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IS  バニシングトルーパー 024

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 顔がにやけるのを極力気付かれないように頑張っても、箒の表情はかなり嬉しそうに見えた。それを気付いたクリスも、思わず口元を吊り上げた。
 「……まだ新しいレシピが調べたくなったら何時でも言ってくれ。パソコンとプリンターくらいはいつでも貸すからさ」
 「あっ、ああ。ありがとうな」
 「気にするな。友達だしな。それにお前には料理の才能がありそうだから、いつか一夏のついでに俺にも何か作ってくれれないい」
 「覚えておこう。でも才能も何も、レシピ通りにやれば似たような味になると思うが」

 「そうでもないさ」
 女の子の手料理を食べて救急室に運び込まれた時のことを思い出して、クリスは遠い目になった。
 エルザム少佐にレシピを教えてもらったって言うから、完全に油断してた。そういえばセシリアの初料理も悲惨なものだったな……お嬢様タイプのお約束って奴かもしれない。
 「世の中にはどんなに頑張っても殺人料理しか作れない奴がいるんだよ。従兄にその辺の才能を吸い取られたかもしれ……あたっ!」
 話してる途中、鈍音を聞こえたのと同時に後脳に痛みを感じたクリスは、自分の頭を抱えた。そして次の瞬間、地面に空き缶一つが落ちて甲高い金属音を立てた。

 「……」
 どうやらこのアルミ缶が自分の頭に直撃したようだ。頭を抱えたまま周囲を見回ると、誰もいない。
 「大丈夫か!?」
 地面にある空き缶を見て、箒も素振りを止めてクリスの方に来て心配そうな顔で訊ねた。
 「別に大した痛みはないし、大丈夫だよ」
 痛い所に手を当てたまま、クリスはペンチから腰を上げた。
 「……長い時間邪魔したな、そろそろ戻るよ。篠ノ之も程々にな」
 「あっ、ああ……また明日」
 手を振って箒と別れて、クリスはその場所を後にした。花壇に沿ってゆっくりと歩いて、小道を抜けていく。

 クリスは別に料理のできない女の子が嫌いって訳じゃない。ただ、不味いものをはっきり不味いと言わず、無理に食べても誰もためにもならないと思っているだけ。
 率直な感想を言っただけなのに。

 「ハァ……」
 深いため息を付いた後、横にある大きな樹に背を寄り掛かって、
 「……空き缶を投げつけることなかったんじゃないかな、レオナ」
 自分の後ろに立っていた人物に話しかけた。
 「貴方が余計なことを喋ったからよ」
 白い月光の下、夜風に吹かれ乱れた髪を手で梳きながら、レオナはそう返事した。
 散歩のつもりで適当に歩いたら聞き覚えのある声が耳に入って、柄にもなく立ち聞きしてしまった。


 「学園生活、上手くやってる?」
 「……」
 何を話せばいいか分からないから、クリスは取り合えず無難な話題を振ってみたが、レオナはキツイ視線で彼を睨んだまま何も返事しない。

 「何か困ったことはないか?」
 「……」
 「にしてもさすがはレオナ、ジャージ姿でも絵になるな。ちょっと待って、写真撮るから」
 「はっ!!」
 「ぐはっ……!」

 携帯を取り出した途端、突撃してきたレオナのキックを喰らった。そして次の瞬間クリスは胸倉を掴まれて樹に押さえつけられた。
 「五日間も放っておいて、言うことそれだけ?!」
 「お前が嫌そうな顔してたから、話しかけて欲しくないかな、と思って」
 「だから何なの? それでも付き纏ったのがあなたでしょう!」 
 「……ごめん」
 この女、ツンデレを演じれば何でも許されると思ってるんだね。こっちが許すか許さないかって立場じゃないけど。

 「情けない男ね」
 気が少し済んだようなので、レオナはクリスの胸倉を掴んでる手の力を緩めた。顔が不機嫌なまま視線を下へ向くと、クリスの右手袋が目に入った。
 「……その手、どうしたの?」
 さすがにこの暑い天気、右手だけ手袋しているのは不自然だ。
 「あっ、いやこれはその……仕事の時にちょっとな」
 慌てて背中に隠そうとしても、先に動いたレオナに右手を掴まれた。
 「……っ!!」
 その手袋を越して伝わってくるのは、硬い金属の感触。一瞬で、レオナはその意味を理解した。
 「あなた……本当に馬鹿ね!!」
 「くわっ! 暴、暴力反対……」
 鳩尾にレオナの肘撃ちが直撃した。苦しんでる中、クリスはせめての抗議をするが、
 「黙りなさい!」
 今度は膝蹴りが来た。正に一方的な暴力である。

 「この馬鹿! あの時私言ったわよね! ドイツに残りなさいって! 一緒にエルザム様の元で働こうって!!」
 「む、無理だよ……俺にも立場ってもんが……」
 ヴィレッタ姉さんに優しく面倒を見てくれて、イングラム社長は期待をしてくれた。裏切ることなどできない。
 「その結果がこれよ! こうなると分かってたら、最初からあなたを帰らせなければよかったのよ!!」
 「だからそれは無理だって……」
 「だったら最初から私に近づいかないでよ! どうして私の心に踏み込んで来て、結局帰って行くの? 無責任だと思わないの?」
 「ごめん……とにかく殴るのをやめてくれ……」
 顔だけを殴らないでくれたのがせめての情けだったかもしれない。さすがにこれ以上殴ったら問題になると思ってのか、レオナは一旦手を止めて、
 「この馬鹿……!」
 弱々しい声で呟いて、もう一度クリスの胸板を掴んでそこに顔を埋めた。
 その時、クリスはレオナの手首につけている見覚えのあるブレスレットを気付いた。

 「……あの時はすまなかった。突き放すような言い方をして」
 自分の服の胸の部分が暖かいものに濡らされたのを感じて、自分の左手でレオナの背中をそっと撫でると、クリスは彼女の肩が小刻みに震えているのを気付いた。
 「でもさっきも言ったように、お前がエルザム少佐の元で働きたかったのと同じ、俺はイングラム社長とヴィレッタ姉さんの役に立ちたかった。結果としてこれでよかったんだ」
 「……よかった?」
 クリスの言葉を聞いたレオナは、一瞬で肩の震えが止まった。彼女の口調に含まれている怒りのようなものを気付かないふりして、クリスは言葉を続ける。
 「ああ。でもあんな別れ方だったから、こうして再会できたのは嬉しいけど、何を話せばいいのか分からなかったんだ。距離を取ったことについては、謝るよ。もしお前がよければ、昔のような友達関係に戻ろう」
 「……友達?」
 「ああ、友達だ。今はこれ以上……ってうわぁぁ!!」
 言葉が終わる前に、唐突な浮遊感と共にクリスは自分の視界が上下反転していることにデジャヴを覚えた。

 「またか! またなのか!」
 背負い投げ、再び。今回は何とか受身を取れたが、それでもコンクリートの地面に叩きつけられた痛みは半端じゃない。
 「くあっ!!」
 「あなたって最低だわ!!」
 クリスを見下ろしてそう言った後、レオナは早足で去って行った。
 
 
 「麻酔薬、部屋から閉め出され、殴打に背負い投げ。何て一日だ……」
 レオナが去って行ったあと、何とか立ち上がったクリスが自分の部屋に戻った時は三十分後のことだった。
 部屋に入ると、シャルロットは既に自分の布団の中で安らかな寝息を立っていた。

 「やれやれ……」