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IS  バニシングトルーパー 019

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 「一応、お袋の最高級病院での治療費と生活費を政府が負担してくれるって条件で此処に来たんだ。念のため楠葉の方にも頼んである」
 「そうか、大変だな」
 とは言え、強引にR-1を日本政府通して隆聖に提供するため、実際負担しているのはイングラムのハースタル機関だろう。

 「そうでもないさ。ここでISに乗って勉強するだけで、最低限三年間の俺とお袋の生活が保障されるんだぜ? バイトしながら通学よりは楽さ」
 「ふん、お前のそういうポジティブの所、好きだよ。何か困ったことがあったら言ってくれ、相談に乗る」
 「そいつはどうも。いざって時は頼らせてもらうよ」

 「男の子の友情って、なんかいいな」 
 互いに信頼し合っている二人に、シャルルは羨ましそうな目で見ていた。

 「何を言っている、お前も男だろう。困ったことがあれば言ってくれよ、手は貸すよ」
 「そうだぜ。俺もまだ新入りで金もないけど、一応家事とかが得意から、何か悩みがあったら、遠慮なく言えよ」
 「クリスさんの友人なら、わ、私の友人でもありますわ。お二人ともは何かありましたら、遠慮せず言ってくださいまし」

 「皆さん、ありがとう……本当に」 
 自分に対して親切な態度を示した人達に礼を述べながら、シャルルは心底から嬉しそうに笑って見せた。


 午後のメンテ実習、さらに放課後の自主練習の後、親しいメンバーだけが食堂で控え目の歓迎会を始めたか、いつの間にか一組と二組の生徒がほぼ全員参加してきた。隆聖とシャルルが一気に人気者になったのはいいが、クリスまで二組の女子達と仲良くなったので、歓迎会の間セシリアにずっと睨まれていた。

 「じゃ、改めてよろしくね、クリス」
 「ああ、よろしくな、シャルル」
 ギリギリの時間まで続いた歓迎会の後、シャルルはクリスと同じ部屋に戻った。同じ男同士ということで、シャルルがクリスと相部屋、隆聖が一夏と相部屋ということになった。

 因みに先ほど隆聖と一夏もこの部屋に遊びに来たが、今日は疲れたという理由で、隆盛が実家から持ってきた抹茶を作って貰った後二人はさっさと帰った。なので今はシャルルとクリスの二人で抹茶を飲みながらまったりしてる。

 「うん、初めて飲んだけど結構美味しいね、抹茶って」
 「そうだな。普段あまり自分でお茶とか淹れないけど、偶に飲んでみるのも悪くないな」

 日本男子二人組の抹茶は中々の好評だった。クリスは普段ジュースやスポーツドリンクなどで、あまり日本茶とか飲まないし、シャルルは抹茶自体が初めて。

 「そう言えば駅前に抹茶カフェを見かけた気がするな」
 「そうなの? どうなメニューがあるの?」
 「うん~分からないな。ちょっと調べてみよう」
 側にあるノートパソコンを開けてキーボードを叩いて、抹茶カフェのホームページを開く。
 「へえ~メニューは結構充実してるだな。今度一緒に行って見ようか? 一夏達も呼んで」
 「いいよ、僕も行って見たい!」
 単にクラスメイトとの遊びの約束だが、シャルルの凄く喜んでるように見える。

 「決まりだな。……あっ」
 右手側にある携帯を取って一夏の都合を聞こうとするが、携帯電話はクリスの手のひらから滑り、地面に落ちた。

 「有難う。最近メンテナンスしてないからな、ちょっと鈍くなってるかもしれん」
 シャルルが拾い上げてくれた携帯を受け取って、クリスが自分の右手袋を外して、金属の義手を露出させた。

 「あっ」
 それを見たシャルルは、小声で自分の驚きを表現した。

 「ああ、すまん。気味悪いでしょ。メンテはベランダでやるから」
 「ううん、そんなこと絶対にないよ!」
 必死に頭を振ってクリスの配慮を却下したシャルルは、心配そうな顔してその義手を見つめる。

 「それ、痛くない?」
 「別に。この義手を俺のために作った専用品で、一般人が使うものより遥かに高性能だ。うちのバイオ部門のスタッフは優秀だからな。主任はとんだマッドだけど」
 苦笑いして、クリスは義手の指を動いてシャルルに見せる。一般医療用の義手は長時間に着用できないし、精密な動きもできないが、クリスの義手は一部のIS関連技術を転用しているため、高いコストと引き換えに本物の手のように動けるし、痛みもない。しかし機械である以上、ある程度のメンテは必要だ。

 「あの……それって、ヒュッケバインの起動実験で?」
 「よく知っているな、極秘なのに。さすがはデュノア社の御曹司って所か」
 「ヒュッケバインMK-IIのテストパイロットは僕が勤めていたからね」
 「なるほど。所で机の上でメンテしたいけど、いいか?」
 「あっ、ああ、どうぞ」

 一応シャルルの了承を取った後、クリスは机の引き出しからメンテ工具を取り出して、左手を使って手馴れた動きで義手を分解して、清掃した後オイルを塗る。
 「何か手伝いが必要か?」
 「いや、いいよ。慣れてるし。それより耐えなくなったら言ってくれ。今度から別の所でやるから」

 しかしシャルルはまるでクリスの言葉が予想外で、不思議に思ってるような表情になった。
 「クリスは考えすぎよ。元々クリスの部屋でしょ? 僕に気を使わなくてもいいのに」
 「まあ~せっかくの可愛いルームメイトだし、嫌われたくないじゃないか」

 「か、可愛いって、からかわないでよ! 僕は男ですよ?」
 クリスに可愛いと褒められて、顔が真っ赤になったシャルルはやや怒ったような大声を出した。

 「♪~♪~~」
 丁度このタイミングで、クリスの携帯が鳴った。着信メロディと共に、液晶ディスプレイが光る。

 「悪い、ちょっと取ってくれるか?」
 「あっ、はい」
 携帯はクリスの右手側にあるので、シャルルが携帯を取ってクリスに渡す。その時、クリスの携帯の待ち受け画面がシャルルの目に入る。
 優しく微笑んでいる長い黒髪で綺麗な女性だった。

 「サンキュー」
 シャルルから携帯を受け取って、ボタンを押して耳に当てる。
 「はい、クリストフです」

 「よっ、クリス。俺だ」
 「イルムさん?」
 電話の向こうから聞こえたのは、久しぶりの会社先輩の声だった。目をシャルルの方にやると、彼は既に自分のベッドに座って、無言に荷物の整理を始めた。

 「どうしたんですか? いきなり電話なんて」
 「いや、暇だから話相手が欲しくて」
 「暇? だからって男の俺に電話とは珍しいですね。マオさんはいないんですか?」
 「実はな、俺今アメリカのヒューストン基地の近くで一人で任務中だ。因みに昨日はお風呂に入ってない」
 「どうでもいい情報を教えないでくださいよ。というかヒューストン基地と言ったら、プロジェクトTDの人達が居る基地じゃないですか」
 「まぁな。物騒な情報を掴んだからここで見張っていたが、今の所は何も起こってないし。暇で暇で仕方がないのだよ」
 
 「大丈夫ですか一人で。マオさんも一緒に行ってもらえばいいじゃないですか」
 「俺を甘くみるなよ? 壱式があればなんの心配もいらねえよ。それにリンまで連れてきたらナンパもできんだろうか」