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IS  バニシングトルーパー 017-018

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stage-17 出会い



「チッ」
 お酒が一杯に注がれたコップを指で回しながら、イルムは舌打をした。
 コップの中から漂う芳醇な香りは酒の品質の良さを主張しているが、彼の頭の中は不満が一杯でそんなことを気にしている余裕がない。
 「何だってこんな所に……」
 今の彼は小さな酒場のカウンター席で、一人で酒を飲んでいる。

 イングラムの指示で、イルムは一人で南米のテキサス州まで来ている。空港から出て、近くの小さな町に宿を取った。仕事の現場は近いので、明日は遅くまで寝られると思って、夜は町にある唯一の酒場を訪ねてみた。

 しかし、今はここに入ったことを心底から後悔している。

 カウンターの上は汚いし、誰かが食べ終ったガムが硬化して張り付いている。木製の椅子はちょっと揺れたら直ぐにでも崩れそう。地面が油っぽくてやや濡れている。

 そんなのは未だ容認の範疇内だ。重要なのはそこじゃない。

 入り口の前に泊まっている軍用ジープの列を見た時に気付くべきだった。

 ドアの前に立って野郎どもの粗野な言葉を聞こえた時は踵を返すべきだった。 

 折角の一人出張だ、こんな田舎な町でも地元娘の一人や二人軽く口説き落として遊んでみるつもりだった。

 しかし振り返って後ろの光景を見てみると、

 「野郎しかねぇ……」

 見事なまでに野郎しかなくて涙が出て来そうだ。

 小さな木製のテーブルを囲んで、アルコールで赤く染まった顔で酒を飲みながら罵り合ったり、ギャンブルしたりして、大声で騒ぐ野郎どもは、ほぼ全員軍服を着ている。

 (まあ、軍事基地の近くだからな……)
 この近くに、アメリカの軍事基地兼研究施設がある。ここにいる汚い野郎どもも、多分あそこの下級兵士だろう。

 しかし、この空気はどうも頂けない。
 兵士達の間に飛び回るフ○ックやらシ○トやらの言葉や痰を地面吐く音だけで、嫌な気分になる。これでは女を口説く所か、酒すら不味くなる。

 カウンターの中で、年寄りのマスターが無表情で静かにコップを磨いている。

 どうやら、これがこの酒場の日常らしい。

 「ちっ、さっさと飲んだら帰って寝るか」
 苛ついたような口調で、イルムは酒を口に含む。暗い照明のせいで、酒の色すらよく分らないが、口にしてみると中々に強烈で、思わず目を細める。

 「酒だけは悪くないな……」

 今、イルムは猛烈にフランスに戻って、アパートでリンと一緒にテレビ見て他愛ない話をしたい。
 因みにイルムとリンは同居しているが、部屋は別々だ。それもリンのツンデレ表現の一環だとイルムは思っている。
 「大体イングラムの人扱いが荒すぎる。今度帰ったら絶対休暇申請書を出してやる。くそっ、クリスの奴も今頃青春やってんだろう。師匠をおいて一人でハーレム天国かよ……うん?」

 イルムが愚痴を零している最中に、酒場のドアが開いて、新しい客が入ってきた。

 「うひょ~!!」
 兵士の中の誰かが下品な歓声を上げて、それをサインに場が一気に静かになり、全員が入り口の方に注目した。

 「やれやれ、ついて来るなっつってんのに」
 「いえ、隊長の護衛も仕事だったりしちゃいますのことですので」
 「……敬語はもういい」

 入ってきたのは、男女のペアだった。
 女の方は中々の美人だ。翡翠のような緑長髪、まるで作り物のような綺麗でセクシーな五官、そしてその黒いタンクトップとジーンズの上から明白に確認できるグラマラスなボディで、男性の欲を刺激してしまう。
 兵士達は口笛を吹いていやらしく笑う。

