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IS  バニシングトルーパー 024

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stage-24 困惑



「まったく、着替えくらい普通にさせてくれ。本気で焦ったぞ」
 パイプ椅子に腰をかけて、クリスは強引に着替えされられたISスーツの襟元を整えながら、眉を寄せて不満をぼやいた。
 喰われるかと思ったら、ISスーツに着替えさせられた。
 セキュリティ万全のこの学校に潜入してくることはないだろうと思って、すっかり油断していた。まさか正式な手続きで入ってきた相手に嵌められるとは。今では麻酔の効果が既に切れたが、体にまだ少し痺れが残っている。
 そう思って、クリスは自分の目の前でにっこりと笑っているISスーツ姿の女性・エクセレンを睨みつける。
 「それで、ゲシュペンストMK-IIIの適格者は見つかったのか?」

 「それがまだなのよね~だからこうしてあなたを攫って来た訳」
 クリスの睨みを笑い流しつつ、エクセレンは両手を開いて肩を竦めた。
 「……俺を攫ってどうするんだよ。例えMK-IIIに適格できても、アメリカの支援を受けてるわけでもないし、立場の理由で正式なパイロットにはなれない」
 そもそも昨日の適格テストの参加者もアメリカの支援を受けている二、三年の生徒に限定したけど、専用機を持ってない生徒は多いから、こういうチャンスがあればきっと大量に群がってきたはずなのに、一人も見つからないとは。

 「まぁ……MK-IIIはあんな感じな機体だし、仕方ないのよね。でも本当にどうしようかしら」
 と言いつつも、搬入室の中においてある大きなコンテナを見下ろしてるエクセレンの横顔は、まったく焦っているようには見えない。
 それはMK-IVの操縦者として、自分のパートナーとなる人物には妥協したくないからだろう。
 ゲシュペンストMK-III「アルトアイゼン・ナハト」、そしてゲシュペンストMK-IV「ヴァイスリッター・アーベント」、この二機は連携して戦うことを前提に設計した機体である。MK-IIIは前線でかく乱と強襲をかけ、MK-IVは後方で支援砲撃や狙撃などを担当する。両機が上手く連携を取るため に、パイロット同士の相性はかなり重要だ。

 「エクセレンさんも大したものだよ。あのMK-IVのパイロットになれるなんて」
 「やだ~年下の男の子に告白されるなんて、照れるわね。よし、お姉ちゃんサービスしちゃう」
 手を頬に当てて照れてるような仕草を見せたエクセレンはクリスに寄ってきて、頬に手を添える。
 「結構だ。それよりマリオン先生は何処に?」
 「さぁ~私にクリスを捕獲してきてって指示した時はここに居たのに。散歩かしら」
 「そうか……ではそろそろ夕飯の時間なので俺はこれで」
 椅子から立ち上がって、クリスはエクセレンに警戒しつつモニター室の出口へ向かう。

 「あら、逃げるの?」
 「マリオン先生がいないじゃないか。今日はもう遅いし、明日また来るから」
 「でもせめて顔を合わせないと、私がマリオン博士に吊られるのよ」
 「そうか……じゃ、マリオン先生に吊られて新しい世界の扉を開いてください」
 「うふふ~これを見ても、まだそんなことを言えるのかしら?」
 得意げな顔で、エクセレンは自分の携帯を操作して、液晶画面をクリスに見せる。そしてそれを見たクリスの顔は真っ青になった。
 「それは……!!」
 携帯のディスプレイに映っているのは、なんと上半身裸にされたクリスと、彼の上に乗りかかっている下着姿のエクセレンだった。
 「最初からこの写真を撮るつもりで俺を襲ったのか……」

 「ぅふふ~さてどうする? あなた好きな子が居るって言ったよね? これを見たら彼女はどう思うのかな~?」
 愉快そうに笑うエクセレンの顔は完全に悪人面だった。一方クリスは顔の汗が止まらない。
 こんなややこしい時期にそんなものばら撒かれたら、どうなるか想像もつかない。
 
 (どうする? ISの使って一気に取り押さえて、携帯を強奪するか? しかし……)
 さっき保健室で分かったが、彼女のIS展開速度はかなり速い。同じ展開速度でもこの距離で奇襲が成功する確率は低いだろう。
 なら、まずは十八番の買収、戻い、話し合いと行こう。

 ポケットから紙切り二枚を取り出して、エクセレンへ差し出す。
 「仕方ない。その写真のデータを、これと交換しないか?」
 「何それ」
 「ケーキバイキングの招待券だ。二枚あるからマリオン先生と一緒に明日にでも行ってくれ」
 そして腹いっぱい食べてそのままアメリカに帰れ。
 「わお、気が利くわね。ケーキは好きよん」
 エクセレンは嬉しそうにチケットを受け取って、チケットに書かれている文字を確認する。

 「はい、という訳でデータを削除してください」
 「いいわよ。ただし……」
 意地悪そうな顔で、エクセレンは自分のISスーツの胸元を開いて、その携帯を自分の谷間で深く挟んで、挑発しているようにクリスを見て笑った。
 「……自分の手でやってね」
 
 (こ、この女……)
 提示した交換条件を受け取ったということは、相手の要求を呑むということ。交渉において信用が第一だぞ。なのにこの女はちゃっかり招待券を自分のジャケットのポケットに入れておいて、まだそんな真似をするとは。
 いいだろう、そっちがその気なら。
 相変わらず余裕たっぷりな笑顔をしているエクセレンの肩をそっと掴んで、クリスは彼女を壁際まで押し詰める。

 「まったく、こんなことばっかりしていると、いつか後悔するよ」
 そう言いつつ片手でエクセレンの肩を掴んだまま、同時に彼女のその豊満な谷間へ手を伸ばして、携帯の一端を指で摘んだ。
 後はそれを抜き出してデータを消すだけ。それが済んだらさっさと学食に行こう。シャルロットは待っているだろうな。練習をさぽったことも謝らないとな。
 しかしその前に、視線をクリスの目から彼の後に移ったエクセレンは、勝ち誇ったように笑った。
 「……先に後悔するのは、あなたかもね」

 「何をしているの?」
 突然、背後から凍り付いたような冷たい声が聞こえた。
 「……っ!?」
 慌てて振り返ってみると、そこには青筋を立てているシャルロットと、呆れた顔をしているマリオン博士が居た。


 「ふう……」
 ジャージのチャックを閉めて、レオナはシャワールームを出て洗面所の鏡の前に立って、まだ使い慣れてない新しいドライヤーを起動して髪を乾かす。
 鏡の中に映ってる自分の顔を見て、肌の手入れを始める。手入れを終えた後、洗面所を出て寝室に戻ると飲み物が欲しくなったのて、お茶を淹れた。
 
 「もう七時か」
 壁にある液晶時計に一瞥して、そう呟いた。
 同室のルームメイトは机の前で夢中に小説を読んでいるから、邪魔しないようにお茶を彼女の手元に置いて、自分のベッドに腰をかけた。
 湯のみの中にある、淡い緑色の日本茶を凝視しながら、のんびりした時間を堪能する。
 
 (日本茶を飲むのって、何か久しぶりだったな……)
 昔によく茶菓子目当てで、ライディースと一緒にエルザムの妻であるカトライアに茶を淹れてもらってた。その時の楽しい記憶は、今でも鮮明に覚えている。