IS バニシングトルーパー 024
シャルロットのベッドの横に立って、その無防備な寝顔を見つめながら、クリスは苦笑いを浮ばせた。
「どうすればいいんだよ、俺……」
寝ているシャルロットを見て独り言のように呟いた後、クリスは着替えを持って洗面所に入った。しばらくして、微かに水音がシャワー室から聞こえた。
「……意気地なし」
寝ているはずのシャルロットの唇からもらした切なそうな呟きは、クリスの耳に届くことはなかった。
「この白式って機体、中途半端すぎて気に入らないわね」
「はぁ……」
クリスのノートPCにあるレポートを閲覧した後そう呟いたマリオン博士に、クリスは適当に迎合した。
本当は「AMサーバント」のデータを見て欲しくて持って来たのに、なぜか話題が逸れてしまった。
「刀一本で戦うなら、もっと防御力と突進力を強化すべきよ。今のままでは戦い方が極端でも、機体本体はその高い出力を活用できていなくてよ」
「でも装甲が厚過ぎると、接近戦での運動性が下がりますから……」
「なら装甲を可脱式にすればいい。緊急時に排除して高機動モードにシフトする。この際だから、ついでに左腕にガトリング砲、右腕に大型格闘武装を付けてみたいわね」
「……本人に言ってください」
学園側の立会人として来ている千冬と真耶は隣の操作台でマリオン博士とクリスとの会話を聞いて、微妙な顔になった。
今は土曜の午後、ここは第四アリーナのモニター室。いつもなら生徒達がグラウンドで自主練習に励んで時間だが、マリオン博士が学園側と交渉して、一時半からの四十分間だけ貸しきりにしてもらうことになっている。
目的は、ゲシュペンストMK-IIIとMK-IVの連携をテストするための模擬戦。
「そうね。後で本人と話してみるわ」
椅子を回転して、マリオン博士は視線をノートPCからクリスと彼の後ろにいる、腰まで伸びる金髪の少女へ移る。
「……この子が、あなたが選んだ今回の模擬戦のパートナー?」
「はい。ゲシュペンストMK-IIIとMK-IVのコンビにあわせて、こっちも接近戦型と射撃支援型で行きます。彼女はイギリス代表候補生ですから、実力の方も大丈夫かと」
「初めまして、セシリア・オルコットです」
一歩前へ出て、クリスの隣に立ってマリオン博士へ挨拶した少女が、今回クリスが連れて来たパートナー、セシリアだった。
「ああ、初めまして。ところであなたの機体について……」
「ああそう言えば先生! 今のMK-IIIって、以前うちで提出したプランと違いますね。肩装甲の形とか、背後バーニアの配置数とか。MK-IVの方も」
マリオン博士の言葉から危険を感じたクリスは、慌てて話題を変える。
「当たり前よ。あのプランからもう何年立ったと思ってる。そりゃ改修くらいするわよ」
長年の怨念を昇華させた結果が、今のゲシュペンストMK-IIIとMK-IVってわけだ。
「にしても、あいつが適格できたとはね……」
メインモニターを見上げると、そこには連携練習中の二機のISが映っていた。
片方は白と赤の配色の装甲と、五枚の高性能反重力ウィングを持つ黄昏の白き騎士、ゲシュペンストMK-IV「ヴァイスリッター・アーベント」を纏ったエクセレン・ブロウニング。セシリアのスターライトMK-IIIと同じくらいの長さをしている大型ライフル「パルチザン・ランチャー」を槍のように振り回している彼女は、にやにやとした笑顔を浮ばせて、今回のパートナーを何かを話しているようだ。
そしてそのパートナーとは、白と青を基調をした重装甲の下に、見た人がぞっとする程大量なバーニアが内蔵されている夜の蒼き狼、ゲシュペンストMK-III「アルトアイゼン・ナハト」を纏ったシャルロット・デュノアだった。巨大な回転式弾倉パイルバンカー「リボルビング・ブレイカー」の弾薬装填を確認している彼女は、微妙に浮かない顔していた。
「完璧とまでは言えんが、昨日の稼動テストでは合格ラインをクリアしているわ。元の戦闘スタイルはMK-IIIと違うが、エクセレンと上手く連携を取れれば大丈夫でしょ」
「でも、例え条件をクリアできても、シャルルの立場ではゲシュペンストMK-IIIの正式パイロットにはなれませんよ」
「それについては問題ない。本当にMK-IIIに相応しいなら、アメリカへ移籍させるわ」
「……はっ?」
「強引な手を使ってても、ね」
マリオン博士の目が、怪しげに光る。
「……」
マリオン博士ならやりかねないが、本当にシャルロットが嫌なら無理強いはしないだろう。でもその前にシャルロットは本当にどう思ってるのか。
そう言えば、卒業したらシャルロットはどうするつもりだろう。
ふっと、この疑問がクリスの頭に浮んだ。
髪を掻きながら、壁にある時計を見上げる。
模擬戦の予定時間まで後十分。グラウンドの生徒達は既に退場して、観客席に腰を下ろした頃だろう。
そろそろ行かないと間に合わない。そう思って、クリスはセシリアの肩に手を置いて、声をかけた。
「そろそろ行こう……今日は勝つぞ、セシリア」
「はい!」
作品名:IS バニシングトルーパー 024 作家名:こもも