ゼンガー」
 女子達に解放されてから校門まで急行すると、既に黒いスーツを着た男ひとりが黒いセダンに寄り掛かってゼンガーを待っていた。

 「すまん、ちょっと剣道部の生徒達とな」
 ゼンガーを待っていたのは、長い金髪を後ろに束ねて、独特な形のサングラスをかけている男だった。
 「やれやれ。若者との交流も大事だが、午後にはまだ予定はあるぞ」
 「面目ない」
 「まあいい、時間はまだ十分に間に合う。……うん?」
 視線をゼンガーの後ろに向けて、男はクリス、一夏と鈴の存在に気付いた。

 「お久しぶりです、エルザ……」
 「私の名はレーツェル・ファインシュメッカー、エルザムなどではない」
 挨拶しようとしたクリスの言葉を遮るように、男は自分の名を先に名乗った。
 
 「……はっ?」
 「レーツェル・ファインシュメッカーだ。それ以上でもそれ以下でもない」
 釘を刺すように、男はもう一度名乗った。

 「はあ……わかりました」
 一目で分かるほどバレバレの変装だが、エルザムの立場から考えれば、安々と名前を出したくないということでしょ、と自分に納得させたクリスは深く追及しないことにした。
 タイピンに付いているブランシュタインの家紋が凄く目立ってる気がするが。

 「ところでクリストフ君、その格好から察するに、これから外出か?」
 戸惑っているクリスに、レーツェルは別の話題を振った。後ろの一夏と鈴は制服姿だが、クリスだけの服装は明らかに外出用のものだった。
 「はい。ショッピングモール近くの店でバイトしている友達の所に」
 「そうか、なら私たちの目的地と近い。車で君達を送ろう。君ともちょっと話があるしな」

 「えっと……」
 レーツェルに返事する前、後ろにいる一夏と鈴の意見を求める。
 「せっかくだし、お言葉に甘えちゃおうよ」
 「弾には現地集合って伝えておくから」
 
 「という訳で、お言葉に甘えさせて貰いますよ」
 「何、遠慮はいらんよ。では、早速車に乗り込んでくれ」