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IS  バニシングトルーパー 022-023

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 「な、に……」
 目の前に展開していく光の粒子の中から現れたのは、白き黄昏騎士の腕だった。


 一方、第二アリーナでは、シャルロットとレオナとの模擬戦が白熱化していた。

 「これなら、どうかな!」
 「狙いが甘いわよ!」
 オレンジと蒼の機影が飛び回り、二人の間に激しい銃撃戦が繰り広がられている。結構な長い時間粘った後、最初の互角は段々とレオナの優勢に傾けてきた。
 ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを使うシャルロットの利点は多彩の武装と武器切り替えの早さ、そして攻防両方に安定した戦闘スタイル。対してズィーガーを纏うレオナは武器の種類こそ少ないが、ブレードレールガン二丁だけで至近距離の切り合いから近中距離の射撃まで全部こなせる。

 「うわッ、まだ対応された?!」
 「武器の種類は確かに驚くほどに多い、しかし当らなければ意味がなくてよ!」
 シャルロットが新たに呼び出されたアサルトライフルの連射を、レオナはスラスターを噴かして精密な動きで回避する。
 武器数を抑え、装甲数を削った結果、機動性においてズィーガーはラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを遥かに上回っている。加えてレオナの豊富な経験と優れた反応速度によって、シャルロットが出した武器は次々と簡単にかわされていく。

 (流石だな……このままじゃ負けちゃうよ!)
 アサルトライフルもバズーカも当らないし、接近戦を挑んでもそのブレードレールガンの下部についている実体剣に捌かれる。距離を取ろうにも、向こうの機動性が遥かに上だから逃げられない。
 ショットガンやマシンガンで何回か当ったが、それも大したダメージを与えられずに、すぐ通用しなくなった。それに引き換え、レオナの方は威力こそ低いが、そのブレードレールガンの銃弾を一発一発確実に当ててくる。
 誰かれ見ても、レオナの勝利は確実だ。だが、シャルロットはまだ諦めていない。

 「武器の半分以上は弾切れ、エネルギーシールド残量10%、チャンスは多分一回だけ。ただの分の悪い賭けだね、これは」
 苦笑いを浮ばせて、シャルロットは片手のサブマシンガンを連射させて、片手でグレネードランチャーを握ってレオナへ突進した。一発逆転の切り札はまだあるが、まずは距離を詰めないと使えない。
 案の中、サブマシンガンの掃射に対してレオナは横へ避けながら反撃するが、その回避方向に向ってシャルロットはグレネードをばら撒いて、更にサブマシンガンでそのグレネードを狙い撃った。
 パァァァン!!

 「何っ?!」
 複数のグレネードの爆発によって発生した大量の爆炎で、一瞬だけレオナの視界が遮られた。
 それと同時にシャルロットは左腕シールドの裏に隠している切り札を作動させて、機体の最大推力を搾り出す。
 「これが僕の、切り札(ジョーカー)だよ!!」
 真っ直ぐにレオナへ突進して、叫びと共に左腕を振り出す。
 その腕装甲についているのは、69口径のリボルバー式パイルバンカーだった。火薬交換による連続打撃で撃ち貫けないシールドは無い。こいつの攻撃力なら命中すれば一発で逆転できる。
 しかし、物事そう上手くいかないのが現実というもの。シャルロットのこの一撃がレオナに届くことは、なかった。

 「なっ!」
 最後のチャンスを賭けた一撃は、レオナが交差して構えた二丁のブレードレールガンによって防がれ、この長い杭はレオナの鼻先に止められた。
 「落ちなさい!」
 「うわぁ!!」
 奇襲のつもりがあっさり見切られて呆然としているシャルロットを、レオナは躊躇なく地面に蹴り落とす。

 「まっ、まだだよ! 僕は……あっ!!」
 地面から身を起こそうとして目を開けると、シャルロットの視界に入ったのは、レオナが構えているブレードレールガンの銃口だった。
 倒れているシャルロットと、彼女の前に立って銃を突きつけてくるレオナ。
 分かり易い勝者と敗者の構図だった。

 「悪くない判断だったわ。突進力がもう少しあったら私の負けだったわね」
 あくまで冷静の態度で、レオナは自分がシャルロットの行動に対しての意見を述べた後銃を収めて、地面に座っているシャルロットへ微笑みかけて、自分の手を差し伸べた。
 「……いい勝負でしたわね。今度まだ手合わせ願うわ」
 「あっ、はい。またお願いね」
 レオナの手を掴んで、地面から立ち上がったシャルロットは何とか愛想笑いをして誤魔化す。
 
 「では、私はこれで失礼するわ」
 「はい、また」
 ズィーカーを待機状態に戻したレオナは、シャルロットに別れの挨拶をして、アリーナの入り口の方へ向った。
 
 「あっは……負けちゃったよ。ハァ……」
 レオナの後ろ姿を眺めつつ、 壁際に寄り掛かったシャルロットは乾いた笑い声を零した後、深いため息のついた。
 確かな強さを持ちながらも謙遜を忘れない心構え。負かした相手をも冷静に評価して素直に認める器量。そして教養の良さが滲み出ているその気品。
 何だか、自分では本当に適わないとが思えてきた。
 周囲を見回して、クリスの姿が見えない。
 今頃何処で何をしているのだろうあの女の敵。会いたい時に側に居ないなんて。

 「……残念だったわね、シャルル・デュノアくん」
 突然に、上の観客席から声をかけられた。目を向けると、そこに立っているのは三十代女性一人だった。白衣を着ている所を見ると、どうやら技術者のようだ。
 そしてシャルロットの顔を真っ直ぐに見据える彼女の目は、興奮の色が滲み出ている。

 「……どちら様ですか?」
 「私の名前はマリオン・ラドム。ISの開発技術者でしてよ」
 シャルロットの前に立っているこの三十代の赤髪女性が、アメリカのラングレー研究所でゲシュペンストシリーズの開発を続けているマリオン・ラドム博士だった。

 「それより、貴方は自分の敗因のついてどう思ってるのかしら?」
 簡潔に名乗った後、マリオン博士はシャルロットに問いかける。
 「それは……相手の動きに対する先読みが甘かったことと……」
 「違うわね」
 「えっ?!」
 「センスは中々悪くないのですが、貴方の機体ではあれが限界だった。それだけのことよ」
 「そ、そんな……」
 シャルロットはちゃんと自分の愛機に愛着を持っているが、専用機の中ではやや古い第二世代に属しているため、マリオン先生の指摘も間違っているとは言い難い。

 「でもその思いっきりの良さが気に入ったわ」
 嬉しそうな顔で、マリオン博士はシャルロットに微笑みかけた。
 「……私のMK-III、乗ってみる?」