 そして彼女の隣に経っている居るのは、赤い髪の垂れ目男だった。イルムにとってはどうでもいいが。

 兵士達からの好奇心に満ちた視線を無視して、二人はイルムから二つ離れたカウンター席に腰を下ろして、飲み物を注文した。

 (こりゃ、絡まれるな……)
 首を動かないまま、イルムは横目で二人を観察する。

 服装や言動からして、地元人じゃないのが直ぐに分かった。それにそうでないと、こんな下級兵士の溜まり場で女を連れて来るような迂闊な真似はしないはず。

 「よう、姉ちゃん。こっちに来て一緒に飲もうぜ」
 「そうだ~隣に兄ちゃんより満足させてやるぜ。うひゃひゃひゃ」
 案の定、十分も経たないうちに兵士達が嫌らしい笑みを浮かばせて酒を持って女に寄ってきた。どいつこいつもデカイ図体して、筋肉を見せ付けるように軍服のボタンを外していて、胴体を晒している。

 しかし、女はまったく動じることなく、ただ静かにフルーツジュースを啜る。隣の男もまったく反応することなく自分の酒を楽しむ。

 「おい姉ちゃん、聞いてんのか?」
 女の相手もしない態度にイラついて、兵士の一人が手を伸ばして女の肩を触ろうとする。
しかし、その一瞬で女が動いた。
 「汚い手で私に触れるな」

 「いってぇぇぇぇ!!! てめえ!!」
 女の冷たい声と同時に兵士は悲鳴を上げて、まるで沸いたお湯に触ったように自分の手を下げた。

 よく見ると、その兵士の手には細いナイフ刺さっていた。しかも形からして戦闘用、果物ナイフではない。

 (ほう……)
 イルムは心の中で驚嘆した。あの女がナイフ兵士の手に刺した時の動き、一瞬しか見えなかった。

 「このくそアマ、調子に乗りやがって。落し前はどう付けてくれるんだ、あぁ~??」
 痛みで歪んだ顔しながらも、兵士は強引にナイフを手から引き抜く。流石は軍人と言った所か。
 しかしそれを見たほかの兵士達も一斉に立ち上がって、あの男女ペアを囲んできた。

 「……ダブリューワンセブン」
 「申し訳ございやせんでござんす、隊長」
 隣の赤髪男は自分の酒を凝視したまま、責めるような口調で声を発した。口にした言葉はどう考えても人の名前ではないのに、女はそれに反応して謝罪した。

 「……まあいい。貴様は外で待っていろ」
 「はい」
 赤髪男に言われて、女は席から立って出口へ向う。それを見た兵士達は彼女を掴もうとしたが、赤髪男の手によって阻まれた。

 「今日はちょっと暴れたい気分だな、これが」
 酒を一気に喉へ流し込んだ後、赤髪男は席を立って兵士達に対峙する。

 (やれやれ、大丈夫かね~)
 少し離れている所で、イルムは黙って酒を啜ってこの場面を見守る。ざっと見た限りでは、兵士達は十五人程度。そして対峙している赤髪男はただ一人で、女は既に指示された通り外に出た。
 あの女の腕はかなりのものだったから、隊長と呼ばれるこの赤髪男もかなり強いだろうが、いくらなんでも十五人はまずい。まして相手は軍人、ナイフや拳銃も携帯している。

 カウンターの中を覗いて見ると、マスターは相変わらず無表情でコップを磨いている。

 どうやらそういう場面もべつに珍しくないらしい。

 (どうする? さっさと退散するか、それとも……)
 赤髪男の背中を眺めて、イルムは自分がどうするか迷っていた。

 「兄ちゃんよ、女の前で格好つけてぇのは分かるが、この状況じゃ無理はしない方がいいぜ?」
 「そうそう、小便をちびる前に土下座して命乞いをしろ。それで腕1本で勘弁してやんよ。まっ、女は貰うけどな」

 「お喋りは苦手だ」