IS バニシングトルーパー 019
stage-19 四天王が出来たと思ったら実は違った
「これは、一体どういうことだ」
「はっ?」
箒の不機嫌さが混じった声に、一夏は呆然としていた。
今は昼休みの時間。そしてクリス、一夏、隆聖、シャルル、箒、セシリア、鈴は全員屋上に居る。因みに箒と鈴以外の面子は一夏が連れてきた。
箒本人は一夏と昼飯二人きりで食べるという約束をしたつもりだったが、一夏の方は彼女の真意を全然気付いてないので、いつものメンバーに声をかけた。
幸いのことに、まるで洋式庭園のような綺麗な屋上は今日他の生徒もいなくて、完全な貸切状態なので、逸早く状況を読めたクリスは隆聖、シャルルとセシリアを連れて少し離れた所のテーブルを囲んだ。
そして一夏の側に残っているのは、互い睨み合って火花を散らしている箒と鈴。二人の手の中に抱えている弁当箱と思われるものを見る限りでは、二人は手作りの弁当を持参してきた。
端から見れば軽い修羅場にしか見えない。
「やっぱり一夏はここでもあんな感じなのか」
少し離れた所で、隆聖はパンを齧りながら事態を静観していた。
「まっ、飯は大勢にっていうのは嫌いじゃないが、あの鈍感さはダメだな」
頭を横に振りながら、クリスはビニル袋からパンを取り出して包装を破る。
「すまんなお二人、初日にいきなりパンなんて」
シャルルと隆聖を歓迎するということで、晩御飯の時は控えめの歓迎会をやるつもりだったが、昼は練習機搬入作業のせいでパンしか買えなかった。
「大丈夫だよ。僕はパンが好きだし。むしろいきなり奢ってもらって申し訳ないくらいだよ」
「そうだぜ。ISの練習に付き合って貰った上に昼飯まで、感謝してる」
「あの、クリスさん? 今日はわたくし、サンドイッチを作って来ましたけれど、宜しければ、その……」
体をもじもじして、セシリアは照れくさそうな表情で自分が持ってきたバスケットをテーブルの上に置いて、蓋を開けた。
中には、美味しそうなサンドイッチが綺麗に並んだいた。
「へぇ~セシリアって料理ができるのか。知らなかったな」
「い、いえ、今日で初めてですわ。その、クリスさんに食べて欲しくて……」
耳までトマトのように真っ赤に染まった顔をうつぶせて、セシリアの声が段々小さくなり、やがて蚊みたいな声になって聞こえなくなった。
よく見ると、指には複数の絆創膏が張られていた。中々べたな王道パターンである。
初めてという単語にやや引っかかる感じがするが、女の子の手作り料理を一口も食べずに決め付けるのはクリスの主義じゃないので、とりあえずバスケットから一個だけ手に取った。
サンドイッチの外見自体はちゃんとしてる。いや、むしろ店のサンプル写真より見栄えがいい。写真を撮って飾っても問題ないレベルだ。
しかし料理は見た目で判断してはいけない。それはクリスが過去の経験から得た結論だ。
「女の子に料理を作ってもらえるなんて、クリスも中々隅に置けないな」
「へぇ~美味そうだな。羨ましいぜ」
確かに第三者から見れば、これは恋する乙女が思い人のために頑張ったという微笑ましい光景にしか見えないから、シャルルと隆聖が冷やかすのも無理はない。しかし、
「隆聖に羨まれる筋合いはないな。前の学校では楠葉に作ってもらってるだろう?」
「はぁ? 違う違う。以前は自炊かパンの二択だよ」
「えっ? そうなのか?」
「まっ、中学の頃楠葉に何回か作ってもらった事があるけどさ……食後は必ずお手製ドリンクが出てくるから」
「なるほど」
最初は意外に思ったが、隆聖の説明を聞いた後すんなりと納得した。あの強烈すぎるお手製ドリンクがに、隆盛が白旗を上げるのも無理はない。
「最初はクラスの男子達が代わりに飲んでくれたが、結局全員一回飲んだ後二度と飲んでくれなかった」
楠葉の外見なら十分可愛い美少女、男子全員が彼女に近づくために生贄になったのも不思議じゃない。しかし一夏と弾はどういう経緯で飲んだのか、やや気になる。
「あの、クリスさん、早く食べて感想を……」
隆聖と話しこんだクリスに、セシリアは顔を上げて催促を入れた。
「あっ、すまん」
セシリアの期待に満ちた視線の中、クリスは手に持っているサンドを一口齧る。
「……」
無表情のまま、クリスは咀嚼する。
「……」
手で口元を押さえて、セシリアは緊張した面持ちでクリスを凝視する。
「「……」」
場の空気に呑まれて、シャルルと隆聖も自分の食事を忘れて二人を静観する。
「……美味しくない」
十分に咀嚼した後、クリスは淡々と結論をセシリアに突き付けた。
「えっ」
「見た目は百点だが、味は全然ダメだ」
「そんな~!」
まるで信じられないみたいに、セシリアもサンドを一個取って口に運ぶ。しかし一口たべた後、彼女は自分の作った最終地獄を知った。
「うぇ、これは酷い味ですわ……」
一瞬気絶してしまいそうな味だった。青くなった顔をうつぶせて、口を押さえる。流石に淑女たるもの、食べたものを吐くなんて真似はしない。なのでなんとか紅茶で喉に流し込んだ。
「そんな……頑張りましたのに……」
バスケットの蓋を閉じて、セシリアは悔しそうな表情で肩を落とした。
「まっ、気持ちだけでも嬉しいよ。料理なんてまた練習すればいいし」
そんな落ち込んでるセシリアに、クリスは左手を彼女の頭に置いて優しく撫でる。
「クリスさん……」
「パンはまだ余ってるから、今はとりあえず昼食を済ませろ」
「まだ練習しますから。その……今度まだ私の料理を食べていただけますか?」
「出来次第だな。進歩なしなら当然もう食べない。だから次からはちゃんと味見してからな」
「はい!」
クリスに励まされて立ち直ったセシリアは、嬉しそうに笑った。
「クリスって、飴と鞭の使い分けが上手いね」
食事を再開した後、シャルルは唐突にニヤニヤした顔で、小声を使ってそう言った。
「自分なりに一番適切な対応を取ったまでだよ」
「でもちゃんとセシリアのことを考えているでしょ?」
「まぁ……今の所女子の中ではセシリアが一番仲がいいからな。そりゃこれくらいの配慮はするさ」
「……なんかお前、そういう所はちょっと一夏に似ているな」
二人の会話を聞こえた隆聖が会話に入ってきた。
「失敬な! 俺はこれでもカザハラ塾の出身だ、あんな唐変木と一緒にしないで頂きたい!」
だがその指摘は、クリスにとって聞き捨てならない内容だった。
「しかしまぁ、この学園も男が増えてきたな。全部で四人、四天王とか作れるな」
食べ終わったパンの包装袋を畳んで、クリスは感慨深そうに遠い目をしていた。情報封鎖されて暗躍してきたクリス、ニュースに取り上げられて全世界に知られた有名人一夏、デュノア社から来た情報がやや不透明のシャルル、そして四天王の中でもっとも弱い存在にされそうな隆聖。
「そういえば、隆聖お前お母さんの方は大丈夫か?」
以前から知っていた通り、隆聖の母さんは病弱体質だ。息子が全寮制の学校に来たら、さぞ一人の生活では不安なのだろう。
作品名:IS バニシングトルーパー 019 作家名:こもも