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IS  バニシングトルーパー 022-023

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 以前一回だけ彼女の研究室で、果物ナイフでリンゴの皮を剥いた後、ナイフを彼女の机に忘れたことがあったが、翌日取りに行く時何故かナイフがチェーンソーになった。ナイフのサイズのままで。
 あと、夫への不満と仕事で溜ったストレスを発散するために作ったブーストハンマーを自分の腕で振り回して、研究室の壁を壊した。
 そもそも指向性対人地雷をクリスマスプレゼントにするのは止めて欲しい。
 決して悪意を持つ人間ではないが、考えがちょっとついていけない。

 「行きたくない……」
 以前マリオン博士の提出したゲシュペンストMK-IIIとMK-IVのプランを閲覧したことがある。あのスペックでは体に負担が掛かりすぎるし、武装も癖が強すぎる。
 しかも今度は「最高傑作」と来た。一体どんな化け物を持ってきたんだ、想像するだけで嫌な汗が止まらない。

 「とりあえず帰るまでは隠れていよう。さすがに長期滞在はしないだろうから」
 そう呟いて、初めて来た最後の楽園である保健室のドアを開ける。

 「あら、来たわね、少年~」
 保健室の中に入ると、机の前に座っている人間がクリスに声をかけた。
 金髪のポニーテールをしている二十代の女性だった。
 白衣の中に着ているいくつか前ボタンが外れた白いシャツの隙間から、セクシーな下着と豊満な谷間を覗かせ、さらに黒いパンストに覆われてるその成熟した肉感を持つ長い足が組んでいるため、赤いミニスカの奥が見えそうで見えない際どい位置にある。
 年頃の性少年には刺激が強すぎる。普段なら生唾を飲む所だったが、最近はシャルロットとレオナの件であまりそういう気分じゃないクリスはこの色気満点の先生の誘惑をスルーすることにした。

 「はい。ちょっと眩暈がしますので、少しの間寝ててもいいですか?」
 そう言ったクリスは先生の返事も聞かずに、ベッドの上で横になって自分に毛布をかけた。
 「あっ、あれ?」
 先生は何か調子抜けたような声を上げたが、気にしない。

 目を瞑って寝よう、起きたらきっと晩御飯の時間だ。「AMサーバント」の設計作業もまだ終わってないし、今日は少し夜更かししても大丈夫だろう。シャルロットには怒られるだろうけど。
 とにかく、マリオン先生が帰るまでアリーナには行かないようにしよう。

 突然に、髪が撫でられる感じがした。同時に、ほんのりとした香りが鼻に入ってくる。

 「ん……?」
 目を開けて見ると、さっきの先生がベッドの縁に腰を下ろして、クリスの顔を覗きこんできた。
 「ちょっと、こっちが頑張ってるのに、スルーは酷くない? ぶうぶう!」
 むすっと頬を膨らませて、先生は抗議しているようにわざとらしい不機嫌そうな顔を見せる。

 「……先生今年幾つですか?」
 「あらら、年上好み?」
 「否定はしませんが、さっきの顔は十代の子だけに許されるものです」
 「し、しどい! 乙女のプライドと純情がズタズタに! ちょっとアンタ、そんなんじゃ女の子にもてないわよ!」
 「つい先日、もう好きな子以外に優しくしないと決めたばっかりです」
 「あら奇遇ね。私も好きな子しか誘惑しないタイプだよん?」
 「どうでもいい話ですね。五時になったら出て行きますから、それまで寝かせてください」

 再び目を瞑って、顔を枕に沈める。これ以上相手したくない。
 目が覚めたら食堂に行こう。今日は何食べようか。
 晩御飯のメニューを考えているうちに、意識が段々と薄れて来た。

 「……っ」
 突如、誰かに頬を突かれた感触を感じた。
 多分あの先生だろう。まったく何がしたいんですか。そんなに構って欲しいのか。
 確かに綺麗でセクシーな人ですが、今はそういう気分じゃない。

 「……本当に申し訳ありませんが、今日は気乗りしませんので、どうしても相手して欲しいならまた後日改めて伺わせていただきますので今日の所は……ってうわ何してるんだ!!」
 拒否の言葉を述べながらうすらと目を開けると、視界に映っている光景に眠気が一気に飛んだ。

 「ぅふふ……大人しくしててねん。痛くはしないから~」
 あの先生が自分のシャツとスカートを脱ぎ捨てて下着姿でベッドに上がり、妖しげな笑みを浮かばせてクリスに迫ってきた。

 「ちょちょちょ、止めてください。俺は……って、あれ!?」
 流石に身の危険を感じたクリスは上半身を起こしてうしろずさろうとするが、その時に自分の体に異常を感じた。
 全身の筋肉にまったく力が入らない。必死に身を起こそうとしても、結局はベッドに倒れたまま動けない。
 「まさか、さっきの香りが……」
 さっき鼻に入ってきたあの香りのことを思い出す。多分、あれは麻酔気体だったのだろう。
 完全に嵌められた。この女も多分保健室の先生ではなく、外部の人間だ。

 「はい、正解~! 賢いクリスちゃんには、エクセレン先生が特別に禁断な課外補習してあ・げ・る!」
 そう言って、エクセレンと名乗った女はクリスの上に乗りかかって、艶っぽい笑みを浮かばせてクリスの制服ボタンに慣れた手付きで次々と外していく。

 「くっ、俺の名を知っているのか。どこの所属だお前は……」
 「うふふ~それは、ヒ・ミ・ツ!」
 抵抗もできずに服が次々と脱がされていく中、せめて時間を稼げないかと会話してみたが、彼女の手は止まらない。やがて上の服が全部脱がされてクリスの上半身が裸になった後、エクセレンはその胸板に白い指先を這い滑らす。
 「わお~逞しいのね。初めてでも大丈夫、全てお姉ちゃんにお・マ・か・せ!」
 
 まるで獲物を品定めしてるように妖しげな微笑みを浮ばせて、エクセレンは自分の唇を舐めた。
 しかし、彼女はクリスの胸元にぶら下げている待機中のエクスバインにはまったく興味なさそうに見える。

 (訳が分からん……まさか本物とても言うのか?) 
 体は痺れたまま抵抗もできない。だが、体を使わずに抵抗する方法なら、一つだけあった。
 「……もうその辺にしてくれないかな? 俺にも好きな子がいるので、さすがにこれ以上はちょっと遠慮したい」
 「あら、そうなの?」
 意外そうな顔で、エクセレンは指の動きを止めて目を丸くした。
 
 「はい。だから止めよう、なぁ? そもそもこれ以上の男女関係はお互い深く分かり合い好感を持ってかつ同意の上で行うものであり、決してそんな軽々しく『なお燃えるわ!!』……って聞いてねぇ!!」
 最後の説得も火に油だった。更に火がついてクリスのベルトに手をかけるエクセレンに、クリスは仕方なく最後の手段を取った。
 「くっ!!」
 光の粒子を発生させて、エクスバインボクサーの一部を展開する。背部フレームに接続されているボクサーの腕をエクセレンへ伸ばす。
 体は動けないが、意識を集中すれば一回くらいの奇襲をかけられる。上手く相手を拘束できれば、後は麻痺の効果が切れるのを待てばいい。だがこれがかわされたら、本当の意味でもう手も足も出ない。
 しかしやはり体調のせいか、ボクサーの腕の動きはやや鈍く感じる。

 「わお~凄いわね! でも乱暴はダ・メよん~!」
 襲ってくる巨大な腕に対して、エクセレンは慌てずに耳に飾っているイヤリングを光らせる。